第10話 愚かな命令
「討伐隊だと?」
報告を聞いた瞬間、俺は眉をひそめた。
「はい。王都より派遣。名目は“魔獣討伐支援”ですが……」
「実態は?」
「……当領の調査、あるいは制圧の可能性が高いかと」
「だろうな」
「規模は?」
「約五十名。騎士団と魔術師の混成です」
「中途半端だな」
思わずため息が出た。
“半端な戦力”ほど危険なものはない。
過信して突っ込み、被害を拡大する。
「指揮官は?」
「若い騎士です。実戦経験は……少ないかと」
「……見せるための軍か」
ほぼ確信した。
「王子の指示だな」
「間違いありません」
ーーー
その日の夕方。
討伐隊は予定通り、領内へと入ってきた。
「我々は王命により派遣された!」
先頭の騎士が声を張り上げる。
「辺境伯領の安全を確保する!」
(……嫌な予感しかしないな)
「ヴァルカス様、いかがなさいますか」
「止める」
「このまま放置すれば、全滅する」
ーーー
すぐに討伐隊の元へ向かう。
だが――
「なっ……!」
間に合わなかった。
視界に広がるのは、完全な混乱。
魔獣の群れに包囲されている。
「なんだこの数は!?」
「聞いてないぞ!」
騎士たちが叫ぶ。
統率は崩壊寸前。完全にパニックだ。
(だから言ったんだ……)
未知の戦場での無計画な突入。
最悪手だ。
「仕方ない」
剣を抜く。
「救助する」
ーーー
状況確認。
敵:約三十体。
味方:崩壊寸前。
「……優先順位は三つ」
瞬時に組み立てる。
①包囲の一角を崩す
②退路確保
③指揮系統の再構築
「――そこだ」
最も密集している一点へ突っ込む。
「はぁっ!!」
一閃。
まとめて薙ぎ払う。
「な、なんだあれは!?」
騎士たちがどよめく。
「そこから出ろ!」
指示を飛ばす。
「固まるな!散開して動け!」
「は、はい!」
少しずつ統率が戻る。
「次だ」
二箇所目、三箇所目。
包囲が崩れていく。
「逃げ道が……!」
「今だ、下がれ!」
ようやく隊列が整い始めた――そのとき。
ドン、と地面が揺れた。
「……来たか」
奥から現れる、さらに巨大な個体。
「嘘だろ……」
騎士が震える。
「こんなの勝てるか……」
「黙って下がれ」
俺は一歩前に出る。
「ここから先は俺がやる」
ーーー
一瞬で間合いを詰める。
巨体の死角へ。
「遅い」
斬る。
だが――
「硬いな」
表皮が強化されている。
(普通の個体じゃない)
「なら――」
思考を切り替える。
弱点。関節、目、口内。
「そこだ」
踏み込み、目を潰す。
「グァアアアッ!!」
怯んだ。
「終わりだ」
首を断つ。
巨体が崩れ落ちた。
ーーー
静寂。
騎士たちはただ呆然と立ち尽くす。
「……助かった」
誰かが呟く。
俺は振り返る。
「二度と勝手に動くな」
冷たく言い放つ。
「ここは、お前らの戦場じゃない」
誰も、反論できなかった。




