第25話 俺、空を見上げる
そして、ガルガン。
運ばれてきた巨大クラーケンを前にして、今度は別の問題が発生した。
「これ焼ける火力、ある?」
「ないです」
リュネが即答した。
「ですよね」
「……あるぞ」
「え?」
空から巨大な影が降ってきた。
古龍だった。
「なんで来たの!?」
「イカの匂いがした」
「匂いかよ!」
「昔から好きでの」
「結構でかいよ? おじいちゃん」
「ふん。焼くくらいなら、まだワシでもできる」
古龍は大きく息を吸った。
「ちょ、待って、火力調整――」
ゴオオオオオオオオオッ!!
「強い強い強い強い!!」
広場全体が真っ赤に照らされる。
巨人たちが歓声を上げ、妖精たちが笑い、人魚たちが歌い、妖狐たちは早くも酒を開け始めた。
***
そして、今に至る。
「……うまい」
俺は目の前のクラーケン焼きを噛みしめた。
普通にうまい。大味のイカという感じだが、香ばしくて弾力があり、噛めば噛むほど味が出る。
「熱くないですか?」
「大丈夫です」
隣ではリュネが、俺用に小さく切ったクラーケンを皿へ置いてくれていた。それを箸でつまみながら、俺は周囲を見渡す。
巨人、人魚、妖狐、妖精、古龍。
旅の途中で会った奴らが、なんだかんだ全員ここにいた。
みんなで同じクラーケンを食べ、酒を飲み、歌って、笑っている。
「……なんだこれ」
「うふふ」
「リュネ? どうしたの?」
見ると、リュネはとても嬉しそうに笑っていた。
「なんか、すごいなあって思って」
「何が?」
「この前まで、喧嘩してたのに」
「……ああ」
視線の先では、バルドが東方の皇帝に念力で巨大な酒を注がれ、えらく楽しそうにしていた。
俺はただ、チートが欲しくてここまで来た。
いろんな国を回って、いろんな種族に助けてもらった。
その結果、その種族たちが今、ウン千年ぶりに一つのでかいイカを囲んでいる。
誰が予想しただろうか、こんなこと。
俺は半分夢でも見ているような気持ちで、ビール的なものをぐびっと飲んだ。
その時だった。
広場の中央に鎮座していた、まだほとんど原形を残す巨大クラーケンの本体が、淡く光った。
「……え?」
ざわめきが広がる。
巨大な身体の周囲に、白い光がまとわりついていく。
「何これ」
光は次第に強くなり、やがてクラーケンの巨体が、ほんのわずかに浮いた。
「…………」
ずるずると。
少しずつ。
「え」
クラーケンが、空へ吸い込まれていく。
「ええええええ!?」
俺は思わず立ち上がった。
「持ってくの!?」
「おお」
古龍が、懐かしそうに目を細める。
「そうじゃった。こうなるんじゃった」
何十メートルもある巨大なクラーケンが、ゆっくりと空へ吸い上げられていく。
「……物理的に持ってくんだ……」
やがて最後の足まで、完全に空へ吸い込まれた。
次の瞬間。
空が裂けた。
「…………」
白い光が縦に走る。
雲が左右へ押し退けられ、その向こうに、見たこともないほど真っ白な空間が現れた。
きっと、あの先だ……ずっと探していた。
「……神の国」
胸の奥が熱くなった。
やっと。
やっとだ。
これで俺は、強くなれる。




