男装聖女と親友 1
そのまましばらくの間食堂でラディスを待ったが、一向に現れる気配はなく夜が更けていった。
ハウリーさんたち先輩方もあの後食堂にやってきたが、やはりまだ何も聞かされていないようだった。
魔女退治の件、それに不在の間に始まってしまった戦について、ラディスは王様やお城の偉い人たちと話をしているはず。
遅くなるのも仕方ないけれど、心配だった。
「とりあえず部屋行くか。休めるときに休んでおこうぜ」
イリアスに言われ、私たちは自室に戻ることにした。
(イリアスだって、戦に参加することになるかもしれないんだもんな)
少し前を歩くイリアスの背中を見つめる。
……私はきっとお呼びが掛かることはないだろう。
まだ一人で馬にも乗れないのだ。戦場に行っても足手まといにしかならない。
(でも、私は……)
「あ〜! やっぱ、自分のベッドが一番だな!」
部屋に着くなり、イリアスはベッドに大の字に寝転んだ。
それを見ながら私はハっとする。
(そうだ、部屋割りの話!)
こんなときだというのに面倒なことを思い出してしまった。
しかし、ラディスからの命令はなんとしても避けたい。
そのためには私からイリアスに言うしかない。
(でも、なんて切り出そう……)
ラディスが嫌がっているから部屋を別にしてくれ、なんて本当のこと絶対に言えるわけがない。
自分のベッドに腰を下ろしつつ考える。
――お前、一人部屋の希望出さないのか?
(なんか、わざとらしいよな……)
――そういえばザフィーリの奴、一人部屋に移るんだってな!
(うーん、遠回しすぎるか?)
――お前、このままオレと同室でいいのか?
(~~なんか嫌だ!)
小さく首を振り、思わずため息が漏れる。
……やっぱり、今はやめておこう。
ラディスだってそれどころじゃないだろうし、せめてこの戦が落ち着いてから――。
「心配だよな、団長のこと」
「え?」
顔を上げるとイリアスが気遣わしげに私を見ていた。
私の吐いたため息をそちらの意味にとったようだ。
「でもさ、団長のことだしきっとうまくやってるって」
「あ、ああ、そうだよな」
頷き苦笑する。すると。
「あ、そうだ。俺、お前に訊きたいことがあったんだ!」
ベッドから起き上がり、イリアスがこちらに身体を向けた。
「なんだ?」
「あのさ、お前がいた異世界ってどんなところなんだ?」
「へ?」
子供のようなキラキラした目をして、イリアスは続ける。
「だってお前、ここじゃない違う世界から来たんだろ? どういう世界なのか気になるじゃんか! やっぱお前みたいに皆空飛べるのか?」
「いやいや、空飛べるようになったのはオレもこの世界に来てからで……あー、でも空を飛べる乗り物ならあるよ」
「マジで!?」
興奮したようにイリアスは身を乗り出した。
「月まで行ける乗り物もあるし」
「月!? って、あの月か!?」
窓の向こうを指差し大興奮するイリアス。
そこで、同じ話を数日前キアノス副長にもしたことを思い出した。
(そういえば、ラディスから向こうの世界のことを訊かれたことは一度もなかったな)
今ならその理由がわかる。
昔から見ていたという夢で、私の世界を見ていたからだろう。
「こんな夜でも、ピってボタン押すだけで部屋の中が昼間みたいに明るくなるし」
「はあ!?」
「洗濯だってピって押すだけで全部機械がやってくれる」
「マジで!?」
「あと、こんな小さな機械で遠い国にいる人と話すことが出来たり」
「嘘だろ!?」
いちいち反応が面白くて、ついこちらも調子に乗って色んな話をしていた。
しばらくするとイリアスは驚き疲れたのか、ほぅ、とため息を漏らしながら後ろに手をついた。
「そんなすげぇ世界ならさ、きっと戦なんてないんだろうなぁ」
「!」
私はゆっくりと首を横に振る。
「いや、戦は普通にある」
「え……」
「さっき、空飛ぶ乗り物があるって言ったろ」
「あ、ああ」
「それに乗って空から他の国を攻撃したり……すさまじい威力の兵器があって、それがあれば、あっという間にひとつの街を破壊することも出来る」
それには流石のイリアスも言葉を失っていた。
「まぁ、オレのいた国は今は平和だけどな」
「……そんなヤバい世界だから、ここに残ることにしたのか?」
「え?」
「言ってただろ。帰るのやめたって」
深刻そうに訊かれて私は思い出す。
――そうだ。フェリーツィアたちと話していたあのとき、イリアスも起きていたのだ。
私はそれにも首を横に振る。
「いや、オレがこの世界に残ることにしたのは、お前たちがいるからだ」
「え?」
イリアスが目を瞬く。
「お前やラディス、この騎士団のみんなといるのが楽しくってさ。帰りたくなくなっちまったんだ」
少し気恥ずかしくて笑って誤魔化すと、イリアスは急に視線を泳がせた。
「そ、そっか」
「だから、これからもよろしくな。聖女って言ってもそこまで凄い力があるわけじゃないし、フェリーツィアみたいに綺麗なわけでもないしさ、これまで通り気楽に」
「お前だって綺麗だろ」
友人がなぜかムッとした顔をしていて。
「は?」
私は思わず、そんな間抜けな声を返していた。




