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身代わりの男装英雄と冷徹大佐  作者: 結月 香
第三章 魔王討伐隊結成

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零:旅立ち

 魔王討伐隊に指名されたウィルフリードと、アインハルトに扮するヴィオラは、イザークが手配した馬車に乗り込み、帝都に向けて出発した。

 彼が用意した転移ポータルは帰路用なので、出発前に広場に設置してきた。もしも誰かがそれに手出ししたら、イザークはすぐにそれを察知できるらしい。


 しかも、イザークの分身が国境に残ることになったので、ヴィオラはそれほど心配せずに旅立てることになった。


「……アインハルト殿は、帝都に行かれたことはおありですか?」


 馬車の中で、窓の外を眺めていたヴィオラにイザークが尋ねる。


「いえ、初めてです」


 国境を守るシシェル家に生まれたため、周辺の街に行ったことはあるが遠出という遠出はしたことがないのだ。

 まして、アインハルトとして戦場に立つことになってからは、ほとんど国境から離れていない。


 そのため、初めての帝都に、ヴィオラは少しわくわくしていたりする。


「任命式と会議で招集されているとはいえ、多少の自由時間はありますから、合間を見て、少し街を見て回るといいですよ」


 イザークがにこやかに言うと、ウィルフリードが隣に座るヴィオラをちらりと一瞥した。


「……慣れない街が不安だと言うなら、俺が案内しよう」


 その申し出に、ヴィオラよりもイザークが先に驚いた声を上げた。


「えっ? ストランド卿が、自ら案内を……?」

「……ゆくゆくは義弟になるのだからな。交流を深めておいて悪いことはないだろう」


 少し言葉を選びながら、ウィルフリードが頬を掻く。

 と、イザークが目を瞬く。


「……と、いうことは、ヴィオラ嬢から了承を貰えたのですね?」

「ああ。出発直前にな」


 ウィルフリードが得意げな顔で頷く。

 イザークは少々複雑そうな面持ちで口を開いた。


「それはおめでとうございます……一つだけ、よろしいですか?」

「何だ?」

「ヴィオラ嬢はロジーナ様の忘れ形見です。必ず幸せにすると約束してください」

「お前に言われるまでもない」


 これまで面識のなかったイザークから幸せを願われるとは思っておらず、ヴィオラは正直面食らった。


「……念のため聞くが、お前はヴィオラに結婚を申し込むつもりはなかったのか?」

「僕の想い人はロジーナ様だけですからね。ロジーナ様がこの世にいらっしゃらない以上、僕は生涯独身を貫きます。ただ、ロジーナ様が愛したものを、僕は大事にしたい。だから、ヴィオラ嬢とアインハルト殿は、私が守ります」


 独特な感性と恋愛観に、ヴィオラは半ば感心した。


 そういえば、彼はロジーナがロクスと結婚すると聞いて呪詛魔法を研究し始めたが、それはロジーナの愛する者を奪うことになってしまうため結局行使しなかったと言っていたか。


「……そう言ってくれているのに、これまで北の国境に来たことがなかったのは何故だ?」


 思わずそう尋ねると、イザークは僅かに視線を落とした。


「……国家魔法使いは、皇帝陛下の許可なく帝都から出ることは許されないのです。僕が大魔法使いになってから、帝都の外から国家魔法使いに対して派遣要請が来ても、陛下は僕を行かせてはくれませんでした。しかし今回は、ストランド卿が僕宛に魔法使いの派遣要請を出してくれたおかげで、緊急度が高いと判断され、特別に僕が出向く許可が出た、という訳です」


 彼は自嘲気味に笑う。


「大魔法使いなんて、結局は権力の犬ですからね」


 意味深長な言葉に、ヴィオラは首を傾げるしかできなかった。

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