第九話 見守っていてください
ヴァルディスは木剣を持つリューベルを見て、小さくうなずいた。
「行くとするか。」
「うん!」
リューベルは木剣を大事そうに抱えた。
◇
エレノアの髪が木漏れ日に照らされる。
レオヴェインと、フェリシアがその後ろを歩く。
五人は静かに森を歩いた。
鳥のさえずりが聞こえる。
木漏れ日が揺れる。
やがて森を抜け、小高い丘へとたどり着いた。
丘の上には、一つの墓がある。
季節の花々が風に揺れ、穏やかな空気が流れていた。
リューベルは足元へ視線を落とす。青灰色の瞳の先には、小さな花が咲いていた。
「おじい様。」
「可愛いお花だね。」
ヴァルディスの足が止まる。
ほんの一瞬だけ。
花を見つめる。
それから、穏やかに笑った。
「……そうじゃな。」
リューベルは嬉しそうに花を眺める。
ヴァルディスは静かに墓石へ目を向けた。
「おじい様。」
「この人は?」
リューベルは墓石を見上げる。
鋼色の瞳を細め、ヴァルディスは優しく微笑んだ。
「エルフリーデ。」
「わしの妻じゃ。」
「そして。」
「わしの一番大切な人じゃ。」
リューベルは墓石を見つめる。
よく分からない。
でも。
お祖父様の一番大切な人。
だから。
大切な人なんだ。
ヴァルディスは墓前へ進む。
「エル。」
「来たぞ。」
穏やかな風が吹く。
花が静かに揺れた。
エレノアは手を合わせる。
「お義母様。」
「まだまだ未熟ですが。」
「家族みんな、元気に過ごしております。」
「これからも。」
「温かな家庭を守ってまいります。」
レオヴェインも前へ出る。
「祖母上。」
「もっと強くなります。」
「家族を守れる男になります。」
フェリシアは優しく笑った。
「お祖母様。」
「リューベルが今日、木剣をもらったんです。」
「とても嬉しそうでした。」
「これからも。」
「みんなで笑って過ごします。」
最後に。
リューベルが木剣を抱えて前へ出た。
「ぼく!」
「頑張る!」
「強くなる!」
「みんなを守る!」
その姿に。
ヴァルディスは吹き出した。
「はっ……ははっ。」
そっと目尻をぬぐった。
フェリシアも笑う。
エレノアも微笑む。
レオヴェインも小さく口元を緩めた。
穏やかな笑い声が丘に響いた。
「……きっと。」
「喜んでおる。」
「ほんと?」
「ああ。」
「リューは優しい子じゃからの。」
リューベルは嬉しそうに墓石へ笑いかけた。
やがて。
家族は少し後ろへ下がる。
ヴァルディスだけが墓前に残った。
静かに手を合わせる。
長い沈黙。
「エル。」
「ありがとうも。」
「ごめんなさいも。」
「約束も。」
「勇気も。」
「……全部。」
「お前が。」
「わしに教えてくれたことじゃ。」
ゆっくりと家族を振り返る。
兄が弟を見守る。
姉は、その笑顔に目を細める。
母は子どもたちを優しく見守る。
その光景を見つめながら、ヴァルディスは静かに笑った。
「昔の皇族では。」
「考えられんことじゃ。」
「兄弟で笑い合う。」
「互いを思いやる。」
「そんな家族を。」
「わしは、ようやく築けた。」
「お前のおかげじゃ。」
少しだけ空を見上げる。
「明日から、リューは剣を学ぶ。」
「強くなっていく。」
「じゃが。」
「あの子の優しさだけは失われぬよう。」
「どうか。」
「これからも見守っていてくれ。」
風が吹く。
花が揺れる。
ヴァルディスはその景色を静かに眺めた。
どこか懐かしい風だった。
「……ああ。」
「変わらんな。」
ヴァルディスは小さく笑った。
五人は丘をあとにする。
木剣を抱えたクリーム色の髪の小さな背中が、一歩ずつ未来へ歩いていく。
初夏の風が、その髪をやさしく揺らした。
ヴァルディスはその背中を見つめながら、静かに微笑んだ。
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