主人公を始末する主人公
薫が目を開くと白色の天上が飛び込んできた。状況がわからずに辺りを見回すと、自分はベッドに寝ていて、白衣を着た中年男性と弥生が何かを話しているのが確認できた。
視線に気付いたのか、弥生は薫の方に顔を向ける。
「良かった。気が付いたか」
安心したような声で弥生が話しかける。
その声で白衣の中年男性が近づいてくる。胸ポケットからペンライトを取り出し、自分は医師だから安心してくれ、と言い、薫の目を照らす。
「見た感じでは、目立った外傷もないし瞳孔も問題ない。不安なら精密検査を受けると良い」
自身の身体より気になる事があるので弥生に聞く。
「あの、私はどうなったんですか?」
「吉川紗枝の踵落としを喰らって気を失ったんだ。診断では軽度の脳しんとうだそうだ。そして今は仲谷が戦っている」
しくじった。その感情だけが押し寄せていた。
『ころ合いですね薫。私はもう次の世界に行きます。主人公のストーリーに巻き込まれた薫を助け出せない私を許して下さい』
「!?」
『毒が身体に蓄積されて溢れたのと同じでしょうね。貴方が負けたのが良い証拠ですよ。吉川沙織に取って、同じ条件の強敵を倒すのはストーリーの一片。ほら、見事に巻き込まれていますよ。それに兆候も有ったでしょう? 昨日今日編入した生徒が少し強いからって、大会の代表になんてなれるわけないんですよ。判断の鈍りも巻き込まれた結果かもしれませんね』
薫は声のする方へと顔を向け、ミルの姿を探すが見つからない。隠れているのかと思ったが違った。
『探しても無駄ですよ。もう薫には私の姿は見えません。だってこの世界の住人になり始めているんですから』
「ふ、ふざけるなっ! 私が注意を促しますとかほざいてたじゃねか!!」
突然叫び出した薫に弥生は驚きで硬直し、白衣の医師も目を見開いていたが、錯乱したと判断したのか急いで鎮静剤の用意を始めた。
ミルは喋り続ける。
『おや、薫は私と人間関係が築けているつもりだったんですか?』
その言葉に薫は脱力する。
その隙に注射器を手に持った医師が薫の腕に注射をする。
『今後は、この魔法の世界で一生涯を女の子として過ごして下さい。なに、大丈夫ですよ。薫の周りには素敵な仲間がいるじゃないですか。何か困った事があっても、めげずに頑張ってください。――あ、因みに元々の薫の記憶は、どんどんと消えていきますので、あしからず』
鎮静剤の効果でか、段々と睡魔が襲ってきた。
(寝て起きたら、自分が誰だかわからなくなってるのか。くそったれ)
遠のく意識の中で、見えないはずのミルが嫌らしく笑っているような気がした所で薫の意識が途切れた。




