第6話 魔獣使いグラディウス
南部区域。
そこは辺境伯領の中でも、特に魔獣の出現が多い危険地帯だ。
「……数が多いな」
丘の上から見下ろす。
砂煙の向こうで、無数の影が蠢いていた。
四足型、飛行型、そして混成種。
種別の異なる魔獣が、まるで一つの意思に従うかのように動いている。
「どう見ても自然発生じゃないな」
俺は即座に結論を出す。
「……誰かが操っている」
そのとき――
ドン、と地面が鈍く揺れた。
群れの奥から、ひときわ巨大な影が姿を現す。
通常種より一回りは大きい巨体。圧そのものが違う。
「……来たか」
そして、その背に“人”が立っていた。
「ほう」
低く、よく通る声。
「これを一人で止めに来るとはな」
男は大剣を肩に担ぎ、こちらを見下ろしている。
鎧はボロボロだが、纏う気配は只者ではない。
「名を聞こう」
「……ヴァルカスだ」
「グラディウス」
短く名乗る。
「元・王国騎士団長だ」
――なるほどな。
「今は?」
「強さを求める者だ」
狂っている。
だが、嫌いじゃない。
「その魔獣、あんたのか?」
「ああ」
男はわずかに口元を歪めた。
「美しいだろう?」
その言葉に応じるように、魔獣の群れが一斉に唸る。
……完全に支配されている。
「試してやる」
グラディウスが剣を振る。
「お前が“強者”かどうかをな」
次の瞬間――
魔獣の群れが一斉に襲いかかってきた。
ーーー
「邪魔だ」
踏み込む。
剣閃。
一体、二体、三体。
まとめて斬り伏せる。
だが――
「……止まらないな」
数が多すぎる。
普通なら囲まれて終わりだ。
――だが。
「なら、減らすだけだ」
一度、大きく後退する。
「……こういう時は、“面”で処理する」
群れへの対処の基本――一点突破ではなく、範囲制圧。
「来い」
魔獣を引きつける。
密集した、その瞬間――
「そこだ」
地面を蹴り、空中へ跳ぶ。
落下と同時に、全力の一撃を叩き込む。
「はぁあああっ!!」
衝撃が炸裂する。
砂塵が舞い上がり、周囲一帯を薙ぎ払う。
数体の魔獣がまとめて吹き飛んだ。
「……ほう」
グラディウスが笑う。
「いいな」
そして――自ら巨体の背から飛び降りた。
「次は、俺だ」
ーーー
剣と剣がぶつかる。
重い。
純粋な筋力が違う。
「ははっ!」
グラディウスが愉快そうに笑う。
「いいぞ!もっと来い!」
完全に戦闘狂だ。
だが――
「……粗いな」
一歩引き、間合いをずらす。
力任せ。直線的。
軌道は単純だ。
「何だと?」
「読める」
振り下ろされる一撃をいなし、そのまま懐へ潜り込む。
「終わりだ」
――斬る。
だが。
「甘い!」
咄嗟に受け止められる。
火花が散った。
「いい判断だ」
すぐに距離を取る。
……完全には通らないか。
「面白い……!」
グラディウスの目が、狂気に染まる。
だが次の瞬間、ふっとその熱が引いた。
「――今日はここまでだ」
「何?」
「試しただけだ」
そう言うと、男は指を鳴らす。
残っていた魔獣が、一斉に退いた。
「次は本気で殺しに来る」
グラディウスは笑う。
「楽しみにしていろ、ヴァルカス」
そのまま、踵を返し――去っていった。
ーーー
静寂が戻る。
「……面倒なのが出てきたな」
剣を納める。
間違いない。あれは“幹部”クラスだ。
しかも、かなり上位。
「あれは……悪魔教か……」
まだ噂でしかない存在。
だが、魔獣を操るとなれば――確信に近い。
「……いいだろう」
わずかに口元が緩む。
「まとめて潰す」
風が吹き抜ける。
戦いは――確実に次の段階へ進んでいた。




