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廻り始める運命〜報告〜

 正清が言っていたように、水が解放されてから間も無く大蔵卿局らは駿府城から出てきた。


「家康殿は、何も心配はいらぬと我らに言付けました。宿を用意してもらったから、これから行きましょう」

「……そうですか、承知しました」


 大蔵卿局は水にそう言った。源治の顔を見ても、間違いないと頷いている。まるで肩透かしを食らった気分だ。宿に着いてから源治にコソッと且元のことを聞いてみた。


「東市正様は?」

「駿府城内では会えなかったよ。そっちは?」

「こちらも、手掛かりはありませんでした」


 大蔵卿局たちには聞かれないほうが良いと思ったため、それ以上、二人は且元の話題は口にしなかった。

 

 水は、宿から千姫へ文を出した。おそらく明日に駿府を出ること、帰ったら茶々に伝えたいことがあると共有しておいてほしい旨を書き記した。中に桜音宛のものを入れ、明日に駿府を出る予定と書いた。翌日、一行は大坂への帰路に着いた。



 10日後、一行は茶々と秀頼へ旅の報告を上げていた。大蔵卿局は、安心し切った様子で茶々へ言う。


「家康殿より、鐘騒動の件は問題ないと言付かりました、茶々さま」

「そうか。なら良い。長旅ご苦労じゃったの。お前たちは下がれ。水、お前は残るように」

「はい」


 水以外は部屋から退く。皆の気配がなくなってから、水は改めて頭を下げた。


「水よ、報告があるそうじゃが、どうした」


 こうして政治的な指示をする茶々は、やはり淀殿と呼ぶに相応しい威厳があった。政治上、表向きは淀殿として男相手に振る舞っているだけあり、ビリビリとした迫力があった。茶々は扇で自身を軽く仰いでいる。


「はい。念のため、茶々様の耳に入れておきたいことがございます」

「なんじゃ」

「私は一度、徳川家の忍びと接触しておりました。それを懸念して駿府城内には入らず、城下町を回っていたのですが、その時に再度、徳川家の忍びと接触しました」


 茶々は仰いでいた扇の手を止めた。


「徳川領であるため、その場での始末は問題になると判断し、その流れで中井藤右衛門正清と対面したのです」

「ほう。何か言われたのか」

「はい。言われた内容をそのままお伝えするので、あらかじめご容赦頂きたいのです。私めに、徳川家の密偵として働かないかと言って、そのあと、豊臣家はいずれ滅びると唆してきました」


 茶々の目に怒りが宿った。秀頼も驚いたように水を見ていた。眉間に皺が寄っている。


「それで?水、お前はなんと答えたのじゃ」

「恐れながら……私は豊臣家に仕える身。役目を与えていただいたご恩があります。徳川家に付くつもりはないと言いました」

「それで、正清は納得したか?」


 おそらく、納得はしていないのだろうーーというのは水の推測だ。水は事実だけを述べようと、言葉を続けた。


「それが……私が言えば、冗談だと言われました。今のような状況で、このような発言がありましたので、茶々様の耳には入れておいたほうが良いかと思いまして」

「そうか……。ふざけた男じゃ」


 茶々は顔を顰めながらまた扇で仰ぎだす。


「それから、もう一点ございます。千姫さまのことなのですが」


 茶々は「申してみよ」と軽く言うが、秀頼はいっそう水に耳を傾けた様子だった。


「これは、駿府城の城下町の宿で聞いた会話です。徳川領の人々は、千姫はいつ戻ってくるのか、それとももう戻ってくることはないのか、と噂話をしておりました」

「どういう意味じゃ」

「噂話の程度であれば良いのですが……豊臣家を煽っているように聞こえまして」


 茶々は自身を仰ぎながら、鼻で笑う。


「はっ、ふざけおって……。水、お前を向かわせて正解じゃったな。今日はもう休め。千姫にもそう伝えておる」

「ありがとうございます」


 水は一度頭を下げ、退こうとしたところ、「水」と秀頼が声を掛けてきた。水は顔をあげ、秀頼を見た。


「ありがとう」


 秀頼はしっかりとした声色でそう言った。秀頼が千姫を想ってこその言葉だと思うと、水は、自然と頭が深く下がった。


「当たり前のことをしたまでです」


 水の態度に、茶々は満足している様子だった。水はそのまま部屋を後にした。20日余りの間、大坂城を離れていたため、水は一度千姫に顔を出しに行こうと足を進めた。すると、少し先に源治が待っていた。


「源治様」

「水、何か報告があったのか?」


 源治はどうやら水を待っていたらしい。水も、源治と話しておきたかった。


「皆さんと離れている間に城下町を見てきたので、その時の様子を共有したほうが良いかと思いまして」

「そうだったか。それで……東市正様はどうなったのか分かっているか?」

「いいえ……茶々さーー淀殿は、東市正様のことは、何も仰せになりませんでした」

「やはりそうか」


 源治は腕を組んで考え込む。源治もそこが気になっているようだった。


「……どうやら、まだ大坂城にお戻りになっていないらしい」

「こんなにも長い間、ですか」

「ああ。私も、東市正様にはお世話になっているから……心配だ」

「そうですね……。何か分かったら、教えていただけますか」

「もちろん」


 二人は互いを労ってから別れた。水はその足で千姫の部屋へ急いだ。いざ部屋へ行けば、千姫、桜音、お千代が茶菓子をたくさん用意しており、盛大な歓迎を受けた。ありがたいと思いながらもーー茶々に休めと言われたのにーーあまり体が休まらない水であった。

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