第三十九話:とんでもないところにきてしまった
エンリケ君Gの力は凄まじかった、はっきり言って初期状態とは比べもにならないくらいの重量になっているツーバイフォーSPAを以前より素早く引いている。
俺も八本の歩脚をフル稼働して追いかけないといけないレベルだ。瞬発力では俺が圧倒しているが、長距離運航となると中々の勝負になる。
あまりにも順調すぎて、あっという間に海路を制し、ヨッティーに立ち寄ることもなくグラスランドを通り過ぎ、ハイランド前までやってきてしまった。
以前来たときは魔王軍と思われて攻撃されてしまったが、今回は静かだ。しかしエンリケ君もツーバイフォーも俺の姿も全部変わってしまったのに無反応なのは防衛的に大丈夫なのだろうか?
ハイランドの門へ近づくと横断幕が掛けられていた。
『祝 ハサミの勇士様 ご来訪』
その文字を見て俺は思い出した、そう、ここはクライスト教の総本山だった。
警備隊員たちは微動だにせずに整列し俺たちに敬礼していた。
門をくぐると俺がミスリル外骨格だった時代の姿の像があちこちに置かれ、アイスドラゴン外骨格の像も幾つかあり、中央にはハイランドで見せるのは今が初めてのはずの現在の外骨格の巨大な像が建っていた。
「どうなってるんだこれは……」
俺が戸惑っていると以前会った警備隊長が近づいてきた。
「勇士殿!お久しぶりです!我々ハイランドはアッシュランドからの報告で勇士殿のご来訪をお待ちしておりました!」
「あ、ああこれが頼まれていたパイロサンドだ。4トンある」
「おお!4トンも!これでさらに居住地を拡大できます!ありがとうございます!」
「それで報酬なんだが……」
「はい!ここに800万ゴルドあります!」
「いや、その一トン100万だから400万でいいんだが?」
「勇士殿の来訪への祝い金として400万です!」
「いやそれを受け取るのはどうもな……」
「勇士殿が食費にお困りなのは我々クライスト教団員なら周知の事実です!これは我々からのお布施でもあるのです!」
「何故俺たちの財布の事情までわかるんだ……」
「勇士殿達がいつも輝かしい活躍を納め、そして散財するのは目立ちますからね!」
「もちろんハイランドにいる間の飲食代は一切要りません!気にせず飲み食いしてくださいね!」
「いやそれはハイランドの経済が傾くのでは……ほら小麦だってグラスランドからの輸入だろう」
「そうですね確かにハイランドは取れるものが鉱石ばかりで食料は乏しいですが、クライスト教はグラスランドにもサンドランドにも強いコネクションがありますので、大陸総力を挙げて勇士殿をバックアップできるのです!」
「あ、うん、そうなんだ、別に俺は予言のハサミの勇士じゃないんだが……」
「もう!またそんなこと言って!各地を救ってるのに隠し立てなんてできませんよ!それも助け方が勇者より先んじるなんてもはや英雄の中の英雄ですよ!」
「そうか、じゃあちょっと依頼完了の手続きをギルドでしてくるから」
俺はあまりにも狂信的なハイランド警備隊の態度に居辛さを感じ、ギルドへと全速力で走ってしまった。
「凄い。勇士様のカニ走りだ……」
「なんという俊敏さ、もはや風のようだ」
「ハイランドに定住していただけないだろうか」
警備隊たちは口々にテッペイを讃えていた。
「食べ放題はうれしいんじゃが、なんだかここまで来るのを見るとテッペイの気持ちが少しわかる気がするのじゃ……」
「うーん、骨でもないのにこの忠誠心はちょっと怖いよね」
「いつだって一番厄介なのは人間なのよ~」
「あたしはちょっと崇められたいかも」
「レヴィアは俗っぽいのじゃ」
ドラミナたちも適当なことを言いながらギルドに向かった。
急いでギルドに入った俺を待っていたのは狂信的な歓迎ではなく、受付嬢のセニアだった。
「あ、テッペイさん!お疲れ様です。依頼を出してからまだ一週間も経ってないのに、もう納品までするなんて流石の早さですね!」
「あ、ああ。とりあえず完了報告したら一刻も早く帰ろうと思う」
「え?そうなんですか?ハイランドはみんな歓迎ムードなのに。あ、あれから市長さんもクライスト教団の司祭さんに代わったんですよ」
「いやそれはいかんだろ政教分離はどこへ行ったんだ」
「せーきょーぶんり?何ですかそれ?」
《私のような女神が実在する世界は宗教と政治は一体化してるに決まってるでしょ!なんかテッペイの方が崇められてるのは気に入らないけど!》
「まあ、とにかくなんだ俺は歓迎され過ぎるのが苦手なんだ、静かに川縁で佇んでいたいからな」
「なるほどわかりました!じゃあみんなにはそう伝えておきますね」
「伝えておきますね?まさか情報のやりとりをしてるのはセニア、お前なのか?」
「そうですね。テッペイさんの情報伝達はギルドで行ってるんですよ。テッペイさんは有望な冒険者ですからね。モニカともよく情報交換してますよ」
「二人は別にクライスト教徒じゃないんだよな?」
「はい。違いますよ!でもギルド自体はクライスト教の影響がここ最近とても強まってますね!」
「そうか……ドラミナ!食費は大幅カットだ!」
「いきなりなんでじゃ!?」
「節約生活して、だらだら過ごすぞ!これ以上活躍したらどうなるかわからん!ハサミの勇士伝説を風化させるんだ!」
「まあ、働きづめだったし、しばらく休むのもいいんじゃない~。お小遣いはきちんと管理するから安心よ~」
「私もしばらくは新しい骨コレクション要らないしひっそり生活でいいかなあ」
「働かないならあたしは里に帰ってもいいかな?」
「レヴィアちゃんはまだ借金返済が残ってるからずっと雑用よ~。辛いなら再教育で辛くなくしてあげれるわ~」
「あ~このパーティで働けるあたしって幸せだなあ!」
「レヴィア、不憫なのじゃ……」
こうして俺はしばらく活動しないことを心に誓い、ハイランドの人たちにものすごく名残惜しまれたが振り払いグラスランドへと帰った。
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