試験
まだ顔を真っ赤にしているネオは、一目散に家へと帰った。そして泣き叫んだ。
「まあネオ、どうしたの」
「みんなに馬鹿にされた」
「なんてひどい。何があったのか、話してみなさい」
ネオは嗚咽しながら、今日の学校について話した。本当だと思っていたお話が嘘だったこと、同級生みんなに笑われたこと、教師も味方になってくれなかったこと。ネオの母はそれをただ黙って聴いていた。そして一言だけ、声を掛けた。
「ネオは間違ってなんかいないよ。自信を持ちなさい」
その言葉を聞いて、ネオの涙は少し止んだ。
「黒い穴」伝説の授業は過ぎ、前と変わらぬつまらない学校生活が続いた。ネオ以外の全員、そんな話は忘れて日々を過ごしていた。
ある日、教師は一言で教室をざわつかせた。
「よし、今日は試験を行う。みんなが普段しっかり先生の話を聴いているどうか確かめるぞ。悪い点を取った者は後で呼び出しをする」
教師はなんとか子どもたちを席に着かせ、試験を配った。
ネオはいつも曖昧な記憶を頼りになんとか解答するのだが、この日は違った。試験の内容は、「黒い穴」伝説についてだった。ネオの頭の中では、その授業が明瞭に再生されていた。気味の悪い穴、国のために犠牲となった兵士たち、革命を起こした若者。そして、その存在を否定され嘲笑されたあの屈辱的な瞬間。その記憶を頼りに、解答欄を埋めていく。
「試験終了。試験の結果は明日知らせる」
他の授業も終え、ネオはいつも通り帰宅しようとしていた。すると、教師から引き留められた。
「ネオ、ちょっとだけいいかな」
先ほどの試験に自信があったネオは、まさか自分が呼び出されるとは思っていなかった。今までも一度だって呼び出されたことはない。訝しげな顔を浮かべながら、ネオは教師の元へと向かった。
「君、びっくりしたよ。ほぼ満点だ」
「そうですか。じゃあなぜ僕は呼び出されたのですか?」
「最後の問題だけ間違えているんだ。『この伝説は実際にあった出来事であるか』という問題だ」
ネオはその問題をはっきりと覚えていた。なぜなら、わざと間違えたからだ。
「これさえ合っていれば、満点だったのに。なぜそんなにお伽噺を信じたがる?」
ネオは答えを絞り出した。
「だって、僕は信じているから。僕がそう思ったからです」
「なるほど、君は面白いね。自分の考えを貫くことも大事だが、それはそれとして事実を受け止めることも大事だぞ」
そう言って、教師は去って行った。ネオは拳を握りしめ、家へと向かった。
翌日、試験結果が発表された。ネオはその1問を取り逃したが故に、惜しくも学級で2位の成績だった。しかし、ネオはこの結果に満足していた。




