第二十五話:カニと勇者
控室での休憩を終え、遂に決勝の時がやってきた。相手は勇者カイトらしい。どこで聞いたことがあるような……。
《あなたが聖剣をへし折った相手ですよ!!》
「ああ、あの血の気の多い光ってた青年か。一等手加減しないとな……」
俺は過失致死にならないよう細心の注意が必要だと肝に銘じ闘技場へと向かった。
「さあ!お待ちかねの決勝戦だ!まず入場するのは東ブロックで圧倒的な力を見せて勝ち上がってきた、ハイランドのハサミの勇士!」
「勇士様ー!」
「クライスト教のさらなる隆盛を頼みます!」
なにやら俺のあずかり知らぬところで妙な事態が進んでるような。
「テッペイ!はやく100万稼ぐのじゃ~」
「出血しても相手にかけちゃだめよ~」
「テッペイ!新しい骨を見てくれ!」
「勇者カイトはなかなかの強敵ですよ、何せ私も敗れたのですからね」
なんか訳知り顔な目に黒い火がともったスケルトンが増えていた。また変なの増やしてるな……。
「そして西ブロックを勝ち抜いたのは女神に選ばれし勇者カイトだぁ!!先ほどの眩い激闘もまだ冷めやらぬうちの登場だぁ!!」
「うおお!勇者!頑張れー!」
「変な奴に負けるなー!」
「そうだ!宗教の押し売りはお断りだー」
西の通用口から勇者カイトがやってくる。
「やはりハサミの勇士はあなただったのですねテッペイさん」
「いやカニ違いだ今回のはただの登録名にすぎん」
「ですがその新しい鎧、アイスドラゴンですよね?」
「間に合わせの素材だ」
「やはりあなたは規格外だ。でも僕も聖剣を失ってから努力しました。勝たせてもらいますよ」
カイトはそう言うと双剣を十字に構えた。
ジャーン!
闘技開始の銅鑼が鳴る。
「最初から全力で行きます!はあああ!星爆嵐撃!」
カイトが叫ぶと金色に眩しく光りはじめ、超高速の斬撃が繰り出された。
カキキキキキィン!
俺はある程度ハサミで捌いたが何発か体に当たってしまった。さっきの相手より速いな?
ピシシ。
外骨格からあまり聞きたくない音が鳴った。勇者の攻撃は結構な威力だったようだ。
これ以上攻撃されて外骨格を壊されるのも嫌なので、とりあえず軽く小突いて決着をつけようと思い攻撃をしたが、ハサミでのパンチが勇者に当たらない。
「テッペイさん。あなたの攻撃が致命的なのは分かっています。当たりませんよ!」
カイトはそう言いながら、ヒット&アウェイでガンガン斬りつけてくる。
「これは困ったな。さっきの赤いのより速いぞ。」
《この状況で何で暢気なのよ!》
ペキキ。
どうもアイスドラゴン外骨格も限界が近いようだ。
「水鉄砲は殺してしまうかもしれないし仕方がない。ミスリル製のハサミで放つのは強度が不安だがあれを試すか」
「ハッ!?テッペイさん何かするつもりですね!クイックブースト!ディフェンスブースト!ガードプロテクション!」
危険を感じ取ったカイトは三重に強化呪文を唱え備えた。
「ハイパーキャビテーション」
ボソッとテッペイは呟いた。
パチン!
何かが弾かれる様な音が闘技場に響いた。凄まじい衝撃波が前方に放たれていた。
その瞬間カイトの体は吹き飛び闘技場の壁にめり込んだ。
テッペイのミスリルハサミは砕け散り腕が露出していた。
「やはりテッポウエビのキャビテーションを陸で再現するのには強度が足りなかったか……」
《あなたカニじゃなかったのぉ!なんでエビの技使うのよ!》
「しかし予想より威力があったな面攻撃として使ったつもりだったが……」
西の通用口から医療班が駆けつけてくる。カイトは意識を失っており、俺の勝利が確定した。
「なんという幕切れ!ハサミの勇士が勇者の猛攻に耐えるしかない展開だと思っていたら一瞬で決着がついてしまったぁ!!今回の闘技会の優勝はハイランドのハサミの勇士だぁ!」
「テッペイやったのじゃ~!」
貴賓席からドラミナが飛び降りて突っ込んできた。
「ドラミナ!今ははまずい!」
俺は制止しようとしたがドラミナに吹き飛ばされた。
ガシャーン!!
限界が近かったアイスドラゴン外骨格は砕け散り俺はまた腰布一つになってしまった。
「あ、ごめんなのじゃ」
「間に合わせではこの程度という事だろう」
「突然の乱入者のせいでハサミの勇士の素顔が見えてしまったぞ!なんというこれは美青年だ!」
「え?ハサミの勇士ってこんなにかっこよかったの?」
「凄い勇者よりよほど神々しいぞ」
「クライスト教の押し売りは正しかったのか?」
俺は面倒なことになりそうだなと思いながら、ドラミナと一緒に控室へと帰っていった。
控室に戻るとシャルロッテが待っていた。
「テッペイよくやった。そなたが優勝しなかったら色々と別の問題がややこしくなるところであった。それはそれとして、この後表彰式があるのできちんと出るように」
「外骨格がない状態で出るのは気が引けるが……」
「すぐに代わりを用意することはできんからな、どうしたものか」
「観客は割と盛り上がってるからいいんじゃないの?」
シオンの一言にシャルロッテは苦い顔をした。
「確かにテッペイの素顔は民衆には評判がいいだろうが表彰式には父上……陛下がいらっしゃるからな……さすがに腰布だけというのは……」
「シャルロッテ様!私の鎧を着てもらうのはどうでしょうか?背格好は大体一緒ですし、兜もありますし」
「レオナルドの鎧か、すぐに用意できるのか?」
「表彰式には間に合います!」
「テッペイそれで我慢してもらえるか?」
「軟弱なソフトシェルの状態よりはマシだろうからな。了解した」
《半裸をソフトシェルって言うのやめて!》
そうこうして俺は近衛騎士仕様の鎧に残った小さいほうのハサミガントレットを付けて表彰式に出ることになった。
決勝の時の熱気は過ぎ去り、闘技場は厳かな雰囲気に包まれていた。
臨時で作られた台と玉座にこの国を統べる王キングスレー14世が座していた。
「これより、闘技大会表彰式を執り行う!それでは優勝者、ハイランドのハサミの勇士前へ!」
俺は通用口から近衛騎士達で作られた通路を通る。
「そなたが、ハイランドのハサミの勇士か、しかしなぜ近衛騎士の鎧を?」
王様がもっともな質問を投げかけて来た。
「決勝戦で本来纏っていた外骨格を破壊されてしまってな、臨時で近衛騎士の鎧を借りている」
「なるほどそのハサミのガントレットがせめてものハサミの勇士としての主張というわけか。この度の闘技見事であった。褒賞として100万ゴルド、そして王国騎士へ取り立てとする!」
「賞金はありがたいが国に仕えるつもりはないぞ?」
《どうして王様に対しても偉そうなの!?》
「そなたはシャルロッテの推薦であったと記憶しているが?」
「確かに闘技会の優勝の依頼は受けたが騎士になるとは聞いてない」
「地位は必要ないと?」
「この後サンドランドにアダマンタイトを取りに行かねばならんからな。王都に長期滞在するつもりはない」
「ほう。どこまでも不遜な男だシャルロッテが選んだのも納得だな。よい!ではアダマンタイトの採掘権と賞金を渡そう」
「採掘権が必要だったのか……」
「ところでハサミの勇士よ、そなたは報酬さえあれば依頼を受けるのだな?」
「そうだな。報酬によるが」
「サンドランドに行くならばマジックサンドを王都に届けてほしいのだ、このところ輸送が滞っていてな。報酬は希少な魔導コアで受けてくれぬか?」
「それが何に使えるのかよくわからんがメルティあたりに使い方を聞くとするか。了解したマジックサンドの輸送を承ろう」
「うむ、では見事であったぞハサミの勇士よ。では下がるがよい」
「王様最後に一言、言わせてくれ」
「ほう、なんだ?」
「俺はハサミの勇士ではないそれはただの登録名で俺はただのカニ。テッペイだ」
《念を押していう事がそれなのね……》
「ふむ。覚えておこう、では今度こそ下がるがよい」
俺は一応頭を下げるとまた近衛騎士たちの間を通り控室に戻った。
控室に戻ると、貴賓室にいたはずの仲間たちがやってきていた。
レオナルドの顔色だけ死霊のシオン並みに悪いが大丈夫だろうか……。
「賞金なのじゃ~」
ドラミナが金貨袋に飛びつこうとしたときヒュッと空間魔法で金貨袋が吸われた。
「ドラミナちゃん。これはわたしが預かっておくわね~」
「触るぐらい許してほしいのじゃ!」
「あの、陛下とは何を話したんでしょうか……」
レオナルドが恐る恐る聞いてきた。
「ああ、マジックサンドの流通が滞ってるから様子を見てきて、輸送してほしいと言われたな」
「陛下が依頼を?それだけですか?」
「後は騎士になれとか言われたけど断ったぞ。仕えるつもりはないからな」
「あががががが」
レオナルドは今日二度目の気絶をした。
「シャルロッテ。部下の健康状態にもう少し気を付けたほうがいいのではないか?」
「レオナルドは優秀な男で普段はこんなに倒れたりしないのだがな、少し常識に囚われ過ぎるところがあるのだろう」
「ああ、それからアダマンタイトの採掘権をくれるってのと輸送任務が終わったら魔導コアを貰えるって言ってたぞ」
「魔導コアとか、なかなか手に入らないわよ~」
「いまいち何に使うかわからんのだが……」
「魔導鎧装なんかによく使われるわね~小型で高出力よ~」
「次の外骨格に積むか。脚を増やしたりできるのか?」
《まだ脚を増やすの諦めてなかったの!?》
「テッペイの速度に合わせて動かすとなると、それだけに魔導コアの出力使っちゃうわね~」
「十分だな」
「それにしても陛下が採掘権を贈るとはな、余が通行証を発行する必要もなくなったな。」
「通行証は必要ないが報酬は優勝したからきっちり貰うぞ」
「わかっている、第三宮殿で渡そう。レオナルド起きろ」
「は!姫様!またしても気を失っていたのか……不甲斐ない」
「気にする必要はない、お前の心労ももうすぐ終わるからな」
「と、いいますと?」
「テッペイたちがサンドランドに旅立つからな」
「それはそれで心配なのですが……」
こうして俺は闘技会を優勝し第三宮殿に戻っていった。
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闘技場救護室。
「僕は負けたのか……」
カイトはベッドの上で独り呟いた。
「あ、勇者様!目が醒めたんですね。壁にめり込んでいらしたのにもう大丈夫なんて流石です!」
「君が看護を?ありがとう。でも情けないところを見せてしまったね」
「そんなことないです。勇者様はかっこよかったです!あのわけのわからないハサミ男より断然頼りになります!」
「テッペイさんは確かに突拍子もないけど何度も魔王軍の動きを阻止してきてる凄腕なんだ、僕ももっと強くなってテッペイさんに追いつかないと」
「勇者様ならすぐに追いつけますよ!それに聖剣も使ってなかったですし」
「せ、聖剣は……いやなんでもない。君みたいな人の期待に応えられるように頑張るよ」
こうしてカイトは更なる修練に力を入れる決意を新たにしたのだった。
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