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葉名と水、二人の過去②〜双子の真実〜

 この山で暮らす子供たちは皆、‘複雑な境遇を抱えて’いる。もちろん、葉名もそうだ。


 水の生い立ちは、聞けば悲しいのは理解できた。それでも、母親の顔を知っているぶん、まだ良いではないか。自分は、赤子の頃からここにいるのだからーー。



 葉名は、物心がついた頃には鶴牙を師匠と呼んで、幼少期から忍びの訓練を受けていた。だが、どこかで鶴牙は父親ではないことは分かっていた。


「これは、お前の母の形見だ。持っていきなさい」


 まだ水がやってくる前の話だ。鶴牙が、自分の元を去る弟子に箱を渡しているのを葉名は見た。小さな木箱を受け取った兄弟子は、鶴牙に深々と頭を下げていた。似たような木箱を、葉名は鶴牙の部屋で見たことがあった。


 もしかして、私のもあるんじゃないかーー。


 葉名はそう思って、鶴牙が不在のとき、彼の部屋に入り込もうとした。


「葉名?何してんだよ」


 リクに見つかってしまった。正直に「親の手がかりを探したい」と言えば、リクは「手伝うよ」と言ってくれた。優しいところもあるのだなと思ったが、リクとしては面白そうだから、という理由なんだろう。


 生い立ちを知る手掛かりがあるかは分からなかった。ある意味、自分の気を沈めるための行為だ。


 鶴牙の部屋の奥に、それぞれの子供に関する品を木箱に入れて置かれていて、丁寧に保管されていた。リクの名前が書かれた箱の中には、空の小さな瓶があった。リク曰く薬瓶らしい。


「俺の家は、薬屋だったからな」


 リクは懐かしげに言った。いつもふざけてばかりのリクにも、思うことはあるらしい。


「異国との密偵を疑われて、潰されたんだ。俺は逃げたんだけどさ。そしたら、鶴牙師匠が拾ってくれたんだぜ」


 リクは鶴牙を信頼しているのだろう。


「師匠も、戦から逃げた人だし、いろいろ考えてんだろうな」

「そうなの?」

「そうだぜ。右足悪いだろ?あれ、戦いで負った傷だって言ってた」


 葉名は、まだ戦国の世の複雑さを知らなかったが、少し歳上のリクは理解しているようだった。少なくとも、葉名以上には。


「お、これ、お前のじゃないか?」


 葉名の手の届かない高さの棚に、それはあった。「葉名」と書かれた木箱だ。


 葉名の名前が書かれた箱の中には、一通の手紙が入っていた。難しい漢字は、リクが教えてくれた。


 葉名は、自分の父親が大名に仕える下級武士であることを知った。さらに、自分には双子の姉がいて、自分だけが捨てられたことを知った。その事実は、葉名の心を強く打ち砕いた。その手紙は、父親か母親かは知らないが、誰かの直筆なのだろう。


 双子は古来から忌み嫌われてきた。だから、占いでどちらの娘を育てるべきかを選んだという。結果姉が選ばれ、妹は災いを招くとして手放すよう助言された。


 殺しきれなかったため、手紙と一緒に妹を籠に入れて手放した。


 それを読む間、リクは何も言わなかった。葉名の気持ちを察してなのか、興味がないからなのかは分からない。


 ーーこんな手紙、残しておかなくても良いじゃないか。


 こんな真実なのなら、両親が戦に巻き込まれて、すでに死んでいると知らされるほうがましだった。勝手に産んでおいて、勝手に捨てるなど。名を与えず、顔も見ずに捨てたくせにーー。



 そのときは、親に捨てられたことが、ただ悲しかった。その手紙は箱に戻し、鶴牙にばれないようにそっと棚に元通りに置いた。


 

 少しずつ、少しずつ年齢が上がると、世の習いが分かるようになった。


 だからこそ、下級といえど、武家出身の自分には、他にも生きる道があるのだと知った。忍び装束ではなく、もう少し彩のある着物を着られたかもしれない。嫁入りのための修行をしているかもしれないし、どこかの姫に仕える侍女をしていたかもしれない。


 ーー憎い。


 顔も知らない姉を、初めて憎いと思った。誰かに教えられたことではないのに、この感情を理解した。


 双子ということは、自分と同じ顔のはずなのだ。見間違えるものか。もしも姉に会ったら、人生を奪えるかもしれない。  


 忍びとして買われ、いずれは姉を見つけ出して、必ず、殺してやるーー。

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