終:鍛錬
程なくして、英雄アインハルトからの指導を希望する兵士が北の国境に到着した。
整備した帝国軍用の宿舎に案内し、翌日から早速訓練を行うことになった。
驚くべきことに、その訓練、いつの間にかウィルフリードも指導に当たることになっていた。
「いつのまに……」
「思いの外志願者が多かったからな。アインハルト殿だけに指導を任せるとかなりの負担になるだろうということで、イザークから俺に依頼がきたんだ」
確かにウィルフリードも魔法が使えるし、魔力量も多い。スキルだけで見たら適役ではある。
ただ、皆英雄アインハルトから教えを乞えると目を輝かせていた兵士たちは、冷徹大佐が指導に加わると聞いて一瞬で青褪めてしまった。
「……いずれにしても指導は交代で行う。全員がアインハルト殿から指導を受けることに変わりはない……ただ、俺が指導につくからには、徹底的に魔法も剣も鍛えてやるから、覚悟するように」
ウィルフリードの言葉に、兵士たちは居住まいを正すのだった。
そして翌日から始まった訓練は、なかなかに過酷だった。
しかし帝国軍の兵士は日々辛い訓練を受けているため、弱音を吐く者は誰もいなかった。
「……よし、午前はここまでにしよう。各自食堂で食事を摂り、一時間後に再開する」
広場で強化魔法の指南を行っていたヴィオラがそう指示を出すと、兵士たちは大きく息を吐き出した。
ヴィオラによる訓練を希望した兵士は討伐隊八十名のうち半数を超える五十名だった。
そのうち十名は、強化魔法はある程度使えるがより効果を高めたいという者たち、三十名は、強化魔法自体は使えるが、持続力や威力に欠ける者たち、残りの十名が強化魔法自体習得できていない者たちだという。
先程訓練を行ったのは強化魔法未習得の十名であった。
「……アインハルト殿、初指南はどうだ?」
背後から声を掛けられ、振り返るとウィルフリードが周囲を見渡していた。
「強化魔法は未習得ということでしたが、皆魔力量は充分ですし、コツを掴めばすぐに使えるようになると思いますよ」
「そうか」
ウィルフリードがほっとした様子で頷く。
「騎士団員じゃない兵士への指導となると気を遣う部分もあると思うが、気にせず厳しく指導してくれ」
「はい。わかりました」
ウィルフリードの言葉にヴィオラがしかと頷くと、彼はふっと表情を緩めた。
その顔を見た一部の兵士から、冷徹大佐でも義理の弟には優しい顔をする、という噂が流れたのだった。
この時の北の国境は、間違いなく平和だった。
しかしそれは、嵐の前の静けさに他ならなかった。
ヴィオラがそれを痛感するのは、もう少し先の話である。
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