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追放された伯爵令嬢、生命をつなぐ禁忌魔法で覚醒したら冷酷な辺境伯令息に溺愛されています  作者: 積と和〝
第2章 覚醒と侵食する悪意

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幕間 距離の変化

討伐隊の騒動から、数日後。


屋敷の中は、表面上は落ち着きを取り戻していた。


――表面上は、だが。


「……はぁ」

セレスティアは、小さくため息をついた。


(どうしてこんなに意識してしまうのかしら……)

原因は、はっきりしている。


――ヴァルカス。


あの日以降。

視線が合うだけで、少しだけ胸が騒ぐ。


手を握られた感触が、まだ残っている気がする。

(落ち着きなさい、私……)


軽く頬に手を当てる。

熱い。


完全に自覚してしまっている。

「……困ったわね」


ーーー


「お嬢様、少しよろしいですか?」

アンナが声をかけてくる。


「ええ、どうしたの?」


「本日、討伐隊の方が数名、挨拶に来られております」


「挨拶?」


「はい。命を救っていただいたお礼と」


「……そう」

少し考えてから、頷く。

「分かったわ。応接室に通して」


応接室。

入ると、数人の騎士が立ち上がった。


「あ、あの……!」

その中の一人、まだ若い騎士が前に出る。


「先日は、本当にありがとうございました!」

深々と頭を下げる。


「あなたのおかげで、仲間が助かりました!」


「いえ……私は、ただ――」

少し戸惑う。


こういう場は、まだ慣れない。


「それでもです!」

騎士は顔を上げ、真っ直ぐに言った。


「あなたは、命を救ったんです」

その言葉に、胸が少しだけ締め付けられる。


(……私が?)


まだ、実感が追いつかない。


「もしよろしければ……」

騎士が、少しだけ緊張した様子で続ける。

「またお会いできる機会を――」


そのとき。


「――必要ない」

低い声が、割って入った。


空気が変わる。


「ヴァルカス様……!」

セレスティアが振り返る。


そこに立っていたのは――


「用件は終わりだろう」

いつもの無表情。


だが。

(……少し、機嫌が悪い?)


「え、あ……」

騎士が戸惑う。


「礼は受け取った。帰れ」

淡々とした声。

だが、有無を言わせない圧がある。


「は、はい!」

騎士たちは慌てて頭を下げ、部屋を後にした。


ーーー


静寂。


「……あの」

セレスティアが口を開く。


「少し、言い方が――」


「必要なかった」

即答だった。


「これ以上関わる理由がない」


「でも……」

言いかけて、止まる。


ヴァルカスの視線が、わずかに逸れる。


(……あれ?)


「……なんだ」


「いえ」

少しだけ、考える。

そして。

「もしかして」


一歩、近づく。

「怒ってます?」


「怒ってない」

早い。


(分かりやすい……)

思わず、少しだけ笑いそうになる。


「では」


さらに一歩。

距離が縮まる。

「どうして、あんなに早く追い返したんですか?」


「……」

沈黙。


「……仕事の邪魔だ」

ようやく出た答え。


(嘘ね)


直感で分かる。

「ふふ」

小さく笑う。


「……なんだ」


「いえ」

首を横に振る。


「少しだけ、安心しました」


「……は?」

今度は、ヴァルカスが戸惑う番だった。


「だって」

少しだけ視線を逸らす。

「誰にでもああいう顔をするわけじゃないって、分かったので」


「……意味が分からん」


「分からなくていいです」

くすっと笑う。


ーーー


そのとき。


「ヴァルカス様ー」

アンナが顔を出す。


「……なんだ」


「先ほどの騎士様たち、外で“怖すぎる”って言ってました」


「そうか」

興味なさそうに返す。


「あと、“完全に牽制された”とも」


「……は?」


「いえ、何でもありません」

アンナがにやっと笑う。


「お邪魔しました〜」

さっと引っ込む。


ーーー


沈黙。


「……牽制?」

ヴァルカスが呟く。


その意味を考え――


(……いや、違うな)

首を振る。


(ただの合理的判断だ)

そう結論づける。


だが。


「ヴァルカス様」

セレスティアが、少しだけ近づく。


「ありがとうございます」


「……何がだ」


「さっきのことです」

柔らかく笑う。


「なんだか……守られた気がしました」

その言葉に。

一瞬、言葉が詰まる。


「……そうか」

それだけ返すのが、やっとだった。


ーーー


部屋を出た後。


(……なんなんだ)

自分の胸に手を当てる。


妙に落ち着かない。

騎士と話していたとき。

あの距離。

あの視線。


(……気に入らなかったな)

理由を考える。


すぐに出る。

(戦力として不安定だ)

(余計な接触は避けるべきだ)

(トラブルの元になる)


完璧な理屈。


だが。

(……それだけか?)


一瞬、思考が止まる。


「……くだらん」

小さく吐き捨てる。


だがその足は――

無意識に、彼女の部屋の方へ向いていた。


ーーー


一方。

部屋に残ったセレスティアは。


「……牽制、か」

小さく呟く。


そして。


「ふふ」

嬉しそうに、笑った。


頬が、ほんのり赤い。

(少しだけ――期待しても、いいのかしら)


そんな感情が、芽生え始めていた。

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