忍びと侍女、城下町の祭りへ②
人混みの中、水はずっと視線を感じていた。桜音はおそらく気付いていない。こんなに多くの人がいる中、一人や二人くらい、自分の異国人風の顔に気付いて、凝視してくる者くらいいてもおかしくはないのだろうか。
そう思って、ふと横を見ると、もう桜音はいなかった。
「……桜音殿?」
水は寒気がした。
周囲を見渡すが、どこを見ても人、人、人。だが、目が届く範囲に桜音の姿はない。水は声を張って桜音の名前を呼ぶ。
「桜音殿!」
叫んでも、返事はない。近くにいる人たちが何事だと振り向いてくるが、その中に桜音の顔はない。
「桜音殿!……桜音!」
水は人混みから抜け出して、走った。祭りから少し離れた路地裏を目指した。逸れただけのものか。先ほどまで視線を感じていたではないか。これはおそらく、人攫いの類だ。
桜音は今、路地裏で野盗に捕まっていた。口を押さえつけられ、腕を掴まれて身動きが取れない。相手は全部で3人の男たち。長刀稽古はあんなに張り切っても、所詮は女の桜音では歯が立つはずもなく、恐怖で声も上げられなかった。
「へへへ〜、いい女じゃないか」
「おいおい、まだだぞ、もう一人いただろ」
自分をどうするつもりなのだろうか。もう一人というのは、水のことに違いない。水はどうなっているのだろう。まさかとは思うが、水も捕まってしまったのだろうか。何か高級品など身に付けてなどいないのに。
「かわいい着物だなあ」
「まあ脱がしちまうけどな」
「まあ待てよ、お楽しみはまだだって」
桜音は、水と並んで歩いている途中、誰かに手を引かれ、転んで左足を挫いてしまった。膝も擦ったようだが、突然の痛みと恐怖で逃げられず、そまま引き摺られるようにしてここまで来た。どうして自分や水が狙われるのかが理解できなかった。
「おいおい、連れの女はどこだよ」
「見つけられねえなあ。おい女、連れの異国人はなんて名だ」
水のことだ。桜音は恐怖で声が出なかった。‘異国人’という言葉に、城内で水が言った台詞が蘇った。
『私の髪色や顔が目立ってしまっては……桜音殿に迷惑がかかるかと思いまして』
水は、このような事態を予想していたのだろうか。
「黙ってちゃ分からんなあ……仕方ねえ、自分の立場を分かってもらおうか」
「おいこら、脅す程度にしとけよ」
「わーってるよ」
男二人が桜音の両腕を掴む。桜音はまだ恐怖で動けなかった。逃げたいのに、逃げられない。声を上げたいのに、口は抑えられて叫ぶことができない。今から何をされるのかがなんとなく想像され、涙が出そうになる。桜音はギュッと目を瞑った。
そのとき、桜音のすぐそばに風が吹いた。




