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殺人鬼の仕事場

「誰かいるんだろう? 素直に出てくれば痛い思いをせずに済むぞ?」

 薫は素直に出て行く。理由はいろいろあるが、声に聞き覚えがあったのが一番の理由だった。

「やっぱりお前か、この辺に住みつこうなんて変わり者はいないからな。そんな気はしてたよ」

 そこには化野がいた。全く動じていないので、本当に予想していたのだろう。

「すいません。ここも立ち入り禁止でしたか」

「いや、知らない人間がこのビルに入って行くのを見たと情報が入ってな。確認に来たんだ。万が一ヤツだったら捕らえようと思ってな」


「ヤツ、と言うのは?」

「だと思ったよ。この辺りは殺人鬼がうろついているんだ。ここ一ヵ月で七人の死体が出た」


 薫には知れる筈のない情報だった。人を殺すのが趣味の人間がうろついている地域、しかも一人で薄暗い部屋で寝ていたというのは、殺して下さいと言っている様なものだっただろう。


 クスクスとミルが笑う。

「お前を保護する。死体になられても困るからな」

 断れる状況ではなかった。死ぬよりはマシだろう。

 

 自警団の本部となっているビルの扉を開け室内に入る。中にはテーブルソファがあり、十数人の男女が酒を煽っている。

「全員聞け! 危機感のない旅行者を拾った。今の件が終わるまで面倒を見ようと思う」

「「イエーイ!!!」」


 薫は戸惑った。不審な目で見られるならまだしも、歓迎されるような雰囲気を出されたからだ。


「ほら、挨拶くらいしろ」

「か、薫です。よろしくお願いします」

「「イエーイ!!!!」」

 

「ここに皆住んでる。だから仕事の終わったやつは、あの調子で酒を飲んでるのさ。気の良いやつばっかりだから、揉め事は無いだろう。お前の寝床は四階だ。好きな部屋を使え」


 そう言われて、四階の空き部屋で一夜を明かした。


 朝、一階に降りると、眠っている人たちの間で化野のがタブレット型の端末を操作していた。


「おはようございます」

「おお、よく眠れたか?」

「おかげさまで、朝までぐっすりでした」

「それは良かった。お前はお客様だからな。くつろいでくれ」

 ありがとうございます。と返し、薫はさりげなく本題に入る。

 薫にもやる事がある。この世界の主人公を始末しなければならない。

「あの、昨日言っていた殺人鬼について教えて欲しいんですが」


 化野は端末から顔を上げる。

「良いぞ。何が聞きたい?」

「できれば一通りをお願いしたいんですが」

 化野は、うーん、と唸り暫く考えてから話しだす。

「奴が現れたのは2ヶ月くらい前、無差別に人を殺していった。男・女・老人・子供。全員がナイフで惨殺されていた。全てが肉塊に変わっていて、そこかしこに捨てられていたよ。元々ここには人が多くいたが、今は破棄された街さ。軍警なんかも行方を追っているが捕まらないんだ」


 そこまで話し、立ち上がる。そして、別の部屋に消えて数分でカップを二つ持って帰ってくる。


「証拠がないんだよ。死体以外にはなに一つ出ていない。だから軍警も半ばあきらめムードなんだが、一方的に殺されてやる事も無いだろ? だから私たちで自警団を組んだのさ。最初は自警団も四つほどあったんだが、仲間が殺されたり、それ見てビビったりで今はウチしかない」


 化野と薫は同時にカップの液体を飲む。


「因に奴は、この場所がお気に入りらしくてな、仕事場はここしか選ばない。だからこの場所が最終防衛ラインなんだよ」


「そうなんですか。あの、殺人鬼が現れる前はどうだったんですか? 事件が多発していたとか」

「いや、奴以外には無いよ」

 そこまで聞いて薫は考えをまとめる。

 主人公は殺人鬼か自警団。悪を討伐する正義か、正義を蹂躙する悪か。今の可能性は殺人鬼。仮に化野だった場合、彼女を中心に事件が多発していたはずだ。だが聞いた限りではそれは無いらしい。今の判断では殺人鬼を捉えることが最善と言えた。


「俺も自警団に入れてもらえないですか? 即戦力とは行かないかもしれないですけど、人手には使えると思います」


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