男装聖女と親友 2
妙な間があいて、イリアスはハッとしたように目を大きくした。
自分が口にした可笑しなセリフに気付いたらしい。
それからブンブンと大きく両手を振った。
「いやお前のことじゃなくて! ――や、お前のことか。いやいや、でも変な意味じゃなくて!」
「あ、ああ」
(変な意味ってなんだよ)
そう思ったが、焦りまくっているイリアスを見てそこはあえて突っ込まないでおいた。
「だ、だから、バレないように十分に気をつけろってことで……」
と、イリアスはそこでぴたと動きを止めた。
「そういえば、一応確認なんだけどさ」
「ん?」
「お前の正体知ってるのって、団長と俺の他に誰かいるのか?」
確かに、この先のことを考えてそこはちゃんと伝えておいた方がいいだろう。
「キアノス副長も知ってる」
「副長も知ってんのか!」
「ああ、呪いを解く時に、仕方なくな」
「そうだったのか……じゃあ、この3人ってことだな」
頷こうとして、あっと思い出す。
「あー、あと……」
「まだいんのか!」
なんとなく目を反らしながら続ける。
「知ってるっていうか……ザフィーリも藤花のことは知ってる、かな」
「はあ!? ザフィーリの奴が!?」
案の定、勢いよくベッドから立ち上がりイリアスはデカい声を上げた。
「なんでだよ!?」
「えーと……実はオレがうっかり変身するの忘れて廊下でバッタリ会っちまって」
ハハと苦笑するとその目が更につり上がった。
「何やってんだよ! てか、それいつの話だ?」
「あー、お前らが騎士に昇格してすぐくらい?」
「最近じゃねーか! で!? どうしたんだよ!」
強い口調で先を促されて、やっぱり言うんじゃなかったかと少し後悔する。
(さすがに一目惚れされた、なんてのは言えないよなぁ)
アイツの名誉のためにも、絶対に。
指をいじりながら話していく。
「この部屋に入るところを見られてて」
「はあ!?」
「なんでここに女がいるのかって詰められて……咄嗟にオレの、トーラの妹ってことにした」
「妹ぉ!?」
話しているうちにあのときのやらかしを思い出し、改めて恥ずかしくなってきた。
「や、でももうこの件に関してはきっちり解決済みだから! あいつも、ちゃんとオレの嘘を信じてくれたし!」
顔を上げるとイリアスが半眼で私を見下ろしていた。
「あいつ、本当に信じたのか?」
「え?」
「だって、あいつだぞ?」
「……」
――あいつだぞ。
その一言には妙な説得力があって、ダラダラと冷や汗が出てくるのを感じた。
(え……もしかしてザフィーリも、私の正体に気づいてる……?)
確かにあの一件以降、ザフィーリとは前より話すようになったし、前より雰囲気が柔らかくなったようには感じるけれど。
それはトーラのことをトーカの兄だと思っているからで。
いやいやと私は首を振る。
「で、でも、その後もあいつすげぇ普通だし、きっと、や、絶対大丈夫だって!」
「……だといいけどな」
低い声で言ってイリアスは漸くベッドに腰を下ろした。
そしてポツリと呟いた。
「……なんか、嫌だ」
「え?」
「団長や副長はしょうがないけどさ、あいつに先越されてたってのが……」
不貞腐れるように言ったイリアスに苦笑する。
「先って、」
「あー! なんで俺気付けなかったんだろ! 俺が一番お前の近くにいたのになぁ!」
そう言ってイリアスはごろんとベッドに寝転んだ。
……確かに、この世界に来てから一番長く一緒にいるのは間違いなくイリアスだ。
そんなイリアスにここまでバレずに来れたのは。
「それは、やっぱオレの男のフリが上手いからだろ」
得意になって言うと、イリアスはがばっと起き上がった。
「それだよ! まさか女の子なんて思わないだろ!」
「はは、凄いだろ」
「凄いよ! だから俺、お前に抱きついたり普通にしちまってたじゃねーか!」
「ああ、そうだったな」
「あ~~もう、ほんとごめん! 悪かった!」
頭を掻きむしったあとで勢いよく頭を下げられて私は慌てる。
「いやいや、謝るなって。全然気にしてないから」
「そこは少しは気にしろよ! 聖女様だろ!?」
「そうだけど……さっきも言ったけど、オレはこれまで通りにしてもらえた方が嬉しいんだけどな」
笑って言うと、イリアスはもう一度頭を掻いた。
「これまで通りなぁ……。俺もそうしたいけどさぁ……でも、お前団長と付き合ってるんだろ?」
「う、うん……」
「なんか俺、団長からすげぇ嫌われてる気がすんだけど」
ぎくりとする。
「そ、そんなわけないだろ! ラディスはそんな小さな男じゃないって!」
「そうかぁ? でもこの間お前と空飛んだとき藤花から離れろって落とされそうになったような」
「そ、そんなことないって! あのときお前パニクってただろ!」
「そうだけど……」
と、イリアスはもう一度力なくベッドに倒れ込み、ボヤくように言った。
「やっぱ俺、一人部屋に移ろっかな」
「!」
私は大きく目を見開いた。




