表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/37

想いと不安

 千姫の部屋から出ると、水が夜の見張り番と言葉を交わしていた。どうやら次の集団稽古についてらしい。自分と歳が変わらないであろう水が、男に混じって剣術稽古をするのは凄いと思う。


 そういえば、水の年齢は侍女の間でも話題になったことがない。大人びて見えるので、桜音はいつも年上だと思っているが、同年代であるのは間違いない。


 桜音が襖を閉めると、水はそれを見届け、夜の見張り番に「失礼します」と挨拶をする。そして自然と桜音の横に並んで歩き出した。


 この流れも、いつの間にか出来上がった習慣である。千姫は、水が自分に心を開いているというが、本当にそうなのだろうか。


「あの……、水さまっておいくつなんですか?」


 そう質問すれば、水は驚いたように桜音を見た。年頃の娘に年齢を聞くべきではなかっただろうか。やはり水も娘なのだなと桜音は内心焦った。


「す、すみません、失礼でした、ごめんなさい」

「あ、いや。あれ、言っていませんでしたっけ」


 水は笑顔で答える。


「はい、ごめんなさい、突然。気になってしまって」

「千姫さまと同じ歳ですよ。桜音殿の一つ下です」

「ええ!?」


 普段の凛々しさからは、まさか年下と思わず、声を出してしまった。水は珍しく肩を上げて驚いていた。


「桜音殿驚きすぎです……それに一つしか変わらないじゃないですか」

「すみません……普段の振る舞いから、てっきりお姉さんかと」


 桜音の反応が面白かったのか、水は一人でクスクスと笑っていた。今日は人に振り回されてばかりだ。桜音は話を変えたくなった。


「……そういえば、今度、剣術のお稽古があるのですか?」

「え?」


 思わず口に出してしまったことを後悔する。水の仕事に、勝手に関わろうとするのは良くなかっただろうか。それに、水が取り組む稽古で力になれることはないに等しい。せいぜい、稽古後に手拭いを渡したり、水を提供するくらいだ。


「……余計なことを言ってしまいました」

「そんなことありませんよ。稽古は私ではなく、桜音殿たちです」

「え?」


 桜音の頭に疑問が浮かぶ。まさか、今度の女性陣の長刀(なぎなた)稽古は水が見てくれることになったのだろうか。


 大坂城で仕える侍女たちは、長刀で戦えるように稽古する。それは自分の身を守るためというより、自身が仕える主人を守るためであった。


 驚いている桜音に、水が笑みを浮かべながら言葉を続けた。


「まだ聞かれてなかったんですね。侍女の皆さんへの稽古ですが、次回から私も教える側として参加することになりましたので、よろしくお願いします、桜音殿」

「え、え〜」


 緊張してしまう。嬉しいような、恥ずかしいような気持ちになるが、よく考えれば稽古の対象は桜音だけではない。お千代もそうだし、千姫付きだけでなく、他の姫君の侍女たちも一緒だ。


 長刀稽古を水が担当するとなれば、おそらくお千代は大喜びだろう。むしろ侍女全員が大喜びだ。せっかく水と仲良くなったのに、侍女たちに囲まれている水を想像すると、少しだけ複雑な気持ちになった。


 水が長刀の先生になったことを、千姫を差し置いて先にお千代に言うわけにはいかない。千姫からお知らせを受けるまで、お千代には秘密にすることにした。


「では、また明日、桜音殿」

「はい、おやすみなさい」


 水は桜音を部屋まで送ると、夜の挨拶をして去っていった。


 長刀稽古のこと、双子の妹のこと、水と話したいことはたくさんある。桜音は部屋から顔を覗かせて、水の背中を見送った。

※長刀・・・薙刀のこと。昔の表記。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ