↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺YOEEE!〜最強種族たちに愛でられまくる異世界転生ってアリですか〜  作者: うらねこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/26

第20話 俺、古龍に会う

 俺は、雲より高い山の頂にいた。


「……で」


 足元は岩。目の前には古龍。そして、後ろには――


「…………」


 誰もいない。


 さっきまで俺の腕を掴んでいた妖精たちは、古龍の姿が見えるなり、あっさり俺を地面へ下ろしていた。


「じゃ、ばいばーい!」


「え?」


「またねー、人間」


「待って待って待って」


 妖精たちは羽を光らせながら、次々に空へ舞い上がっていく。


「いや、ちょっと!」


 俺の制止なんて聞くはずもなく、妖精たちは楽しそうな笑い声を残して雲の向こうへ消えていった。


「…………」


 一気に静かになった。


 聞こえるのは、山頂を吹き抜ける風の音だけだ。


 俺はゆっくりと前を向いた。


 岩場を覆い尽くすように、巨大な黒い龍が横たわっている。黒い鱗は岩みたいに厚く、頭からは何本もの角が伸びていた。


「…………」


 帰りたい。


 ものすごく帰りたい。


 今すぐリュネの膝に帰りたいし、なんなら巨人族の国の広すぎる客室でもいい。


 俺は反射的に胸元へ手をやった。


 服の下には、小さな白い石がぶら下がっている。それをぎゅっと握ると、少しだけ足の震えがましになった。


「……あの」


 震える声で問いかけると、古龍の閉じていた瞼がゆっくり持ち上がった。


 荘厳に深く光る金色の目が、俺を捉える。

 そして、古龍は口を開いた。


「……お迎えか?」


「え?」


 想像の百倍覇気のない声が、弱々しく放たれた。


「ワシももう……いよいよか……」


「……はい?」


 古龍は、思っていたよりずっとヨボついていた。


「だって、人間よのう、おぬし」


「人間です」


 古龍はしばらく俺を見つめた。


「……え、生きとる? 生きとる人間?」


「生きてます」


「……そうか。もういないもんだと……すまんかった……」


「あの、それって……」


「そうじゃ……」


 古龍はゆっくりと目を閉じた。


「かつて、人間は……」


 俺は古龍が語り出すのを、固唾を飲んで見守った。


 そして。


「……ぐう」


 安らかな寝息が聞こえてきた。


「いや待って待って待って! 寝ないで!」


「何じゃ」


「そのヒキで寝ないで!!」


 俺が古龍の足をペチペチ叩くと、古龍は再び目を開けた。


 金色の瞳が、じっと俺を見る。


「いやあ、百年寝たくらいでは足りんよ……ふおおおおお」


 古龍はでっかいあくびをすると、改めて俺を見つめた。


「……誰じゃったかの」


「まだ名乗ってすらないです!」


「そうか」


「佐久間直人です。ナオト。生きてる人間です」


「人間……」


 古龍はまた考え込んだ。


「おった気がする」


「気がする」


「小さかった」


「あなたからしたらね」


「そして、力を欲しておった」


「…………」


 古龍は空を見上げた。


「そうじゃ。おった」


 さっきより少しだけ、声がはっきりしていた。


「お前のような人間が」


「俺みたいな?」


「弱くてのう……すぐ死にそうで」


「はい」


「怖がりで」


「はい」


「そのくせ、強くなりたい強くなりたいと、うるさかった」


「…………」


 他人とは思えない。


「その人……強くなったんですか?」


「なった」


「どうやって?」


「神に貰った」


 心臓が、どくんと鳴った。


「……神!?」


 古龍が顔を伏せる。


 俺は思わず、巨大な鼻先の前まで近づいた。


「そ、その人、神の国に行ったんですか!?」


「そういうことじゃ」


「どうやって!?」


「そいつは、そりゃあ、強うなった」


「どうやってって聞いてるの!! ねえ!」


「力も、魔力も、みなぎって」


「どうやって行ったのって! ねえ! おじいちゃん!?」


 俺の質問なんて聞こえていないみたいに、古龍は懐かしそうに続けた。


「空を飛び」


「海へ潜り」


「岩を砕き」


「ほとんど、老いもしなかった」


「……」


 俺は、ごくりと唾を飲んだ。それは、まさに俺が欲しかったものだった。


「……すげえ」


 思わず声が漏れる。


「じゃあ、その人、英雄とかになったんですか?」


「英雄」


 古龍は、その言葉を口の中で転がすように繰り返した。


「そう呼ぶ者も、おった」


「じゃあ」


「勇者とも呼ばれておった」


「勇者!」


 めちゃくちゃ王道じゃん。俺が本来なるはずだったやつかもしれない。「勇者」という待ち望んだそれっぽい響きに、胸が高鳴った。


「その人、魔王とか倒したんですか!?」


「あー、なんかそんなやつおったな」


「魔王めっちゃ影薄いな」


「とにかく、人間は、よう戦っとった」


「魔物とかいますもんね!?」


「うむ、初めは魔物と」


「はい」


「次は、悪人と」


「……はい」


「その次は、自分に逆らう者と」


「…………」


 そこで俺は、口を閉じた。

 風が吹き、雲が山の下を流れていく。


 ふと、メイランの顔が浮かんだ。俺を見る、切れ長の目。


「あんた、随分勇敢だね」


 思えば、何かを確かめるような目だった。

 まさかと思いつつ、聞かずにはおれなかった。


「その勇者……妖狐とも会ってました?」


「妖狐?」


「はい、メイランという」


「うーん、知らんなあ」


「そうですよね……」


「妖狐は名前も姿も変えるからのう」


 古龍は懐かしむように、遠くの空を見た。


「じゃが、昔、人間にやけに構う狐はおった気がする」


「え?」


「微笑ましかったのう」


 古龍は微かに微笑んだ。


「ああ、懐かしい……」


 そう言って、また目を閉じる。


「おじいちゃん!? 待って! まだ本題が! あの!」


「……」


「待って、せめて帰り道!!」


「……」


「おじいちゃーーーん!!!」


「……ぐう」


「いや、起きて!!!」


 俺は必死に古龍を叩いた。今から万が一、百年寝られては死ぬ。


 で、ここで良いニュースが一つ。


 古龍は割とすぐに目を覚ました。


「……誰じゃ、無礼者」


 そして、悪いニュースが一つ。


 その目は、また俺を覚えていなかった。


「我の眠りを妨げるとは……」


「え、あの、ちょ」


 さらに悪いニュースが一つ。


 今回の寝起きは、凄まじく機嫌が悪そうだった。


「この、蝿が」


 古龍は右の爪を振り上げた。


 その瞬間、俺ははっきりと死を覚悟した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。