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愛で人は強くなれますか? -アルディア帝国物語-  作者: ハリネズミぽん助


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第九話 見守っていてください


ヴァルディスは木剣を持つリューベルを見て、小さくうなずいた。


「行くとするか。」


「うん!」


リューベルは木剣を大事そうに抱えた。



エレノアの髪が木漏れ日に照らされる。


レオヴェインと、フェリシアがその後ろを歩く。


五人は静かに森を歩いた。


鳥のさえずりが聞こえる。


木漏れ日が揺れる。


やがて森を抜け、小高い丘へとたどり着いた。


丘の上には、一つの墓がある。


季節の花々が風に揺れ、穏やかな空気が流れていた。


リューベルは足元へ視線を落とす。青灰色の瞳の先には、小さな花が咲いていた。

 

「おじい様。」


「可愛いお花だね。」


ヴァルディスの足が止まる。


ほんの一瞬だけ。


花を見つめる。


それから、穏やかに笑った。


「……そうじゃな。」


リューベルは嬉しそうに花を眺める。


ヴァルディスは静かに墓石へ目を向けた。


「おじい様。」


「この人は?」


リューベルは墓石を見上げる。


鋼色の瞳を細め、ヴァルディスは優しく微笑んだ。

 

「エルフリーデ。」


「わしの妻じゃ。」


「そして。」


「わしの一番大切な人じゃ。」


リューベルは墓石を見つめる。


よく分からない。


でも。


お祖父様の一番大切な人。


だから。


大切な人なんだ。

 

ヴァルディスは墓前へ進む。


「エル。」


「来たぞ。」


穏やかな風が吹く。


花が静かに揺れた。


エレノアは手を合わせる。


「お義母様。」


「まだまだ未熟ですが。」


「家族みんな、元気に過ごしております。」


「これからも。」


「温かな家庭を守ってまいります。」


レオヴェインも前へ出る。


「祖母上。」


「もっと強くなります。」


「家族を守れる男になります。」


フェリシアは優しく笑った。


「お祖母様。」


「リューベルが今日、木剣をもらったんです。」


「とても嬉しそうでした。」


「これからも。」


「みんなで笑って過ごします。」


最後に。


リューベルが木剣を抱えて前へ出た。


「ぼく!」


「頑張る!」


「強くなる!」


「みんなを守る!」


その姿に。


ヴァルディスは吹き出した。


「はっ……ははっ。」


そっと目尻をぬぐった。


フェリシアも笑う。


エレノアも微笑む。


レオヴェインも小さく口元を緩めた。


穏やかな笑い声が丘に響いた。

 

「……きっと。」


「喜んでおる。」


「ほんと?」


「ああ。」


「リューは優しい子じゃからの。」

 

リューベルは嬉しそうに墓石へ笑いかけた。


やがて。


家族は少し後ろへ下がる。


ヴァルディスだけが墓前に残った。


静かに手を合わせる。


長い沈黙。


「エル。」


「ありがとうも。」


「ごめんなさいも。」


「約束も。」


「勇気も。」


「……全部。」


「お前が。」


「わしに教えてくれたことじゃ。」


ゆっくりと家族を振り返る。


兄が弟を見守る。


姉は、その笑顔に目を細める。


母は子どもたちを優しく見守る。

 

その光景を見つめながら、ヴァルディスは静かに笑った。


「昔の皇族では。」


「考えられんことじゃ。」


「兄弟で笑い合う。」


「互いを思いやる。」


「そんな家族を。」


「わしは、ようやく築けた。」


「お前のおかげじゃ。」


少しだけ空を見上げる。


「明日から、リューは剣を学ぶ。」


「強くなっていく。」


「じゃが。」


「あの子の優しさだけは失われぬよう。」


「どうか。」


「これからも見守っていてくれ。」


風が吹く。


花が揺れる。


ヴァルディスはその景色を静かに眺めた。


どこか懐かしい風だった。


「……ああ。」


「変わらんな。」


ヴァルディスは小さく笑った。


五人は丘をあとにする。


木剣を抱えたクリーム色の髪の小さな背中が、一歩ずつ未来へ歩いていく。


初夏の風が、その髪をやさしく揺らした。


ヴァルディスはその背中を見つめながら、静かに微笑んだ。



挿絵(By みてみん)

画像はイメージです。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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