第十五話:上様の鷹の行方 〜 The Hound of the Shogun's Falcon 〜
一部AIにより作成
【冒頭:ロンドン時代】
一八九四年、十月のことである。
ベイカー街の居間に、珍しく鳥の声がしていた。
ホームズが「思考の実験に必要だ」と言い張って先週から飼い始めた小さな燕雀——カナリアの一種で、籠の中でちちっちちっと鳴いている——のせいだ。私はその声が嫌いではなかったが、ホームズが時折、籠に向かって「お前の知っていることを言え」などと話しかけるのには閉口した。
「ホームズ」と私は言った。「鳥に訊いても答えは返ってこない」
「そうかな」とホームズは言った。「昨日、この鳥は午後三時ちょうどに普段と違う鳴き方をした。あの通りの方向を向いて、だ。その三分後、向かいの家から煙が出た。火事の予兆を察知したのかもしれない」
「それは偶然だ」
「偶然と必然の境界線は、観察の質によって決まる」とホームズは籠を覗き込みながら言った。「生き物は我々が気づかない何かを知っている。人間の感覚が捉えられない領域を。だから私は鳥を観察する」
「それは科学か、それとも詩か」
「区別する必要があるかね」
私は溜め息をついて、コートを手に取った。この日は王立外科医師会での講演があった。私がドアに向かったとき、ホームズが声をかけた。
「ワトソン、今夜は早めに戻れ。ちょっとした実験をしたい」
「鳥を使った実験か」
「鳥と、雨と、ロンドンの夜と」とホームズは言った。「三つ揃えば何かがわかる」
私が帰宅したのは夜の九時過ぎだった。その夜のロンドンは十月にしては珍しく激しい雷雨で、ハンサム馬車の屋根を雨粒が叩き続けた。バーリントン・アーケードの手前で落雷があり、馬が驚いて後ろ足で立ち上がった。馬車が傾き、私は扉をこじ開けようとしたとき——
電光のような白さがあった。
轟音があった。
そして静寂があった。
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【本編:江戸での事件】
——和登三太の語り——
目が覚めると、耳のすぐそばで鳥が鳴いていた。
高く、鋭い、野性の声だった。カナリアのような愛らしい声ではない。もっと鋭く、荒々しく、天を切り裂くような声だ。
私は路地に横たわっていた。頭上には、雨上がりの江戸の空が、澄んだ青さで広がっていた。十月の朝の光が、屋根の向こうから斜めに差し込んでいる。江戸の十月は安政六年——西暦では一八五九年にあたる。
捕霧七はすでに座って、煙管を手に持ち、目を細めて空を見上げていた。
「鷹だ」と彼は言った。「三太、今朝は鷹から始まる。悪い予感がする」
私は立ち上がりながら空を見た。遠く、一つの影が大きな翼を広げて弧を描いていた。確かに鷹だった。ロンドンの公園でも鷹は飛ぶが、あの気配の違いといったら——野性と、なにか別の緊張感が、あの一羽の飛び方から滲み出ていた。
「捕霧七さん、なぜ悪い予感がするのですか」
「江戸では鷹は特別な意味を持つ」と彼は静かに言った。「説明しよう」
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江戸において、鷹は単なる猛禽類ではない。
将軍家——徳川将軍、すなわち幕府の最高権力者——は、代々、鷹狩りを重要な行事としており、鷹は将軍家の威厳と権威を象徴するものとして扱われた。将軍の鷹は「御鷹」と呼ばれ、その管理と調教を専門とする「鷹匠」という役職があった。鷹匠は将軍家の直臣で、御鷹の訓練と扱いを一手に担う専門家だ。ロンドンで言えば、女王陛下の馬丁あるいは宮廷の動物管理官に相当するが、その地位と責任の重さは格段に違う。
御鷹を傷つけることは重罪。逃がすことは——それもまた、許されぬことだった。
鷹匠が御鷹を逃がせば、腹を切る。
これが江戸の常識だった。
「腹を切る——切腹のことか」と私は思わず言った。
「そうだ」と捕霧七は言った。「自分の腹を短刀で刺す、武士の自決の様式だ。ロンドンでは理解しにくいだろうが、江戸の武士にとって、これは最も名誉ある死に方とされている。恥をそそぐための儀式だ。しかし当然のことながら、死ぬのだ」
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その朝早く、同心の岡崎源之丞が長屋に駆け込んできた。
岡崎はいつもながら難しい顔をしていたが、今日はそれに輪をかけて険しかった。着物の裾を乱したまま飛び込んできて、捕霧七に向かって声を低くした。
「捕霧七どの。内密の話がある」
私たちは奥の間に移った。
岡崎が語ったのは、こういう話だった。
将軍家鷹匠・光井金之助という役人が、鷹慣らしの途中で品川の宿に一泊した。品川というのは、江戸から東海道を南に下った最初の宿場で、今では多少花街の気配もある賑やかな町だ。ロンドンで言えば、テムズ河沿いのサウスウォークに近い雰囲気を持つ。
金之助はその夜、宿の女に酒を過ごした。
そして翌朝、鷹がいなかった。
「まさか」と私は言った。「それは——」
「まさかだ」と岡崎は言った。声が低かった。「鷹の名は『朝嵐』。三年かけて飼い慣らした上物で、将軍家の直轄の御鷹だ。これが消えた。どこへ行ったかも、わからない」
「発覚したら」
「切腹は免れない。光井金之助という男は三十二の、まだ若い鷹匠だ」と岡崎は言った。「そして奉行所には、まだこの話は届いていない。届く前に、なんとかできれば——」
岡崎は捕霧七を見た。
捕霧七は煙管を膝の上でくるくると回していた。
「つまり、私に鷹を探してこいと」と彼は言った。
「誰にも頼めない。正式な探索に出すわけにはいかない」
「わかった」と捕霧七は言った。「行こう、三太」
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品川へ向かう途中、捕霧七は静かに考えながら歩いていた。
私は彼の横を歩きながら、江戸の街道の様子を眺めた。東海道はロンドンのオックスフォード通りほどの幅こそないが、常に人と物が行き交う幹線路だ。大八車——荷物を積んで人が引く二輪の荷車——が行き交い、旅人が笠をかぶって歩いている。街道沿いには茶屋——お茶と簡単な食事を出す休憩所——が点在し、旅の途中に人々が立ち寄る。ロンドンのコーヒーハウスに相当するが、ずっと開放的で、入るのに格式がいらない。
「三太」と捕霧七は言った。「鷹という生き物のことを考えてみろ」
「猛禽類だ。視力が鋭く、上空から地上の獲物を見つけて急降下する」
「そうだ。しかし、飼い慣らされた鷹は野生のものとは違う。訓練された鷹は、『鷹匠の手に戻ってくる』ことを覚えている。これはどういうことを意味するか」
「……鷹匠の手から離れた鷹は、必ずしも遠くへは行かない?」
「そうとも限らない」と捕霧七は言った。「しかしあの朝嵐という鷹が三年かけて調教されているなら、完全に野性に戻るまでには時間がかかる。飢えれば、知っている手を求めるかもしれない」
「鷹匠の手に戻ってくる可能性がある、ということか」
「あるいは——鷹を引き寄せる何かを使えば、戻ってくる可能性がある」
私は少し考えた。「餌、だな。鷹の餌になるもの」
「その通り」と捕霧七は言った。しかし彼の目は、まだ何かを考えていた。
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品川の宿に着いて、光井金之助と会った。
三十二の若い男で、顔が青白く、目の下に深い隈があった。昨夜から眠れていないのだろう。着物の着付けも乱れていた。
「三年間、一日も欠かさず世話をした鷹です」と金之助は言った。声が震えていた。「昨夜の酒が悔やまれる。しかしどうにも……いつもと違う何かが宿の中にあって、気が滅入って」
「昨夜、宿に誰か変わった者が来たか」と捕霧七は訊いた。
「それが……」と金之助は言いよどんだ。「別の鷹匠が、こちらに泊まっておりました。幡随院の近くに師匠を持つ、岩田という者で」
「知り合いか」
「顔は知っていますが、仲はよくありません。鷹匠の世界では、将軍家直属の者と、大名家——将軍の家臣である大名に仕える鷹匠とでは、格が違いますから」
捕霧七は少し目を光らせた。
「その岩田は今、どこにいる」
「今朝早く、目黒の方へ向かったと宿の者が言っておりました」
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私たちは品川から目黒へ向かった。
十月の空は秋らしく高く澄んでいたが、正午を過ぎた頃から急に雲が出てきた。目黒の村里に差しかかったとき、雨がぱらぱらと降り始めた。
江戸の郊外というのは、城下の市街地とはがらりと表情が変わる。農家が点在し、小川が流れ、秋の田がまだ穂を残している。ロンドンの郊外にも似た雰囲気があるが、こちらはもっと静かで、人の密度が薄い。
雨が強くなって、私たちは目黒の農道沿いにある蕎麦屋に駆け込んだ。
蕎麦屋というのは、蕎麦——そば粉で作った細長い麺を汁に浸して食べる料理——を提供する食事処で、江戸に数えきれないほど存在する。ロンドンのチョップハウスのような大衆食堂に近いが、もっと素朴で気取りがない。雨の日の蕎麦屋は、旅人や農夫が軒先に集まって自然と話し合う場所になる。
私たちが蕎麦を頼んで腰を落ち着けると、同じく雨宿りをしていた一人の男が目に留まった。
四十がらみの、細身の男だった。腰に細い竹竿のようなものを差していた。そして彼の手に提げた籠には——小さな雀が何羽か入っていた。
「鳥さし(とりさし)ですか」と捕霧七は、さりげなく声をかけた。
男は少し驚いたように顔を上げた。「ご存じで?」
鳥さしというのは、竿の先に黐——鳥を捕まえるためのねばねばした液体——を塗り、木の枝に見せかけてそこに鳥を止まらせて捕まえる猟師のことだ。ロンドンのバードキャッチャーに相当する。江戸では雀などの小鳥を料理用に捕まえる職業として存在した。
「この辺りのご商売ですか」と捕霧七は話を続けた。「よく来られる?」
「ええ。目黒川の沿いが雀の多い場所でして。——実は、以前は別の商売もしておりまして、こちらの蕎麦屋の娘御が、鷹匠のお屋敷に奉公しておりまして、いろいろと鷹の食い物の話なんぞを聞いておりましたんですが」
捕霧七の手が、煙管を持ったまま、ほんのわずかに静止した。
私はそれに気づいた。彼が静止するとき、頭の中で何かが繋がった瞬間だ。
「鷹の食い物、というと」と彼は何気ない口調で訊いた。
「鷹はね、生の小鳥を好みます。特に雀は格好の餌で。調教中の鷹匠は、よく雀を刺したものをお使いになる」
捕霧七はしばらく黙った。
やがて彼は言った。
「一つお願いがある。雀を何羽か、刺してきていただけないか。今日中に」
男は目をぱちくりさせた。「雀を? 刺す、と言いますと……」
「串に刺した、生の雀を。できれば羽のついたまま。急いでいる」
鳥さしの男は何かを感じたのか、余計なことを聞かなかった。「……わかりました。夕方までには」
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その夕方、私たちは目黒川の上流へ向かった。
捕霧七は鳥さしから受け取った串刺しの雀を、懐に大切に包んでいた。
「捕霧七さん、これで何をするつもりだ」と私は訊いた。
「朝嵐を呼ぶ」と彼は言った。
「鷹を、餌で呼ぶというのか。しかしどこにいるかもわからないのに」
「わかっている」と彼は言った。「岩田という鷹匠が目黒へ向かった。なぜ目黒か。この辺りには誰かの鷹狩りの場所として馴染みがある土地がある。岩田はそこへ朝嵐を呼び込もうとした——あるいは、すでに呼び込んでいる」
私は考えた。「岩田が朝嵐を盗んだ、ということか」
「盗んだのかもしれないし、金之助が酔った隙に鷹を誘って逃がした可能性もある。どちらにしても、調教された鷹は、知っている者の手に戻る。岩田が三年間、光井金之助の御鷹の調教に近づく機会があったとすれば——」
「鷹匠の世界では格が違う、と金之助が言っていた」と私は言った。「大名家の鷹匠が、将軍家の御鷹を手に入れれば……それは相当な価値があるのでは?」
「あるいは——主君への献上品として」と捕霧七は言った。「政治的な意味すら持つかもしれない」
目黒川の上流、農地の外れの小高い丘に出たとき、捕霧七は足を止めた。
「ここだ」と彼は言った。
丘の向こうに、古い農家が一軒あった。その納屋の屋根の上に——私には最初、見えなかった——一羽の大きな鳥が、翼を半ば広げて止まっていた。
朝嵐だった。
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捕霧七は音を立てずに近づいた。
手に持った串刺しの雀を、少し高く掲げながら。
私は息を呑んで見ていた。
鷹は私たちに気づいていた。頭をわずかに傾けて、細い目で観察している。その目の鋭さは、ロンドンのどんな動物にも見たことのない、純粋な野性の集中だった。
捕霧七は近づきながら、低く口笛を吹いた。
「金之助から、鷹を呼ぶ音を聞いておいた」と彼は後で言ったが、その瞬間は私には意味がわからなかった。ただ、低い口笛の音が夕暮れの空気に溶けていくのを聞きながら、私は固唾を呑んでいた。
朝嵐が翼を動かした。
一度、二度。
そして——静かに飛び立ち、捕霧七の差し伸べた腕に、音もなく降りた。
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そのとき、農家の陰から男が飛び出してきた。
三十五、六の、がっしりした男だった。顔が引きつっていた。
「その鷹を離せ」と男は言った。「それは……私が面倒を見ていた鷹だ」
「岩田どの」と捕霧七は静かに言った。「面倒を見る、というのは、一晩盗んで丘の上に置いておくことを言いますか」
岩田は言葉に詰まった。
捕霧七は鷹を腕に乗せたまま、岩田と向かい合った。
「お前の目的はわかっている。将軍家の御鷹を、自分の主君——どこかの大名家の方——に献上することだろう。鷹を通じて家中での地位を上げるか、あるいは主君が将軍家に恩を売るつもりだったか。どちらかだ」
岩田の顔が赤くなった。「……黙れ」
「しかし」と捕霧七は続けた。声は穏やかだった。「朝嵐が戻れなければ、光井金之助という若い鷹匠が腹を切る。お前もそれを知っていた。そして、それを承知で盗んだ」
「鷹匠などというのは、覚悟の上の役職だ。御鷹を逃がせば切腹は当然——」
「覚悟と、そこへ追い込むことは、別のことだ」と捕霧七は言った。静かに、しかし確かに。「岩田どの、お前が自分の利を得るために、一人の若者を死に追いやろうとしたのは事実だ。それを私は看過できない」
岩田は地を踏みしめて、一歩前に出た。
私は思わず体を構えたが——そのとき、朝嵐が翼をいっぱいに広げた。猛禽の翼が広がる音は、ぱん、と鋭く空気を叩いた。岩田が思わず後退した。
捕霧七は動じなかった。
「引け」と彼は言った。「今日のことは、奉行所には届けない。しかし、この先に何かあれば——お前の名前は残っている」
岩田はしばらく立ちすくんでいた。
やがて彼は、何も言わずに農家の陰に消えた。
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その夜、朝嵐は光井金之助の腕に戻った。
金之助は鷹を受け取った瞬間、声を出さずに泣いた。
「なぜ……なぜこんなことをしてくださったのです」と彼は言った。「あなたがたには何の得も——」
「得はない」と捕霧七は言った。「しかし、人が無用に腹を切るのを見たくなかった。それだけのことだ」
金之助は深く頭を下げた。
帰り道、私は捕霧七の横を歩きながら言った。「鷹が餌に戻ってくるとわかったのは——最初からか」
「品川で話を聞いたときから、大筋は見えていた」と彼は言った。「岩田が一人で目黒へ向かったのは、朝嵐を自分の手元に置きたかったからだ。しかし訓練された鷹は、一晩や二晩では飢えて戻れなくなるほどには野性化しない。問題は、どうやって呼び寄せるかだった」
「それで、鳥さしの雀か」
「鷹匠の手に戻ることを訓練されているが、その鷹匠が傍にいない。そのとき、鷹は飢えれば知っている餌の形を求める。雀の匂いと形、そして口笛——それだけで十分だった」
「まるで——」と私は言いかけた。
「なんだ」
「まるで人間と同じだ。訓練されたもの、慣れ親しんだものに、最終的には戻っていく」
捕霧七は少し黙った。
「そうかもしれない」と彼はやがて言った。「人も、鷹も、知っている場所へ戻りたがる。それが——弱さか、あるいは誠実さか」
秋の夜の目黒の道は暗く、遠くで虫が鳴いていた。
江戸の秋の虫の音は、ロンドンの秋とは全く違う種類の静けさを持っていた。
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【結末:ロンドン時代】
気づくと、私はベイカー街の居間にいた。
暖炉が赤く燃えていた。籠の中のカナリアが、静かにちちと鳴いていた。
ホームズは床に倒れていたが、すぐに身を起こして、まず籠の方を見た。
「無事か」と彼は言った。鳥に向かって。
「ホームズ」と私は言った。「鳥に話しかけるな。それより——妙な夢を見た」
「江戸の夢か」とホームズは即座に言った。「私も見た」
私は驚いて彼を見た。
「鷹の話だったか」と私は言った。
「鷹と、一人の若い男と、欲張りな鷹匠の話だ」とホームズは言った。立ち上がりながら、籠の前に立った。「ワトソン、訓練された生き物というのは、恐ろしく正直だ。餌を見れば戻ってくる。慣れた声を聞けば飛んでいく。人間もそれほど変わらない——ただ、人間は欲望が複雑な分、より多くの悲劇を生む」
「岩田という鷹匠は」と私は言った。「欲望があった。しかし、止まった」
「止まらせたのは鷹の翼の一打ちだったが」とホームズは笑った。「それもまた、自然の力だ」
彼は籠の前に指を差し出した。カナリアが少し首をかしげた。
「ワトソン、鳥というのは正直だ。怖ければ逃げ、安全なら近づく。人間のように、怖いのに近づいたり、安全なのに逃げたりはしない」
「それを君は羨むか」
「羨みはしない」とホームズは言った。「ただ、参考にする。——さて、君の帰りを待っていた実験だが、雨が降ってしまったので今日はやめにしよう。こういう夜は、音楽の方がいい」
彼はバイオリンを取り上げ、低くゆったりとした旋律を弾き始めた。秋の夜の、静かな音だった。
籠の中のカナリアが、その音に合わせるように、一声鳴いた。
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本作は、アーサー・コナン・ドイル著『シャーロック・ホームズの冒険』および岡本綺堂著『半七捕物帳』への敬意と感謝を込めて執筆しています。
著:コナン・綺堂異流(Conan Kidoyle)




