第21話 崩壊した王都と世界の裏側
王都――
そこは、もはや“都市”ではなかった。
人々の目は濁り、
理性は崩れ落ちている。
笑っていた者が突如叫び、
穏やかだった者が刃を抜く。
完全な崩壊だった。
「……完全に感染しているな」
俺は低く呟く。
だが、隣に立つセレスティアは静かに首を振った。
「いえ……違います」
「これは“感染”ではありません」
「どういう意味だ」
「生命の流れそのものが……切り離されています」
その瞬間――空気が震えた。
「ようこそ」
女の声。
現れたのは、リリス。
そしてその背後に、ダリアン。
二人は、まるで最初からそこにいたかのように立っていた。
「もう遅いわ」
リリスが愉しげに笑う。
「王都は“完成する”」
ダリアンが静かに言葉を継ぐ。
「この国は、正しく壊れる」
「壊す、だと?」
俺は剣を抜いた。
「好き勝手言ってくれるな」
一歩前に出たのはセレスティアだった。
「止めます」
短く、だが揺るぎない声。
その瞬間――
光が、弾けた。
王都全域へと一気に広がっていく。
「……っ!?」
リリスの笑みが崩れる。
「なに……これ……領域が上書きされてる?」
「やめなさい!」
ダリアンが叫ぶ。
だが、もう遅い。
断ち切られていた“流れ”が、逆流を始める。
狂っていた人々の動きが止まり、
空気が、世界が、息を吹き返す。
セレスティアの声が響いた。
「私は繋ぎ直す」
「切り離されたものを――元に戻す!」
王都を覆っていた“歪み”が揺らぐ。
均衡が崩れた。
「今だ」
俺は地を蹴る。
一直線に、リリスへ――
だが、その瞬間。
空が、裂けた。
「……来るぞ」
本能的に足を止める。
裂け目の奥から、“何か”が落ちてくる。
人ではない。
存在そのものが異質だった。
「これ……生命じゃない……」
セレスティアの声が震える。
ダリアンが微笑んだ。
「ようこそ、世界の裏側へ」
――次の瞬間。
それは、そこにいた。
人の形をしている。
だが皮膚はなく、
黒い靄が輪郭を保っているだけの存在。
「……排除対象」
声が、頭の内側に直接響く。
刹那――消えた。
「速い!」
咄嗟に剣で受ける。
激突。
重い――常識外れの質量。
「ヴァルカス様!」
セレスティアの叫びと同時に、光が弾ける。
「――満ちて!」
空間が変わる。
流れが“戻る”。
「なるほど……」
俺は即座に理解した。
「存在そのものを固定しているのか」
異形の動きが鈍る。
――今だ。
踏み込み、一閃。
黒い靄が裂ける。
「損傷確認」
だが、即座に再生する。
「やはりか……」
息を吐く。
単純な破壊では足りない。
「セレスティア!」
「はい!」
「再生を止めろ」
一瞬の沈黙。
だがすぐに、決意の声が返る。
「……やってみます!」
光が収束する。
今度は広域ではない。
ただ“一点”へ。
黒い靄が、歪む。
「再生阻害……成功しました!」
「十分だ」
俺は迷わず踏み込む。
狙うは、核。
一閃――
崩壊。静寂。
「……倒した、んですか……?」
息を整えながら、セレスティアが問う。
だが俺は、空を見上げていた。
裂け目は――まだ閉じていない。
「いや……」
低く告げる。
「あれは前座だ」
空の向こうで、何かが蠢く気配。
「本番は――これからだ」




