異世界からの救世主と皆の決意
そう、封印には救世主が必要なのだ。
救世主を召喚し、魔王を倒せなければ人柱として完全に魔王を封じ込める。
文献には美辞麗句で書かれていたが、薫にはそう理解出来た。
「俺が必要なら、さっさと封印を始めてくれ姫様!」
封印に自分が必要な事を知って、それを実行しろと言うカイトにエメ姫は首を縦に振らない。
「どうします? このまま追い詰められるか、覚悟を決めるか」
エメ姫は薫に叫ぶ。
「貴方に何が解るんですか! 救世主でもない貴方になにが!」
「目の前にいるのはアベラール・エメ姫様。この場で全てを終わらせる権利と手段を持った人物だ。判断を誤らないでください。貴方の天秤には何が乗っていますか?」
彼女の天秤には、守べき国とカイトの命が乗って揺れている。
悩める時間は多くない、兵士の多くは既に倒され、カイトも折れた剣で戦っている。
数瞬だったが、エメ姫に取っては、様々な事が頭を駆け巡っていただろう。
「私はアベラール・エメ。この国を守るべき立場です。例え、かけがえのない人を犠牲にしても」
目には決意が灯っている。
カイトは笑い。魔王に飛びかかる。そして折れた剣を突きたて最後の戦いを見せた。
エメ姫は封印の詠唱を始める。その言葉が光となって魔王とカイトを縛り始める。
封印が半分ほどいったところで、魔王が左手を振り樹木を薙ぐ。破片がエメ姫と薫を襲った。
詠唱が途中で切れるのを防ぐため、薫は顔の位置で腕をクロスさせ盾となる。
幸運にも細かい破片しか当たらず大した怪我も無かった。
八割、九割と封印が進んだところでカイトが口を開く。
「俺は俺の運命を受け入れる。だから姫様もこの運命を受け入れろ! これは正しい選択だった!!」
姫の目には微かに涙が浮かんでいたが、最後まで詠唱を止める事は無かった。
全てが終わって国は平和になった。その日の夜は宴を開催し、国民も城の兵士も皆浮かれていた。ただし、魔王討伐の現場にいたものを除いて。
「カオルさん、お怪我は大丈夫ですか?」
城の宴会を後ろに聞きながら、テラスで呆けている薫にエメ姫が話しかける。
「えぇ、大丈夫ですよ」
エメ姫は精神的疲労も抜けないうちに、先程まで国民に魔王の討伐を宣言したり、これからの復興の協議をしたりと忙しそうにしていた。
そして、どんなに調べてもカイトを救い出す手立ては無かった。
これはエメ姫には相当堪えているはずだが、気丈にも耐えていた。
「今から、何もわかっていない異世界の人間が一方的に喋ります」
一息を入れて話し出す。
「恐らくこの国の兵士は強いです。ですが敵の倒し方を知らない。だから救世主を呼ばざるを得なくなった。その結果がこれだと思います」
エメ姫は何も言わず薫を見つめていた。
「もしかしたら、今後も脅威が襲ってくるかもしれない。その度に救世主を召喚してはダメだと思うんです」
「では、どうしろと?」
「二択です。構わず救世主を呼び続けるか、それとも自分たちの力で解決できる力を見いだすか。これからこの国を救うのは若い戦力です。彼らの意見を聞いてみてはどうでしょう。たとえそれが伝統を覆すものでも」
それだけ告げて薫はその場を去る。
人気のない廊下、そこで薫はため息をつく。
『どうしました? これでエメはもう救世主なんて呼ばないですよ。まぁ、召喚されたらまた薫に始末してもらいますけどね』
ミルは薫を別の世界に移動させる光を放ち、そして最初から何もいなかった様に消える。
「これからの運命はどうなるんでしょうか。カイト様」
初めて弱音を吐いた。薫に言われた事ももっともだと思うが、何かを変えるのは大変だ。
そこに数人の兵士がやってくる。見れば今日の魔王討伐にいた青年の兵士だ。カイトばかりに目が行っていたので、彼らの戦いぶりはあまり見れていなかったが、必死に戦ってくれていたのは知っている。
だから当然、労いの言葉を掛けようとした時、先に兵士が言葉を紡ぐ。
「今日、我々は何もできませんでした。いえ、救世主様に全てを任せ何もしなかったのです」
彼は拳を握っていた。血がにじむほど強く握りしめ震えていた。
「ですから、私たちに訓練を重ねる時間を下さい。今後は戦い方を変えて必ず勝てるようになります」
その決意はエメ姫にも痛いほど伝わっていた。また自分も無力を感じていたのだから。
「わかりました。貴方がたを信頼しています」
その言葉は、彼らに取って何よりも嬉しく有り難い言葉。
「ありがとうございます。きっとご期待に応えてみせます」
そこでやっと兵士たちの顔に余裕が生まれていた。
「私もこれから忙しくなりますね。カオルさんを元の世界に帰す方法も探さなくては」
この後、エメ姫と城の人間総出で薫の姿を探したが、どこにも見つからなかった。
異世界からの救世主編は終了です。
次はどんな主人公を始末しようか悩んでいます。




