魔法学園
『薫、いつまで練習してるんですか? 私は飽きましたよ』
「しょうがねぇだろ。そうしなきゃアイツ等には勝てねぇよ」
ミルに応える薫だが、いつもと違う。何が違うかと言えば、身長がいつもより低く華奢。声がいつもより高い。
言ってしまえば女性なのだ。口調こそ同じだが、女性というだけで威圧感が減る。ミルもそれがわかっているらしく、薫の見えない位置で笑いを堪えている。
そして、いま薫が練習を繰り返しているのは【魔法】だった。
進化し過ぎた科学が魔法になった。人間の持つエネルギーを、体外に形として表せる事が出来る技術が開発されてから、人はそれを最先端科学では無く、魔法として扱った。
建築・医療など、あらゆる事に応用され世界を一変させたのだ。
世界の主流になれば、学校で教えなければならない。子供の時から魔法に慣れれば、成長した時に活躍を見せる事が出来る。故に、現在ではカリキュラムとして魔法の授業が組み込まれている。
そしてもう一つ、世界の情勢で変わったものがあった。それも魔法がらみの事だった。
軍事に置いても魔法が席巻していた。鉛玉は消え失せ、ミサイルは魔法の前では無力になった。国の強さ=魔法を卓越に扱えるものの数になった。
当然、国際社会でも魔法についての条約もなされ、戦闘向けの魔法使用は制限された。それでも各国は戦闘の訓練を秘密裏に行ってきた。
強力な魔法使いが体一つで敵国に入国し、魔法で暴れまわる。それをやられてからでは遅い。だからそれを撃滅させる戦力が必要なのだ。
表面上は軍備では無く健全な教育。しかし、使い方によっては即戦力になるように育てられている。
目を開ける薫の前に写ったのは、車のような車体が空を飛ぶ光景。
「まいったな。なんだこの世界わ」
そこで聞き慣れない声な事に気付いて絶望する。
間違いなく喋っているのは自分。しかし声はいつもの自分の声では無い。
そこから導き出される答えは簡単だった。
『相変わらず女の子だと可愛らしい姿になりますね。後は言葉使いを気を付ければ完璧ですよ』
薫が女の姿になると必ずミルは今の台詞を吐く。本心で言っているのか、からかっているのか不明だが、薫の感情を煽っている。
少し歩いて状況を確認する。
(かなり発達した文化だな)
街並みは、元の薫の世界のそれより遥かに上を行っていた。
だが、今の薫にはもっと嘆く現状があった。
「ねぇ、良かったらご飯食べにいかない? 美味しい所知ってるしさ」
ナンパだ。自分でも容姿を確認したが、それなりに整っている。それが目を引くのだ。知らない男に食事に誘われても薫はみじんも嬉しくない。
(コイツで三人目か。無視を決め込めば諦めるだろう)
前の二人も完全に無視し、存在にも気付いていないふりをしていたら勝手に消えた。三人目にも同じ対処をしているのだが、コイツが思うよりしつこい。話しかけて来てから十分、途切れることなく口を開き続け誘い文句を吐き続けた。
『薫、追っ払って下さいよ。「貴方の品の無い顔で飲食店に入ったら、人気店も閉店に追いやられる」とか、「貴方に食べられる食材が可哀そうだから近くで見たくない」とか、「死ね」とか色々あるでしょ!』
両サイドからギャーギャーとやかましい二人にブチギレる寸前に女性の鋭い声が響く。
「おい貴様! 彼女が嫌がっているだろう。なにを考えているんだ!」
その声に対しナンパ男も黙ってはいない。ナンパを中断し、彼女にかみつく。
「っだよ。お前には関係ねぇことだろ。男から声掛けられないからって、ひがんでんじゃねぇぞ」
と、その女性の腕を掴もうと動いた。
薫は冷静に思う。この男は二つの間違いを犯していた。一つはこの女性、相当の美人である。間違いなく異性から好かれる容姿だ。そして二つ、彼女は強かった。
掴まれる寸でのところでかわし、足を引っ掛ける。当然もつれた足での踏ん張り等きかず、男は地面にダイブした。顔面を強打して鼻から血を流している。
「行くぞ」
薫の手を引いてその場を離れる。




