鈍い男子生徒の認識
思わず小さい声が漏れる。それに答える様にミルも見解を述べる。
『かもしれないですね。自分から仕掛けたわけじゃないですのに』
主人公には、他の人間のストーリーを自らに引き寄せる引力の様なものがあると薫は認識している。もし、自分が主人公のストーリーに組み込まれてしまえば、恐らく操り人形にも等しく逃げられない。
その間にも不思議そうに見つめてくる恭也を無言で見つめ返す。
「なぁ、大丈夫か? 随分怖い顔してるけど」
そこでハッと薫は表情を緩める。
「あ、あぁ。ちょっと考え事してたから眉間にしわが寄ってたかもね」
どうにか取り繕うと、彼は主人公らしく気を使う。
「何かあるなら相談に乗るぞ?」
薫は必死に頭を回転させ、この現状の打開策を考える。
(今この場での殺害は出来ない。なら、布石を撒く事にするか)
「実は、家でちょっとしたトラブルがあってさ、今回は父さんの転勤に対してまだ母さんが納得しきれていないんだ。急なものだったし単身赴任で良かったんじゃないか? ってさ。さっき家に帰ったら電話でもめてた」
悲しい真実だが仕方が無い。という雰囲気を出し、相手の反応を見る。もしかしたら薫の望む返答が来るかもしれない。
「そうか。……ならウチに来ないか? ちょうど今両親が旅行で居ないんだ。代わりに雅が居るけど」
希望が繋がった。だが表情は絶対に崩さない。
「でも悪いよ。三井さんだっているんでしょ? 俺の存在は迷惑だ」
「なんで迷惑なんだよ? 問題ないから早く行こうぜ」
恭也の家にお邪魔させてもらう。極一般的な一軒家の玄関を開けると三井雅が出迎える。
「お帰り恭君! あれ、立花君?」
恭也が薫の代わりに事情を説明すると、雅はそれ以上深く聞くのは失礼だと思ったのか、そっか、と小さくつぶやいただけだった。
夕飯もごちそうになり、雅は気を使ってか帰った。そして恭也と二人きりになる。薫はこの瞬間を待っていた。
「なあ、三井さんと付き合ってるの? 普通の高校生は女の子と一つ屋根の下は無いぞ」
彼にしてみれば不意打ちな台詞。口を付けていたコップから盛大に飲み物をぶちまける。
「ゲホッゲホッ! なに言ってんだよ! そんなわけないだろ? アイツとはただの幼馴染だよ」
「そうなの? 今日初めて会った俺にもわかるくらい、三井さんは君の事を好いてるよ」
その一言に黙りこむ恭也。だがここで終わってしまっては困る。さらに薫は畳みかける。
「色々と世話になった身分で礼を欠くのは承知しているが、恐らく佐々木さんも君の事が好きなはずだ。一度しかない高校生活において、君の決断が無いと言うのは彼女たちに取って身を焦がされる思いだろう。他に身に覚えは無い?」
一息ついて確信に迫る台詞をぶつける。
「男なら決めるべきだ。それが例え誰かを傷つける結果になったとしても」
真剣に告げる薫から逃げるように恭介は立ち上がり、
「すまん、ちょっとコンビニに行ってくるから留守番頼めるか?」
と聞いてくる恭也に薫は、ああ、とだけ言う。
足早に部屋を出て行く足音を後ろに聞きながら、決戦の日は明日だと決める。
そして、薫は恭也が帰ってくると同時に、余計な事を言って悪かった、明日は学校には行かないから。と謝罪し山口邸を後にした。




