第12話 俺、前世のスキルが役に立つ
「つきましたよー!」
諸々省略なんやかんやで、目的の宿場町についたらしい。
「うおお……」
ガルガン領内では、東方の国境に一番近いというその宿場町は、活気に満ちていた。
人間サイズの種族が多い。香辛料らしき荷台を引いていたり、露天を出したりしている。
しかし、その人間サイズの露天で、巨人が買い物したりしているし、その逆も見かけたりした。
ここに、妖狐が来ている。
散々な評判を聞いていたので、少し緊張してきた。それを紛らわすように、リュネに話しかける。
「あの……妖狐の使者とは、どこで落ち合うんですか?」
「落ち合う?」
「こんなに広いし、人……っていうか獣人?が多いと、わかんないですよね」
「ああ! それなら……」
そこで、リュネは固まった。
「まさか……」
「……ご飯屋さん……なのは確かで……」
「確かで……?」
「父上が言うには……アツアツが美味しいそうです……」
「……何が?」
リュネはそこで、頭を抱えてしまった。
アツアツが美味しい。
そのヒントだけで、この宿場町の飲食店から、待ち合わせの店を炙り出さなければいけない。
俺は大通りを見た。
飲食店の看板が、大量に軒を連ねていた。
ほぼ、詰んでいた。
だが、幸い、俺が歩く速度が遅かったにしても、リュネの近道が早すぎたので、使者との待ち合わせの時間までは、半日以上あった。
「……ごめんなさい……」
「いえ、俺もバルドに聞いておくべきでした」
「私……聞いてたはずなんですけど……あんまり聞いたことのない料理名だったので……」
「そういうこともありますよ!」
「お父様に、どう言う店なのか、何を売ってるのかとか、ちゃんと聞き返しておけば……」
「大丈夫ですって」
「せめて、せめて店名を紙に書いておくべきでした……!」
リュネがやたらとメソメソしているので、俺はさすがにどうにかしたかった。
俺は、ちなみに、前世でなんのブラック労働をしていたかというと、お茶の飛び込み営業である。なお成績は、入社以来ぶっちぎりの最下位だ。
しかし、だからこそ。
邪険にされるのには、慣れていた。
俺はとりあえず、飲食店を片端から訪ねることにした。
俺の前世のブラック会社の社訓。
「そんなことあるわけなくても、聞いてみろ」
毎朝斉唱させられて染みついた、その理念だけを、武器に。
***
「あのすみません! ここのお店、アツアツが美味しいですか!」
「そうに決まってんだろ! ハンバーグ屋だよ!」
「すみませんでしたぁ!」
***
「ここのお店アツアツがおすすめですか!?」
「んなわけねぇだろ、目ェついてんのか! ジェラート屋だよ!」
「失礼しましたァ!」
***
「ここのお店アツアツがおすすめですか!?」
「頭でも打ってんのか! ステーキ屋だよ!」
「アツアツがおすすめですか!?」
「ハァ!? 冷え冷えに決まってんだろ! 雪男のヒエヒエステーキって書いてあんだろ!」
「はじめて社訓が生きた!!」
「シャクンってなんだよ! 食わねえなら出てけ!」
「お邪魔しましたぁー!!」
***
こうして、飲食店のほとんどで聞き取りを行い、店を絞る事ができた。
俺は人間用のサイズの長ベンチに座り、情報を整理した。
そして結果は。
ハンバーグ屋、ステーキ屋、パスタ屋、あとガチで聞いたことない謎料理などなど、26の店舗でアツアツがおすすめだった。
このうちの一店舗で、今日の夜、待ち合わせだった。そしてすでに、日は傾きかけていた。
「……店多すぎて全然絞れなかった……」
ベンチで頭を抱える俺の向かいで、しゃがみ込んだリュネが、頭をぽんぽんしてきた。
「そんなことないです、ナオトはすごいです。知らない人に声をかけて……」
「全然すごくないよ……ビビりまくってたし……てか大体、どの店もアツアツがうまいに決まってるよな……」
「でも、ほら、確率は上がりましたよ!」
俺が店の名前を書き込んだ紙を覗いて、リュネが言った。
「というか、妖狐って何が好きなんでしょうね?」
「確かに、好物から絞れるか??」
「妖狐……狐、ですよね」
「あー狐なら、おいなりさんとか? それなら、うどん屋かなぁ」
すると、俺の真後ろから声がした。
「狐ならおいなりさんとは、初めて聞いたよ」
「え?」
振り向くと、俺の座っているベンチと背中合わせのベンチに、女の人が座っていた。
俺より少し、小さいくらいのサイズ感で、頭には、黒い笠のようなものをかぶっていた。
その後ろ姿は完全に、人間のようだった。
その女は、ゆっくり振り向きながら言った。
「私だったら、アツアツの……」
そして被っていた笠を、するりと外した。
「ワンフェンションホンと、いきたいとこだね」
その頭から、ぴょこんと二つの耳が現れた。
それはどこからどう見ても、狐の耳だった。
あと結局、ガチで知らん料理だった。




