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周りから見た二人


 水に仕事を横取りされてから数日、桜音と水の会話が格段に増えた。


 桜音は、水が空き時間に鍛錬をしていることを知っていたので、機会を見ては、手拭いを渡したり水筒を用意するようにもなった。大坂城付きの武士と手合わせしているときは、さすがに声は掛けられなかった。それでも、男相手に髪を靡かせて身を翻すその姿に見惚れてしまった。


 交流が増えて、水は意外と気さくであることが分かった。桜音が関わるのは、千姫と侍女の女ばかりだ。水は桜音と話すとき、笑ってくれるようなったので、水と過ごす時間は胸が高鳴った。


 桜音が大坂城にやって来たのは10年前。まだ8歳の少女だった。千姫が大坂の豊臣秀頼に嫁ぐとき、同年代の少女を話し相手としてのお供が必要という事で、中下級武士の家系から選ばれたのがお千代と桜音だった。


 桜音は水と親しくなったものの、新たな悩みが生まれてしまった。それは、水は桜音の家庭の事情を知っているのかどうか、ということだった。


 桜音には双子の妹がいる。しかし、実際に会ったことはないし、名前すら知らない。そもそも、自分に双子がいることを知ったのは、大坂城へ出発する前日だった。だから、実際に妹が生きているのかすら分からない。


 その秘密を、あの水は知っているのではないか。あのような聞き方、これまでの態度、おそらく水は妹と接触したことがあって、桜音が双子であると察したのではないだろうか。


 ところが、水はあれきり質問をしてくることはなく、頻繁に桜音の手伝いをするなどと声を掛けてくるようになっただけである。妹のことを尋ねるか迷ったが、自分の考えすぎだったらと思うと、聞くことができなかった。


 そんな桜音の小さな異変に気付いたのは、主人である千姫だ。寝支度中、お千代が部屋を出たすきに千姫が桜音に声を掛けた。


「桜音、何か悩みがあるのであれば、私が伺いますよ」


 千姫は桜音の一つ年下というのに、周囲を良く見て、侍女にまで気を配ることができる姫だ。それは徳川家から豊臣家へ嫁いだという、複雑な経歴を持つからかもしれない。


「ご心配おかけして申し訳ありません。悩みなどは特に……」

「そう?なら良いのだけど。そう言えば最近、水と仲が良いらしいですね」


 千姫がニコニコしながら言った。今この瞬間、襖の外に水が控えている。水は地獄耳なので、おそらく聞こえているに違いない。かといって、千姫にこの話題はやめてほしいとも言えない。


「ああ……何だか最近、よく手伝いをしてくれます」

「ふふっ、あなたも、水に対して甘いものね」

「どういうことですか?」


 千姫が人の話でこんなに楽しそうにするのは珍しい。千姫も年頃の娘なのだなと桜音は思った。そして、そういう千姫の女子らしい表情に少し安心もする。


「だって、桜音は自分の仕事は自分でやり切るのに、水には仕事を任せるなんて。毎朝の水汲みは、水の仕事になっているのだとお千代に聞きましたよ」


 お千代め、と桜音は心の中で幼馴染を恨んだ。


「水も水で、あなたに心を開いているんじゃないかしら」

「……そうですか?」

「ええ。私には、そのように見えますよ」

「そうですかねえ」


 本人に聞かれたくない話題だが、皆の憧れの水が自分に心を開いているのなら、正直嬉しい。確かに、水汲み当番を強引に取られてしまってから、お互いの距離感がグッと縮まったような気はする。


 それでも、もし水が妹のことを知っていたらと思うと、怖いような、不安のような、言葉にしようのない想いが胸に渦巻いた。


 千姫がこのように言うとは、水と会話をするところや、手拭いなどを渡している場面を誰かに見られていたのかもしれない。


「水の話、また聞かせてちょうだいね」


 千姫はまだ笑っている。この話題、早く終わらないかなと思っている間に、千姫の寝支度が整った。


「では、おやすみなさいませ、千姫さま」

「桜音、おやすみ。水と仲良くね」


 桜音は苦笑いしながら頭を下げた。これで、桜音の一日の仕事は終了だ。桜音は襖を開けて廊下へ出た。

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