異世界からの救世主ではない者
道中の道のりで周辺を確認すると、レンガ作りの家に馬や馬車が目立つ。
(今回の進歩具合はあまり進んでないな。電気もガソリンもなさそうだ)
王宮は、見上げても余りあるほどの大きさで建っていた。
兵士の青年は、門番に何かを耳打ちし薫を見る。そして再び薫を連れて王宮内に入る。
ロウソクで明るく保たれた廊下を歩き、一つの豪奢な扉の前で止まる。
青年兵士は一つ息を整え扉を叩く。
「エメ様、申し訳ありません。少しお時間を頂けないでしょうか。ご確認いただきたい人物がおりまして」
すると、すぐに少女と思しき声が帰ってくる。
「わかりました。どうぞ、そのお方を通して下さい」
安心したようにもう一度息を吐き、薫に向く。
「今からエメ姫様にお会いする。失礼のない様にしろ」
答えも質問も受け付けていないのは明白なので、薫は黙って頷く。
失礼します。と扉を開け、薫を中に押し込む。
「エメ姫様、この者でございます。この辺りでは見慣れぬ格好故、新たな救世主様の可能性があるかと」
確かに薫の格好は、何故か先程の世界の制服だった。彼本人もそれには気が付いていた。しかし、どうせ役立たずの妖精のミスだと判断し無視していた。旅人を装えば切り抜けられると踏んでいたからだ。
嫌々ながら部屋の中に入ると、先程の声の主が優しく迎える。
「私はアベラール・エメです。貴方は?」
「薫といいます」
「そうですか。ではカオルさん、お聞きしたい事があります。貴方は私の召喚に応じてくれた救世主様ですか?」
自分が救世主では無い事は十分に理解している。故に安易に嘘は付けない。
「いえ、私は救世主では無いですよ」
「でしょうね。貴方が嘘を付く人でなくて良かった」
笑顔だ。しかし、今のはこちらの出方を試す発言だった。
(彼女は頭が回るな。出来るだけ真実を告げるか)
「あの、救世主とかでは無いんですが、ここはどこですか? 元の世界に帰れないんですか?」
『おやおや? あわよくば自分の世界に帰ろうとしてませんか?』
ミルが冗談を飛ばしてくる。そうなのだ。例え元の世界に帰れたとしても、ミルが居る限りまた別の世界に薫を飛ばすだろう。薫にしか聞こえず、今は何も言い返してこれないのを良い事にケンカを売って来ているのだ。




