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身代わりの男装英雄と冷徹大佐  作者: 結月 香
第三章 魔王討伐隊結成

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肆:任命式と会議

 翌日、ヴィオラとウィルフリードは身支度を整えて共に登城した。


 と、任命式を行う広間に入る直前で、第二皇女のエレオノーラが待ち構えていた。

 嫌な予感を覚えつつも挨拶の言葉を発しようとした二人よりも先に、彼女がわなわなと震える唇を開いた。


「……ウィルフリード様、ヴィオラ・シシェルから承諾を得たというのは、本当ですの?」


 信じられない、許し難い、そんな感情が如実に表れている。


 ウィルフリードは至極真面目な顔で頷いた。


「ええ。帝都に向けて出発する直前に、承諾をいただきました。魔王討伐の区切りがついたらすぐにでも結婚するつもりです」


 本当は魔王討伐を成し遂げたら、という約束だったが、エレオノーラに対してはその言い方が正解だろう。

 エレオノーラは唇を噛んで踵を返すと、護衛の女騎士を連れて廊下を走り去ってしまった。


「……これで諦めてくれるといいんだがな」


 ウィルフリードは嘆息して、気を取り直すように広間の扉を開けた。


 中には既に多くの帝国軍兵士がいた。

 ウィルフリードの姿を見たイザークが、部屋の奥から手招きして、最前列の椅子を指差す。


「ストランド卿、おはようございます。こちらへどうぞ。アインハルト殿もこちらへ」


 促されたヴィオラがウィルフリードの隣に座る。

 多数の椅子は広間の奥に向けられており、それに向き合う形で、数脚の椅子が置かれている。とりわけ豪華な椅子はおそらく皇帝のものだろう。


 しばらくして、皇帝と共に三人の男が入って来た。兵士たちが揃って立ち上がる。

 一人は魔王討伐隊の隊長、ビスチェン中将だろう。ダリウスとどことなく顔立ちが似ている。


 その後ろに続いてきた二人については、ヴィオラは見覚えがなかったが、ウィルフリードが帝国軍の大将と少将であると教えてくれた。


「諸君、よく集まってくれた。本日ここに集った者たちは、我が国の誇りである」


 整列した討伐隊を見渡し、皇帝は静かに言葉を紡いだ。


「国境では長きに渡って魔物との戦いが続き、今また、魔族の暗躍により我が国は新たな脅威に晒されている」


 広間が静まり返る。


「諸君に課す使命は重い。だが、我は諸君ならば成し遂げられると信じている。ここにいる者たちは、それぞれが帝国最高の才を持つ、剣、魔法、知略に長けた者たちだ」


 皇帝は一人ひとりの顔を見回した。


「これより、諸君を帝国魔王討伐隊として正式に任命する。名を呼ばれた者はその場で返事を」


 そう言いながら、皇帝はイザークから手渡された紙を広げた。

 長いそれには、討伐隊に選ばれた者の名前が記されているようだ。


「隊長、グスタフ・ビスチェン中将」

「はっ!」

「副隊長、デニス・ガニールナム少将」

「はっ!」


 隊長と並んで座っていた男が立ち上がる。

 焦げ茶色の髪にグレーの瞳を有した、三十歳前後の体格の良い青年だ。


 そしてイザークを筆頭とする国家魔法使いたち、次にウィルフリードが呼ばれ、帝国軍の兵士が全員呼ばれたあと、アインハルト・シシェルの名が呼ばれた。


「シシェル伯爵家の騎士団長、北の英雄アインハルト・シシェル。協力に心より感謝する」

「はっ!」


 ヴィオラが返事をすると、皇帝は全員に座るよう促した。

 皆が着席したところで、皇帝からの目配せを受けた隊長、グスタフ・ビスチェンがその場に立つ。


「この度隊長に任命されたグスタフ・ビスチェンだ。先日、私の愚弟が起こした問題について、公爵家の者としてこの場を借りて謝罪させていただくと共に、汚名返上のため、命を賭して魔王討伐を遂行することをここに誓う」


 真面目な顔でそう言い、ちらりとヴィオラを一瞥した。

 目が合ったヴィオラが僅かに肩を揺らすが、彼は特に何か言うでもなく、すぐに視線は逸らされてしまった。


 任命式は滞りなく進み、そのまま作戦会議が執り行われることになった。


「では、このまま作戦会議に移りますが、その前に、班分けを発表します。会議への参加は原則班長のみとなりますので、班長として名を呼ばれた方だけが残ってください」


 イザークの言葉に、皆が居住まいを正す。


 その後班分けが発表され、班長として名を呼ばれた八人と隊長、副隊長、皇帝とイザークがその場に留まった。

 ちなみに、ウィルフリードは一班の班長で、アインハルトは帝国軍の兵士ではないという理由で、隊長と副隊長、大魔法使いと同じように班には属さないことになったらしい。

 アインハルトの名は呼ばれなかったため退席しようとしたヴィオラだったが、イザークに引き留められた。


 討伐隊の構成はビスチェンの直轄部隊から五十人、志願兵三十人と言っていたが、彼らは全員帝国軍所属の兵士たちだ。国家魔法使いも同様である。

 だが、アインハルトは違う。シシェル伯爵家の私設騎士団長だ。それ故に、本来帝国軍に対して、協力義務はあっても指示命令に従う義務はない。

 しかし今回、皇帝陛下の命令で魔王討伐隊に加わることになったため、討伐隊の中での立場は、帝国軍の兵士と同じ扱いになる。


 とはいえ、歴戦の英雄を一兵卒と同等の扱いにする訳にはいかない。かといっていきなり班長に据えても、兵士の中にはそれを好ましく思わない者が現れる可能性がある。内部不和の元になるくらいなら、最初から別枠の協力者という立場に置いた方が扱いやすい、という皇帝の考えらしい。


「早速会議を始めよう」


 残ったのは皇帝、隊長、副隊長、八人の班長と、イザークと四人の国家魔法使いたち、そしてヴィオラだ。

 イザークが魔法で椅子の位置を変え、中央に大きな机を呼び寄せる。

 机の上には、大陸全体が記された地図が広げられていた。


「……まず、探知魔法の結果を」


 皇帝の言葉に、イザークが大陸の最北端を指差した。


「この地から、非常に強い魔力を検知しました。一方で、他の地にはそれほど強い魔力は存在せず、十中八九、この場所に魔王と、その側近と思われる魔族がいるはずです」

「敵の総数は?」

「正確な数までは探知できておりません……ただ、魔力の総量は、過去に現れた魔族の、およそ百倍超という見立てです」

「ひゃ、百倍……?」


 もし仮に、魔族一体がこれまで確認されている魔族と変わらないのだとして、単純計算で百体以上いるということになる。

 魔王とやらが通常の魔族の十倍の強さだとしても、魔族だけで九十体を超える計算だ。


 そのことを察した一同が押し黙る。


 口を開いたのは隊長のグスタフだった。


「討伐に出るのは早くて半年後だ。それまでに国家魔法使いは更に詳細な調査を行い、魔族の拠点や総数をより正確に出す。同時に、全兵士に強化魔法の習得を命じる。既に習得済みの者は、より効果を増大させるように訓練すること。また、討伐隊が不在の間に攻め込まれないよう、討伐隊以外の兵士も増強し、国境に派遣する」


 と、グスタフはアインハルトに扮するヴィオラを見た。


「アインハルト殿は魔法の才もあると聞いた。是非、兵の指導を頼みたい」

「わかりました……あの、ひとつ伺っても?」

「ああ、何だ?」

「半年後の出発まで、私は帝都に留まらねばならないのでしょうか? 北の国境を、それだけの間不在にすることは、正直かなり心配なのですが」


 至極当然の質問に、グスタフは頷いた。


「ああ、その懸念は当然だ。国境の兵士増強が整うまでは、北の国境に戻ってもらって構わん。また、討伐隊の中で強化魔法が不得手の者は共に北の国境へ随従し、かの地で訓練をすればいい」


 なるほど、それならば訓練期間中に北の国境が手薄になることは避けられる。


 と、アインハルトから指導を受けられると聞いた班長たちが、一様に目を輝かせた。

 中にはアインハルトよりも年嵩の者も多いのに、北の英雄に教えを乞うことができる、というのはそれほど魅力的な話らしい。


 と、討伐隊の今後のスケジュールを確認したところで、慌ただしい足音が廊下を駆けてきた。


「か、会議中、し、失礼します! 皇帝陛下! イザーク様! いらっしゃいますか!」


 扉を叩く音と、動揺している様子の声色に、一同が顔を見合わせる。

 一番扉の近くにいた兵士が立ち上がって扉を開けると、使用人の女性が青褪めた顔で立っていた。


「た、大変でございます! エレオノーラ殿下が……!」


 その言葉に、皇帝の顔色が変わった。


「何があった?」

「突然お倒れに……! それと、首からお顔に掛けて、黒い紋様のようなものが……!」


 黒い紋様、そう聞いたイザークがすぐに部屋を飛び出した。

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