鈍い男子生徒
そして、何度目かの転送先が今回の世界。
ミルの言う通り、見える範囲にはビルが立ち並び、車もゆったりと下を走っている辺りが、安全性を保証しているようにも見える。だが、安心はできない。
主人公がいる限り、何が起こっても不思議ではない。犬が迷い込むくらいならマシ。テロリストなら最悪。突然、不思議な能力に目覚めるかもしれない。
だから迅速に主人公を見つけ出す事に専念する。
「今は授業中だから休み時間を待つしかないか」
当然ながら薫の姿は変わっている。それに準じて衣装もブレザーに変わっているが、在籍しているわけではない。学校の教員などに目立つ見つかり方をすると不味い。これまでの経験則から学校は休み時間に動くしかない事を理解していた。
二十分後、チャイムと共に行動を開始する。幸いにも昼休みに突入した為に一時間の行動ができる。
「まずは新入生を装って情報を集めるか」
編入前の下見に来たが迷ったと話しかけ、それをきっかけにどんな先生がいるか、どの部活が強いのか、と話を重ねると大抵の方向性は見えてくる。
狙いは同性の二年生。一年では知らない情報が多いだろうし、三年では学校に対する見る目が変わってしまっている。ちょうど噂話にも明るくなり、憧れの異性の先輩や同級生くらいはいるだろう。
屋上で待つか、校庭まで降りるか迷っているとドアが開く。
「私だってお弁当くらい作れるって事を教えてあげるから早く来なさい!」
「ちょっと!僕だって作ってきたんだから変な事はやめてよ!」
「おい、二人して腕を引っ張らないでくれよ。急かさなくてもちゃんと付いて行くから」
開いたドアの奥から女子生徒が二人と男子生徒一人が現れた。
振り向いた薫と目があうと、男子生徒が軽く頭を下げる。自分たちが騒がしく現れた事が迷惑に当てはまったと思ったのだろう。
薫も返事として軽く頭を下げる。
(あの感じは主人公か?)
確信に迫るため接触を図る。
「あの、少し良いですか?」
優しく控えめに話しかける。
「あ、やっぱりうるさかったですか? すいません」
話が通じたような、通じていないような返答が返ってきたので、さっさと話を続ける。
「いえ、違うんです。実は今度編入するんですが迷ってしまって。よければ職員室までのルートを教えてもらえないですか?」
笑顔を崩さず困っていると伝えると、男子生徒は快く引き受けてくれた。
しかし、薫は納得していない視線が二つある事に気付く。言葉には出さないもの、明らかに邪魔ものを見る目だった。




