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嘘つき女子大学生と嘘つき男子大学生が相思相愛にならないことを前提に付き合った末路  作者: 神経水弱


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第8話 水斗 大学2年生 4月その1


 俺の視線は一点から離れようとしない。


 大学二年から始まったゼミ。そのゼミに所属する三年の先輩たちが大学の近くにある居酒屋で新歓を催してくれた。

 飲みの席だというのに、俺は会話に混ざらず、先輩や同学年のゼミ生から飛び交う賑やかな声を遠くに感じるほどに、ずっと一人の女性を見ていた。

 その女性は通路を挟んだ隣の六人席の壁際に座る。同学年である彼女は名前を塩義しおぎ愛衣あいという。

 彼女は今、胸元まで流れる艶やかな黒髪を耳にかけながら、感情を隠した切れ長の瞳で一人静かにウーロン茶を飲んでいる。

 ただそれだけの仕草なのに、意識はさらに彼女へと引き込まれていく。


──あぁ、今日も綺麗だな。塩義さん。


 なぜか分からない。初めてゼミで塩義さんを見た瞬間から、俺は彼女に心を奪われた。恋をした。

 だが塩義さんと出会って二週間が経つのに、まだ話したことはない。

 だからこそ、今日は話しかける。話しかけて…話しかけて……それから…


「なんや、また見てるんか?」


 耳元で突然囁かれた聞き馴染みのある関西弁に、思わずびくりと肩を震わせてしまう。

 ため息をつきながら隣を見ると、にやっと控え目に唇の端を上げた同じ学年の七里しちり侑哉ゆうやの顔があった。


「びっくりするからやめて」


「お前見過ぎやねん。露骨すぎんねん」


「仕方がないだろ…」


「いくらお前の顔がええとはいえ、今のはほんまにきもいで?」


「うるさいな。見てるだけじゃんっ」


 七里は枝豆を摘まみながら続ける。


「いや、だからそれがきもいねんって。てか、そんな見るんやったらもうええかげん話したらええやん」


「話しかけれるならもう話してるって」


「なになに、恋話?」


 今度は正面から声が飛んできた。

 さっきまで違う席で飲んでいたはずの三年生の櫻木さくらぎ先輩が目の前に座ってカシスオレンジの入ったグラスに唇をつけていた。

 ぱっちりとした大きな丸い瞳に、柔らかな栗色のセミロング。なるほど、昨年の学祭でミスキャンパスに選ばれるのも納得だった。

 だが学内公認の美人を目の前にしても、やはり俺の中では塩義さんが一番美人だと思った。


「恋話なんてしてませんよ」


「櫻木先輩!嘘ですよ。嘘っ」


 隣から食い入るように身を乗り出しながら半分ほど残っていた生中を飲み干し、櫻木先輩推しの七里は顔を赤くしながら揚々と口を開いた。


「こいつね、あの席の隅に座ってる女の子に恋してんすよ」


 目を細めた七里は顎でくいっと塩義さんを指す。


「ちょっ」


「へぇー。どれどれ」


 櫻木先輩は頬杖をついたまま視線だけを横へ流す。塩義さんは櫻木先輩の視線に気づくことなく、サーモンのカルパッチョを口に運び、小さく咀嚼しながらスマホの画面に視線を向けていた。

 気取らず、飾らない。そんな身綺麗な感じがたまらなく美しい。俺の意識はまたしても塩義さんへと固定されてしまう。

 ミスキャンパスを目の前にしても、揺るがないあの魅力は本物で、俺の世界は塩義愛衣を中心に回っていた。

 その瞬間、両頬を甘い香りが漂った手が包み込んで、無理矢理視線を変えられた。

 アルコールに乗った柑橘系の匂いと共に視界いっぱいに頬を膨らませた櫻木先輩が映る。


「なあ、聞いとったあ?」


「えっ、何をですか?」


 眉をしかめる櫻木先輩が視界いっぱいに映る。


「ねっ!櫻木先輩。こいつの頭ん中は塩義一色なんですよ」


 七里の声に、櫻木先輩は頬から手を離す。

 ようやく解放されるや否や、櫻木先輩はため息をついた。


「はあ。私狙ってたのにい」


「狙ってた?」


 俺の言葉に反応するように七里が握り拳でおもいっきり肩を叩いてきた。


「いたっ」


「ほんまバチあたれ。てか……なんでお前やねん」


「だからいったいなに?」


「あー。私暴力を振るう人きらーい」


 七里はしゅんと顔を下げると、いつの間にか追加で頼んでいた生中を一気に飲み干し、あぁとしおれるように後ろの壁にもたれかかった。

 そんな七里にいたずらに微笑んだ櫻木先輩はさてと。と俺に向き直る。


「んで訊くけど、速水くんは塩義さんのことほんまに好きなん?」


 とろっとした甘い関西弁に少しどきりとしてしまう。


「どうしてそんなこと訊くんですか?」


「本人確認」


「あぁ、じゃあ免許証でいいですか?」


「私のボケ拾わんでええから早よ教えてや。ほら、はよはよ!」


 櫻木先輩は谷間が露わになった豊満な胸を机の上で無意識に強調しながら、ぐいっと上半身を乗り出してくる。


「えぇ…まぁ…はい、好きですけど」


 目のやり場に困る俺に、櫻木先輩はため息をつきながらジトっとした瞳を向けてきた。


「で、なんで好きになったん?」


「別に良くないですか。そんなこと」


「ふーん。あっそ。じゃあ叫んじゃおかな」


 ニヤッと片方の口角を上げて、視線を塩義さんに流す櫻木先輩。そんなミスキャンパスにめんどくささを感じながら渋々口を開いた。


「わからないです。一目惚れなので」


「あー、容姿か」


「容姿っていうか、雰囲気ですね」


「雰囲気?」


「はい。気取らず飾らずで……なんていうか、あの澄み切ったような美しさに惹かれたみたいな」


「さばさばした感じが好きなん?」


「いや、そういうわけじゃないですけど」


「ふーん。見た目やったら私も負けてへんと思うんやけどなあ」


 櫻木先輩は少し拗ねたように唇を尖らせる。


「今だに状況を理解できていないのですが、どうしてそんなことを訊くのですか?」


 櫻木先輩はしばらく俺を見つめ、諦めたように小さくため息を吐いた。


「その質問はわざと?それとも天然?」


「いや、天然っていうか、すみません。そもそもちゃんと話訊いてなかったです」


「なんや……芝居じゃないんかあ」


「なんの芝居ですか?」


「はあ……まあ、こういう終わり方である意味救われたか」


「あの、本当になんのことですか?」


 櫻木先輩は手をひらひらと振る。


「ええのええの。気にせんといて」


 そう言いながらグラスに残っていたカシスオレンジを一気に飲み干した。

 そしてすっと立ち上がり、塩義さんの席の方へ向き、その席にいる三年生の男性陣に声をかけた。


「そこの席の男性陣、みんなこっち来てよっ。愚痴聞いてや」


 そう言った瞬間、櫻木先輩は俺に顔を向けるや否や、にやっとほくそ笑み、再び隣りの席に顔を向けた。


「あ、塩義さーんっ」


 櫻木先輩はあろうことか塩義さんを呼ぶ。塩義さんは表情を変えぬまま、スマホの画面から櫻木先輩に顔を向ける。

 嫌な予感がする。


「速水くん、塩義さんのことな、好きやねんてー!」


 

まだまだ未熟者で勉強中ですので、おかしい点や不明な点、また誤植、誤字、脱字があればぜひ教えてください!

あ、友達のように気軽に教えてくださいね!


もし仮に、上記に当てはまらず、純粋に良かったと思っていただいた場合はお星様★★★★★をお願いします。

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◎本作の短編版『好きな人がいてもいいから付き合ってくださいと言って、交際を初めた嘘つき男子大学生の末路』も掲載中です。


◎第8話から登場した七里侑哉の弟と、数年後の櫻木先輩が登場する短編『それでも俺は、隣の部屋のキミが戻ってきてくれるのを今も待っている。』も掲載中です。

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