第十七話:ハサミの勇士爆誕
俺たちがハイランドの門の前まで来ると、警備兵たちがずらりと並んで出迎えていた。
「誤解は解けたはずだがな」
外骨格を修復中の俺はしぶしぶ乗っているツーバイフォーの中で呟いた。
「でも攻撃してくる感じじゃないのじゃ」
「なんだか歓迎されてる気がするわね~」
「アイスドラゴンを倒したのがもう広まってるんじゃないか?」
とりあえずツーバイフォーを駐車すると、警備兵たちがわらわらと近づいてきた。
「ありがとう!ハサミの勇士!」
「最初は魔王軍だなんて思ってすまない!爺さんたちの言ってた伝説のとおりだったんだな!」
俺は外骨格を失った姿でツーバイフォーから降り即座に否定した。
「俺はハサミの勇士ではない。見ろ輝く外骨格はもう纏っていない」
「でも輝くハサミはもってるじゃないか!」
「アイスドラゴンだって倒してくれた!」
「鉱夫達も全員無事だった!」
次々と警備兵たちは俺をハサミの勇士にしようとしてくる。
「いや、賞金がよさそうだから退治しに行っただけだ。俺は新しい外骨格を作りたいから失礼するぞ」
俺はメルティたちと素材を運びとりあえずスペースを貸してくれそうなクライスト教団の礼拝堂へ向かった。
「やはり、ハサミの勇士。謙虚な方だ」
「クライスト教は正しかったのだ」
「俺達でこの伝説をずっと盛り立てていこう」
なんだか話が大きくなっている気がしたが俺は気にしないことにした。
《気にしなさいよ!どう考えても街一つの思想をおかしくし始めてるわよ!!》
「すまないがスペースをまた貸してくれないか?」
俺は礼拝堂の戸を叩いて尋ねた。
「ああ、勇士様、活躍されて即教団の下に来ていただけるとは……私、感無量です」
「いやカニ違いだが、場所を貸してくれるのか?」
「もちろん!何なりとご自由に!そういえば輝く装甲を失われましたが、どうなさるのですか?」
「ああ、新しい外骨格を造るためにスペースが欲しくてここを頼ったんだ」
「なるほど新しい装いになるのですね!ああ勇士の装備が生まれる瞬間に立ち会えるとは!」
「もう完全にハサミの勇士扱いなのじゃ」
「便利だからいいんじゃないの~」
「私はエンリケ君を改造してくるね!」
「気を付けるんじゃぞ~」
シオンだけはツーバイフォーに向かい、残りの俺たちは新外骨格をどうするか話すことにした。
「ふむ、このアイスドラゴンの外皮、ドラミナのブレスでも無事だったことを見るとミスリルを超えてるよな?加工できるのか?」
「この世に毒で溶けないものなんてテッペイぐらいなものよ~きちんとした配合をすればちょちょいのちょいでできるわ~」
「そういうものか」
「とりあえず今のテッペイの採寸をするわね~。ついでに氷結毒も刺しとくわね~」
ドスッ。
むしろ毒注入が本命なのではないかと思ったが、俺の体に氷結毒が追加された。
ちょっと体がひんやりした気がする。
「テッペイがどんどん毒の化け物になっていくのじゃ……」
よほど毒が刺せたのが嬉しかったのかメルティは鼻歌交じりでアイスドラゴンの外皮の加工をし始めた。
俺は暇なので残されたミスリルハサミの確認をしながらマシュマロドラミナをつついていた。
「やめるのじゃ~」
ドラミナは構ってもらえて嬉しそうだった。
しばらくして、メルティがいかつい外骨格を持ってきた。
「うーん。金属と違って展延性が無いからどうしても元のトゲトゲが取れなかったわ~」
「いやこれはこれでオオホモラやクモガニ科の様でいいフォルムだ」
《深海棲のカニの種類とか絶対伝わりませんからね!》
俺は新しい外骨格を早速装着する。
アイスドラゴンから作られたからだろうか、ミスリルよりもよりひんやりして常に川底にいるような感じる。
「メルティ。いい出来だ。ふ、この冷たさ、スノークラブといったところだな」
《ズワイガニの英名とかこの世界の住人はわからないですからね!?全然うまいこと言ってませんからね!》
「前回付けた毒シリンダーはちょっとくっつかなかったから諦めたわ~。毒を注入する時はビーカーから飲んで頂戴ね~」
「もしかしたらシリンダーの接続部分が強度問題になっていたかもしれないな」
「改善余地はあるわよね~。次に外骨格作るときはもっと頑丈な金属がいいわね~生物素材は加工しづらいのよ~」
「そうだな、アイスドラゴンの外皮もどんな弱点があるかわからないからな次の事は考えておいていいだろう」
「新しいのできたのじゃ?おお!トゲトゲしてかっこいいのじゃ!妾もトゲトゲしたいのじゃ~」
「おまえはマシュマロが似合ってるぞ」
「え?そうなのじゃ?テッペイがそういうならこのままでいいのじゃ!」
「テッペイはムニムニ派なのね~」
「水クラゲなんかは好きだな」
トタトタ
「おお!それが新しい勇士様の姿ですか!なんと煌めいた装甲……以前よりもより輝いております!」
「確かにこの素材は光をよく反射しているな。俺は勇士ではないが」
「わたくしこの姿を脳裏に焼き付け必ずや素晴らしい絵画を作らせます!」
「いや別にそんなことはしなくていいが、まあいい、ギルドに報奨金を貰いに行くぞ」
「収入なのじゃ~」
「50万ならしばらく困らなさそうね~」
「まあ居心地がいいから今日もこの礼拝堂に泊まるがな。シオンとすれ違ったら俺たちはギルドに向かったと伝えてくれ」
「はい!よろこんで!またの帰還をお待ちしております!!」
俺たちは礼拝堂を後にしギルドへと向かった。
ギィ。
「ひえっ化け物!ん?そのハサミ、テッペイさんですか?」
セニアはギリギリで魔物避けスプレーの噴射をとどまった。
「ああ、外骨格を変えたから直ぐにはわからなかったか。ハサミがそのままで助かったな」
「えっと、もしかして倒したアイスドラゴン被ってます?」
「そうだ、少し事故で前の外骨格を失ってしまってな、間に合わせの部材で作りなおした」
「アイスドラゴンが間に合わせって……王都で売ったら500万ゴルドは稼げたんじゃ」
「金は後でいくらでも稼げる。外骨格を纏うことの方が重要だ。それはそうと報奨金を貰いたいのだが」
「あ、はい目撃者も多数、討伐対象を材料にした装備身につけていて審議の必要なしで50万ゴルドです!どうぞ!」
ドシャ!
「凄い音なのじゃ!見たことない量なのじゃ!」
スイーッ。
すぐに資金はメルティの空間魔法でしまわれてしまった。
「大金は見せびらかすものじゃないわよ~」
「ジャラジャラしてみたかったのじゃ……」
「ツーバイフォーの中でやりましょうね~」
《まるで親子みたいなやりとり。ちょっと微笑ましいですね》
「今日はたくさん食べてもいいんじゃな?」
「そうだな、栄養補給は重要だ今回、再生は使ってないが、後でシオンに肋骨を取られるかもしれん」
「あ、テッペイさん、食堂のおじさんが今日はご馳走してくれるって言ってましたよ」
「なに?」
「ハサミの勇士に最高のハイランド料理を振舞うって言ってました」
「む、カニ違いだが……」
「タダ飯は逃しちゃダメなのじゃ!ハイランド料理食べたいのじゃ!!」
「アイスドラゴン討伐は本当だからご馳走されてもいいんじゃないの~」
「それもそうか、シオンが礼拝堂に戻ってきてるか確認してからご馳走になりに行くか」
「やったのじゃ~!」
ギルドを出るとシオンがこっちに走ってきていた。
「テッペイ!エンリケ君DREを見てくれ!!」
「エンリケ君DRE?」
「見ればわかるから!早く!早く!」
「ご馳走を食べに行きたいのじゃが……」
「すぐ終わるから!お願い!」
「新しいものを見せたくなる気持ちわかるわ~私も新しい毒を調合出来たらすぐ試したいもの~」
シオンに引っ張られて俺たちはツーバイフォーへと向かった。
そこにはいつものエンリケ君が立っていた。
「すまないが何が変わったんだ?」
「なんでわからないんだよ!大腿骨と肋骨の上3対が置換されてるし、肩甲骨周りに骨が追加されてるし、角もドラゴンにしたんだぞ!」
「なるほど。確かに言われたところは質感が違うし、肩が立派になってるな。強そうだ」
「だろー?前より60%もパワーアップしてるんだぞ!ツーバイフォーじゃもう軽いくらいだ!」
「それならツーバイフォーにもたくさん荷物詰んでも大丈夫かもしれないわね~追加の家でも付ける~?」
「今ので十分だろう。速度が上がるならそのままの方がいい」
「ふふふ、エンリケ君はさらに強くなったから道中の魔物もイチコロだ!」
シオンは終始上機嫌だった。
エンリケ君を見終わった俺たちはご馳走してくれるという食堂へと向かった。
丸太づくりのいかにもハイランド風の建物に温かいスープの絵が描かれた看板が揺れていた。
「ああ、すまない、ハサミの勇士に食事を振舞ってくれる食堂はここであっているだろうか?」
「おお!おお!ああ!本物だあ!!クライスト様!あなたの教えは正しかった!!」
やはりここの主人も信徒だったようだ、落ちぶれてると言っていた割にはピンポイントで信徒がいるなこの宗派。
「申し訳ございません先祖8代にわたってクライスト教を信仰しておりましたので、つい感情が抑えきれず」
「いや俺はカニ違いなのだが」
「ハハハ!あなたのような格好の人が有史以降、あなた以外いるわけないじゃないですか!うちはハイランドでも人気の店なんですよ!さあ食べていってください!」
正直期待していなかったが食堂のハイランド料理は豪華だった。
鹿のシチューや、複数のジャガイモ料理。俺たちが運んだ小麦から作ったのかもしれないパスタやピザなど全く飽きさせなかった。
ドラミナなどさらに膨らんでマシュマロを通り越してバルーンになっていた。
「この世界食文化は随分豊富なんだな」
《フフフ、私を見直しましたねテッペイ》
「生態系が豊かで現地人の探求心が高いのだろうな」
《おかしいでしょ!ここは私を褒めるとこでしょ!》
食堂の主人に礼を言って、俺たちは礼拝堂に戻って休んだ。
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ここはハイランドの裏路地。
「おかしい、なんでクライスト教団がこんなに盛り上がってるんだ!」
一人の魔族が憤慨していた。
「我々苦労して用意したアイスドラゴンを倒した奴がどうやらクライスト教団に伝わる勇士らしい」
「そうか、危機に都合よく表れた冒険者のせいで勢いを取り戻したのか。なら話は簡単だ。そいつを始末して広場のオブジェにしてやればいい」
「今は礼拝堂にいるそうだ。あそこは無防備、とっとと殺してしまおう」
魔王軍の刺客がテッペイ達に迫ろうとしていた。
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