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愛で人は強くなれますか? -アルディア帝国物語-  作者: ハリネズミぽん助


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第三話 競うということ


夏の日差しが皇后宮の庭を照らしていた。


庭の大きな花壇では、色とりどりの花々が風に揺れている。


木剣を振る音が、静かに響いていた。


「百九十八。」


「百九十九。」


「二百。」


レオヴェインは木剣を振り終え、汗で額に張りついた黒髪を揺らしながら深く息を吐いた。

 

教師が満足そうにうなずく。


「よくできました。」


「ありがとうございます。」


レオヴェインは一礼した。


教師は木剣を受け取り、静かに口を開く。


「レオヴェイン様。」


「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか。」


「はい。」


「もし、皇位を争う兄弟がおりましたら。」


「あなたはどうされますか。」


レオヴェインは少し考えた。


「……分かりません。」


教師は静かにうなずく。


「ならば覚えてください。」


その目は真っ直ぐだった。


「皇族とは、帝国を背負う者。」


「その器なき者に、民は命を預けません。」


「兄弟であろうと関係ありません。」


「競い、勝ち、己を磨く。」


「強き者だけが帝国を導くのです。」


レオヴェインは黙って聞いていた。


教師はさらに続ける。


「情に流される者に、帝国は守れません。」


その言葉に迷いはなかった。


その時だった。


「はっはっは。」


後ろから笑い声が聞こえた。


振り返ると、白髪を夏の日差しに照らしたヴァルディスが、リューベルを肩車し、その隣をフェリシアが歩いていた。


「お祖父様。」


「楽しそうじゃのう。」


ヴァルディスは笑う。


教師も深く一礼した。


「大帝陛下。」


「失礼ながら、皇族として当然の教えを。」


「うむ。」


ヴァルディスはうなずいた。


「先生は間違っておらん。」


教師は少し安心したように微笑む。


レオヴェインは祖父を見る。


「お祖父様も、そう思われますか。」


「もちろんじゃ。」


ヴァルディスは迷わなかった。


「競えば、人は強くなる。」


「努力も覚える。」


「悔しさも知る。」


「それは、とても大切なことじゃ。」


レオヴェインは少しだけほっとし、教師も静かにうなずいた。


ヴァルディスは続ける。


「じゃが。」


庭が静かになる。


「競う相手を間違えるでない。」


レオヴェインは首をかしげた。


「昨日の自分より今日。」


「今日の自分より明日。」


「そう歩けばよい。」


教師は黙って聞いている。


ヴァルディスは夏の花々が風に揺れる庭へ目を向けた。


「見てみい。」


そう言うと、肩車していたリューベルをそっと地面へ下ろす。


「この花壇には、いろいろな花が咲いておる。」


「色も、形も、咲く時期も違う。」


風に揺れる花を映した青灰色の瞳が小さく輝き、リューベルはそっと手を伸ばした。


フェリシアは微笑み、その小さな手を支える。


ヴァルディスも笑った。


「どの花も懸命に咲いておる。」


「美しいのう。」


そう言ってレオヴェインを見る。


「レオはレオ。」


「フェリはフェリ。」


「リューはリューじゃ。」


「皆、それぞれじゃ。」


レオヴェインは花々を見つめ、教師も何も言わなかった。


ヴァルディスは木剣を拾い、レオヴェインへ返す。


「レオ。」


「強くなれ。」


「誰よりも。」


レオヴェインは背筋を伸ばした。


「はい。」


ヴァルディスは静かに笑う。


「じゃが。」


「強くなることを求めるあまり、大切な人との時を失うでないぞ。」


レオヴェインは祖父の顔を見た。


鋼色の瞳は穏やかに細められていた。


それでも、その笑顔はどこか寂しかった。


言葉の意味までは分からない。


それでも。


その声だけは胸に残った。


教師はヴァルディスを見つめ、やがて静かに頭を下げる。


「……勉強になりました。」


ヴァルディスは笑った。


「先生。」


「先生は帝国を強くしてくだされ。」


三人の孫へ視線を向ける。


「わしは。」


「この子らを幸せにしてやりたい。」


「それが、わしの務めじゃ。」


教師は何も言わなかった。


その言葉を胸に刻むように、一礼する。


少し離れた場所では、リューベルがまた転んでいた。


「リューベル!」


フェリシアが思わず駆け寄る。


リューベルは自分で立ち上がると、笑顔で姉へ手を伸ばした。


フェリシアも笑って、その手を握る。


ヴァルディスはその光景を静かに眺め、穏やかに微笑むと、色とりどりの花へ目を向けた。

 

鋼色の瞳に花壇の花々が映る。


「でもな、エル……わしは今でも、赤い花が一番好きじゃ。」


吹き抜ける夏の風だけが、その言葉を静かに運んでいった。



挿絵(By みてみん)

画像はイメージです。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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