第8話 グラディウスの剣
荒野に、風が吹き抜ける。
乾いた土をさらい、二人の間を通り過ぎていった。
その中央に――グラディウスが立っている。
「来たか、ヴァルカス」
低く、だがどこか楽しげな声。
「待っていたぞ」
ゆっくりと剣を構える。
その構えには、一切の無駄がない。
以前とは違う。
圧が――明らかに増している。
「強くなったな」
自然と口に出る。
「ああ」
グラディウスが笑う。
「お前もな」
俺は剣を抜いた。
刃が風を切る。
「今回は逃がさん」
「望むところだ」
次の瞬間。
同時に踏み込む。
激突。
――重い。
初撃で分かる。
以前とは比べものにならない。
「ははっ!」
グラディウスが笑った。
「これだ……これだ!」
連撃が来る。
速い。
重い。
正確だ。
一撃ごとに“意思”が乗っている。
「……いいな」
思わず、口元が緩む。
だが――
「まだだ」
一歩、引く。
呼吸を整える。
視線を固定する。
(見える)
人の動きには必ず“癖”がある。
積み重ねた戦いが、それを教える。
踏み込み。
最短距離。
カウンター。
「っ!」
グラディウスが受ける。
だが、わずかに体勢が崩れた。
「終わりか?」
静かに言う。
グラディウスは――笑った。
「違うな」
地面を蹴る。
さらに速く。
さらに重く。
限界を超えた踏み込み。
「これが――俺の全てだ!」
真正面からの一撃。
迷いのない、渾身。
「……いい」
俺は正面から受ける。
逃げない。
「それでこそだ」
激突。
衝撃が荒野を裂く。
地面が割れ、風が弾ける。
拮抗。
剣と剣が噛み合う。
「なぜだ……!」
グラディウスが叫ぶ。
「なぜお前は――折れない!」
「簡単だ」
短く答える。
「守るものがある」
その一言に、全てを乗せる。
力が伝わる。
剣が、応える。
押し切る。
「っ……!」
グラディウスの剣が弾かれる。
大きく、体勢が開く。
一瞬。
迷いはない。
――一閃。
静寂が落ちた。
風だけが、再び吹く。
グラディウスの体が、ゆっくりと崩れる。
膝をつき、地面に手をつく。
「……見事だ」
小さく笑う。
その顔には、悔いはない。
「楽しかった」
そのまま、静かに動かなくなった。
俺は剣を納める。
しばらく、その場を動かない。
風の音だけが続く。
「……ああ」
小さく呟く。
「いい戦いだった」
それが――
この男への、最大の敬意だった。




