異世界からの救世主の戦闘力
「大変です! 東の町に魔物の群れが出現しました。我々ではもう持ちません。救世主様、どうかお力添えを!!」
それを聞いたカイトは躊躇なく言う。
「当然だ、その為に呼ばれたんだからな! 早くその場所に案内してくれ!」
足早に出て行くカイトを追いかけ、薫とエメ姫も向かう。
町はずれの平原。そこには三メートルほどの角の生えた獣が五体と、兵士が十数人。到着したカイトはスラリと剣を抜き、魔物と対峙する。
カイトの到着で兵士は邪魔にならない様に避ける。
薫も巻き添えを喰らわない様に遠くでカイトを観察する。
「行くぜ!!!」
掛け声とともに疾走し、魔物に迫る。そして剣の間合いに入った瞬間、敵が上下に切断された。残りの四体も同じように、一刀で二分割されていく。
(ものの五分で全滅かよ。とんだ化け物だな)
カイトの規格外の強さに若干引いている薫とは対照的に、全てを片付けて剣を鞘に戻した彼は満足そうにうなずいた。
「だいぶ魔物退治も慣れてきたな。この調子なら魔王討伐も近いな!」
この台詞に薫は焦る。このままでは近いうちに魔王は倒される。そうなる前に打つ手を考えなければ。そこで一つ気になる事があった。
本当に兵士は役に立たないのだろうか?
もし、本当は魔物を倒せる兵士が存在するとすれば、一気に救世主を無能化できる。
幸いにも兵士は目の前に何人もいるし時間もある。
役目を果たしたカイトは、もう城の方へ歩きだしているし、エメ姫もそれに付いて行っている。薫がいなくても暫くは気付かないだろう。
(聞き取り調査だな。面倒だが仕方が無い)
ため息交じりに近場の兵士に話しかける。
「ちょっと聞きたいんだけど、魔王ってのは強いんですか?」
「そりゃ強いだろうよ。じゃなきゃ異世界からの救世主様に頼ったりしないさ」
別の兵士も笑いながら言う。
「そうだよな。最近は魔物も強くなって、一人じゃ倒せなくなったしな。救世主様が来てくれて有り難いよ」
薫の頭に疑問が浮かぶ。
「一人じゃ、ってどういう意味ですか?」
「? そのままの意味だよ。一対一では倒せないってことさ」
「なら、複数人ではどうなんですか?」
そこで兵士が何かに気付いて納得する。
「ああ、あんたは異世界の人だからな。知らないのも無理は無いか。我々は一対一で戦うのが基本なんだ。誰かが魔物と戦っていたらそれを見守り、敗れれば次の奴が戦いを挑むのさ。ただ今は救世主様の邪魔にならない様にすぐ退くけどな」
(なんだ、この合理性のかけらも無いタイマンシステムは! これじゃ勝てるわけねぇだろ)
薫と同じ事を思っていたのか、一人の青年兵士が口を挟む。よく見れば最初に薫を城へ連れて行った青年だった。
「やはり皆で挑むべきなんですよ! そうすれば魔王にもきっと勝てますよ!」
それには周りの兵士が良い顔をしなかった。
「以前にも言ったがそれはダメだ。一対一が我々の先祖からの教えだ。お前もわかっているだろう!」
つい語気を荒げた事を悪く思ったのか、大人たちは帰って行く。残されたのは薫と青年だけ。
「勝てるはずなのに、教えを厳守して勝てないなんて……」
「なら、自分が実績を作ればいい。口先では無くて、自分が行動して仲間と魔物を倒せばいい。どんな人でも結果があれば無視しない」
薫はこのチャンスを見逃さなかった。今の現状に不満を持つ若者、これは使える、と。
その後、魔王が現れるでもなく、カイトが討伐に行こうとも言わず、十日が経った。
その間に薫は様々な事を調べ、秘密裏に主人公の始末の仕方を決めていた。
そして突然、その時が来た。
「エメ様。魔王が現れました!」
絶望に彩られた顔で飛び込んできた兵士。つられるようにエメ姫の表情も硬くなる。しかし、その場にいた薫とカイトは戸惑わなかった。
「ついに来たか。こっちから出向く手間が省けて助かったな!」
凶悪に笑うカイト。
一方の薫は思案を巡らす。
(恐らくカイトは魔王を倒せる。戦闘中か戦闘後に仕掛ける)




