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嘘つき女子大学生と嘘つき男子大学生が相思相愛にならないことを前提に付き合った末路  作者: 神経水弱


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第9話 水斗 大学2年生 4月その2


「速水くん、塩義さんのことな、好きやねんてー!」


「ちょっ!先輩っ!」


 慌てて隣りの席を見ると、「まじか!」「速水がんばれー」と俺を持てはやしながら立ち上がる三年生の男性陣と、その後ろで呆けたような顔をして小首を傾ける塩義さんが見えた。


「いや、あの、違くて!先輩が勝手に──」


 弁解してる最中にばんっ、と肩を叩かれる。


「ほら、塩義さん一人になってしまうから早よ行ったりや」


 櫻木先輩は満面の笑みだった。


「そんな無茶苦茶な」


 隣の席から男性陣もにやにやしながら、こちらに押し寄せてくる。


「速水どけどけ」


「早く行ってあげないと、塩義さんが可愛いそうだよ」


 先輩たちと早鐘を打つような胸の鼓動に急かされながら、渋々立ち上がり、靴を履いて、塩義さんの座席へと向かう。

 無表情でスマホの画面に視線を向けている塩義さんは近づき難いくらいに綺麗だった。

 そんな彼女と至近距離で、しかも二人きりだなんて、自分を保てそうにない。

 無理だろ。と内心で悟り踵を返したが、元いた席にもう座る席はなかった。ただ三年生の男性陣に起こされ、囲まれている七里と目が合いと、七里は笑顔のまま中指を立ててきた。

 そんなやつは無視して、俺は他に座れる席がないか辺りを見回していると、塩義さんから声を掛けてくれた。


「あっちの席じゃなくいていいの?」


 ぴくりともしない表情でスマホの画面から目を離さず、ウーロン茶を少し口に含む。


「さっきの、君が私を好きだって話、冗談だってわかってるから」


「ごめん。その…迷惑だったよね」


「別に気にしてないわ」


 スマホに視線を向けたままあっさりとした口調で続ける。


「とりあえず、席に戻れば?」


「そうしたいのは山々なんだけど、戻る席がなくて」


 俺がそう言うと、塩義さんはようやくスマホから顔を上げた。

 切れ長の瞳が俺の元いた席を一瞥し、視線がこちらへ向いた。

 その瞬間、心臓が跳ねた。

 何一つ気取っていないのに、なぜこんなにも目を奪われるのだろう。


「そっ。ならそこに座れば?」


 塩義さんは目の前の席を指差す。


「えっ」


「従業員さんの邪魔になるし、それに私が君をいじめてるみたいじゃない。まあ嫌なら無理強いはしないけど」


「いやっ、そんなことはないですっ」


 塩義さんの言葉はまるで魔力を含んだ言葉のように硬直していた俺の身体をつき動かした。

 靴を脱ぎ、彼女の席の前ではなく、敢えて斜め前に座る。ただでさえ六人席に二人きりという状況に、おこがましさでしかないのに、目の前に座る勇気なんてあるわけがない。

 それでもやはり視線は意思とは関係なく彼女へ向いてしまう。

 黒を基調にしたワンピースはどこかお嬢様っぽいのに、本人の無表情さのせいか不思議と気取った感じはしない。

 白い襟から覗く細い首筋は妙に目を引くし、肩口まで流れた艶のある黒髪も相まって、近くで見ると想像以上に整った顔立ちだった。

 けれど本人はそんな俺の視線など気にも留めず、ただ静かにスマホを机の上に置き、グラスへ口をつける。

 

──やっぱり綺麗だな。塩義さん


 そう内心で呟いてしまった瞬間、塩義さんの黒目がこちらに向いて、思わず視線が交わってしまう。

 蛇に睨まれた蛙の如く、ぴたりと動けなくなってしまう俺から、視線を外した彼女はぽつりと口にした。


「さっきから何?」


「えっ…」


「えっ、じゃなくて。じろじろと視線を感じて不快なのだけれど」


「あぁ…ごめんなさい」


 彼女の鋭い言葉に、俺はばっと前を向く。自然と正座にもなる。

 会話が途切れて、塩義さんを視界に入れないように、向いてしまおうとする身体に力を入れて制御する。

 なんとかして、塩義さんを視界に入れないように俯いたまま、もう何分経ったかわからないくらいだった。


「櫻木先輩、行ったわよ。追いかけなくていいの?」


 斜め前から飛んできた声に顔を上げると、塩義さんは相変わらずスマホの画面を見ていた。

 それほどにまで煩わしいのかと思い、口を開いた。


「あの別に俺、櫻木先輩のことどうも思ってないので。あ…でも、やっぱりお邪魔でしたよね。すみません。さっきいた席空いたみたいなんで戻りますから」


 そう言うと、塩義さんはスマホをテーブルに置いて、箸でサーモンを摘んで口に運んだ。

 小さく咀嚼し、ウーロン茶を飲むとこちらに視線を向けた。


「別に邪魔じゃないけど、私と一緒にいるよりかは、違う人といる方が君にとって何倍も有益だと思うのだけど」


「俺は……」


 再び早くなる鼓動が本心のありのままの言葉を押し出していく。


「俺は何?」


──言ってしまえ。どうせ報われない恋だ


 そんな自分の言葉が脳内に響き渡り、気がつけば口が開いていた。


「俺は……塩義さんとが、いいです」


まだまだ未熟者で勉強中ですので、おかしい点や不明な点、また誤植、誤字、脱字があればぜひ教えてください!

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◎第8話から登場した七里侑哉の弟と、数年後の櫻木先輩が登場する短編『それでも俺は、隣の部屋のキミが戻ってきてくれるのを今も待っている。』も掲載中です。

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