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愛で人は強くなれますか? -アルディア帝国物語-  作者: ハリネズミぽん助


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3/11

第二話 転ぶということ


春の陽射しが皇后宮の庭を優しく照らしていた。


この庭は、かつてヴァルディスが皇后エルフリーデのために広げた庭だった。

 

「リュー!」


春風に白髪を揺らしながら、ヴァルディスは大きく両手を広げた。

 

「こっちじゃ!」


少し離れた場所では、リューベルがふらふらと立っていた。

 

後ろでは、レオヴェインとフェリシアが見守っている。


「頑張れ。」


レオヴェインが静かに言う。


フェリシアは両手を胸の前で握りしめ、青い瞳で心配そうに弟を見つめていた。

 

「がんばれ……。」


「じー!」


クリーム色の髪を春風に揺らし、リューベルは短い足を一生懸命動かした。


よち。


よち。


あと少し。


ヴァルディスは思わず身を乗り出した。


「そうじゃ!」


「もう少しじゃ!」


あと一歩。


その瞬間。


ころん。


「あっ。」


小さな身体が前へ倒れた。


一瞬、静けさが庭を包む。


そして。


「うぁぁぁぁん!」


「リューベル!」


フェリシアが駆け寄り、小さな手を握った。

 

「大丈夫?」


「痛かったね。」


リューベルは泣きながら姉の手を握り返す。


フェリシアはゆっくりと立たせた。


その様子を見ていたヴァルディスは、穏やかに笑う。


「フェリは優しいのう。」


フェリシアは少し照れくさそうに笑った。


ヴァルディスはリューベルを抱き上げ、大きな手で背中を優しく叩いた。


「痛かったのう。」


「びっくりしたのう。」


「よしよし。」


青灰色の瞳いっぱいに涙をため、リューベルはヴァルディスの胸へ顔を埋めた。

 

「父上。」


穏やかな微笑みを浮かべたエレノアが歩いてくる。


「大丈夫でしたか?」


「うむ。」


ヴァルディスはリューベルの膝を見て、小さくうなずいた。


「傷はない。」


そう言って、安心したように笑う。

 

「立派に転んだ。」


エレノアは思わず吹き出した。


「褒めるところでしょうか。」


「もちろんじゃ。」


ヴァルディスは真顔でうなずく。


「転ばん子は歩いとらん。」


そう言って、リューベルをそっと地面へ降ろした。


「フェリ。」


「はい?」


「その優しさは、大事にするんじゃ。」


フェリシアは嬉しそうにうなずく。


「はい!」


ヴァルディスは優しく続けた。


「じゃが。」


「今は、大丈夫じゃ。」


「リューなら立てる。」


リューベルは不安そうにヴァルディスを見上げる。


「じー……。」


「わしがおる。」


「大丈夫じゃ。」


その一言に、小さくうなずく。


もう一度歩く。


よち。


よち。


また。


ころん。


「あっ。」


フェリシアは思わず一歩踏み出す。


だが。


ヴァルディスの言葉を思い出し、そっと足を止めた。


「頑張れ、リュー……。」


リューベルは泣かなかった。


両手を地面につく。


「うー……。」


小さな身体に力を込める。


ぐらぐら。


それでも。


立った。


「おおっ!」


一番喜んだのはヴァルディスだった。


「立った!」


「見たか、エレノア!」


「レオ!」


「フェリ!」


「立ったぞ!」


「ええ。」


エレノアが微笑む。


レオヴェインも静かにうなずいた。


フェリシアは嬉しそうに手を叩く。


ヴァルディスはリューベルの前へしゃがみ込む。


「リュー。」


「立てたの。」


「なら、次も立てる。」


三人の孫を見渡した。


レオヴェインは真っすぐ祖父を見る。


フェリシアも静かに耳を傾けた。


「……転ぶことは、恥ずかしいことではない。」


「じゃから、何度でも転べ。」


「立ち上がれば、それでよい。」


「そして……。」


「もし、誰かが転んで、立ち上がるのに苦労しておったら。」


「その時は、手を貸してやれ。」


「それだけじゃ。」


リューベルは首をかしげた。


「じー?」


ヴァルディスは思わず頬を緩めた。


リューベルも、つられて笑った。


「えへ。」


フェリシアも笑った。


レオヴェインは静かにうなずく。


エレノアは優しくその様子を見つめていた。


ヴァルディスは照れくさそうに頭をかいた。


少しだけ空を見上げる。


「……わしも、よう転んだ。」


(あの時のエルは、よう笑っておったな……。)


その時。


リューベルが、また一歩踏み出す。


よち。


よち。


ヴァルディスは、そっと両手を広げた。


「来い、リュー。」


リューベルは顔を上げた。


一歩。


また一歩。


フェリシアは胸の前で小さく手を握る。


レオヴェインは静かに見守る。


エレノアは微笑みながら、その成長を見守っていた。


ヴァルディスは、あと一歩というところで手を出さない。


リューベルは最後の一歩を踏み出し、ヴァルディスの胸へ飛び込んだ。


ヴァルディスはリューベルを抱き上げる。


小さな頭を、ぽんと撫でた。


リューベルは祖父の胸へ顔をうずめ、安心したように小さく笑った。


ヴァルディスはその笑顔を見つめ、鋼色の瞳を優しく細めた。



挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



画像はイメージです。

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