第3話 襲撃の理由と聖女と…
辺境伯領への道中、二度目の夜。
野営地の焚き火を挟み、俺とセレスティアは向かい合っていた。
護衛たちは周囲の警戒にあたっている。
「……少し、よろしいでしょうか」
セレスティアが遠慮がちに口を開く。
「ああ」
「昼間の件……やはり野盗ではなかったのでは?」
……鋭いな。
「そう思う理由は?」
「動きが、あまりにも統率されていました。それに……私を狙っていたように感じました」
「正解だ」
俺はあっさり認めた。
隠しても意味はない。
「やはり……」
セレスティアは小さく息を呑む。
「君は狙われている。理由も、ある程度は見当がついている」
「……それは」
「聖女だ」
はっきりと言う。
その瞬間、セレスティアの表情が強張った。
「……ダリアン様が?」
「ああ。あいつは黒だ」
断言する。
「で、でも……聖女様は王国を救う存在で……」
「表向きはな」
俺は火を見つめながら続けた。
「だが裏では、お前を排除しようとしている」
セレスティアは黙り込んだ。
信じたくないのだろう。無理もない。
だが――
「証拠ならある」
「え……?」
「直接聞いた」
「えっ!?」
さすがに驚くか。
「……まあ、色々あってな」
詳細は伏せる。
忍びスキルで聞いたのだが、忍び込みました、とは言えない。
「ともかく、あいつらは“事故死”に見せかけてお前を消すつもりだった」
「……そんな……」
セレスティアの手が震えている。
だが、泣きはしなかった。
ただ、俯いて――
「……私、何かしたのでしょうか」
小さく、そう言った。
「してないな」
即答する。
「むしろ逆だ」
「……え?」
「お前が“邪魔”なんだろう」
「邪魔……?」
「ああ」
俺は昼間の光景を思い出す。
あの異常なスキル。
「お前、自分の能力の価値が分かってないだろ」
「……弱いスキル、ですから」
「それは違う」
きっぱり否定する。
「君のスキルは異常だ。あれは国が欲しがるレベルだ」
「それと…まだ未確認だが、御者の足がな」
「足?」
「昨日道端の植物を回復させたと同時に痛みが消えたそうだ。長年患っていたと言っていた」
セレスティアが目を見開く。
「そんな……」
「お前の力はまだ未開発だ。それでこれだけ出来る」
「だから排除される」
静かに言った。
「利用できないなら、消す。それが貴族社会だ」
焚き火の音だけが響く。
しばらく沈黙が続いた。
やがて――
「……怖い、です」
セレスティアがぽつりと呟いた。
「正直に言ってくれて助かる」
俺は立ち上がった。
そして、彼女の前に立つ。
「でも安心しろ」
セレスティアが顔を上げる。
「ここから先は、俺の領域だ」
辺境伯領。
魔獣すら恐れる土地。
そして――俺の庭だ。
「もう好きにはさせない」
その言葉に、セレスティアはしばらく俺を見つめ――
「……はい」
小さく、しかし確かに頷いた。
ーーー
その頃。
王都、ダストボ男爵邸。
「……失敗?」
低い声が響く。
ダリアンは、報告に来た男を冷たく見下ろしていた。
「も、申し訳ありません……護衛が想定以上で……」
「言い訳はいりませんわ」
微笑む。
だがその目は笑っていない。
「次は上手くやるのよ」
男が下がると、部屋には2人だけになった。
ーーー
「……お父様」
背後に控える男爵へ視線を向ける。
「はい、ダリアン様」
「やはり、直接やるしかありませんわね」
くすり、と笑う。
「聖女としてではなく――」
その瞳が、わずかに妖しく揺らいだ。
「“別の力”を使って」
男爵は一瞬だけ顔を強張らせた。
だがすぐに頭を下げる。
「……御意のままに」
ダリアンは窓の外を見た。
夜の闇が広がっている。
「セレスティア……」
その声には、はっきりとした殺意が込められていた。
「あなたは邪魔ですの」
ーーー
そしてその闇のさらに奥。
王都の地下深く。
誰も知らぬ場所で――
「器は順調に育っているようだな」
異形の存在が、低く呟いた。
「聖女……いや、“贄”としては上出来か」
その周囲には、蠢く影。
人ならざる気配。
「いずれこの国は落ちる」
静かな断言。
「魔獣も、人も――すべて我らのものだ」
闇が、笑った。
…しかし、何もせず、ただ待っている俺ではない。




