男装聖女と戦 2
一先ず腹ごしらえだと、私はイリアスに誘われ食堂へと向かった。
ラディスのことは気になったが、ただ待っていても仕方ない。それに確かにお腹は減っていた。
でも着いて驚いた。飯時はいつも人でごった返している食堂が閑散としていた。
人の話し声よりも、カチャカチャという食器の触れ合う音の方が大きく感じる。
一体どのくらいの人数がバラノス侵攻に参加しているのだろう。
「見習いも結構駆り出されたってよ」
「見習いも?」
今日のメニューであるラザニアに似た料理を口にしながら向かいのイリアスが小さく言った。
……そこまでして勝ちたいのだろうか。
それとも、見習いの参加許可が出るほどに楽な戦いだということなのだろうか。
戦争。
向こうの世界にいるとき、それはニュースで見る遠い国の出来事だった。
でも、私が生きることに決めたこの世界のこの国では、今確かに戦争が行われているのだ。
そして私は、そんな有事に戦場に出る騎士を目指している。
目の前にいるイリアスだって……いや、彼はもう正式な騎士なのだから、この後戦場へ赴くことになるかもしれないのだ。
(イリアスは、バラノス侵攻のことをどう思ってるんだろう)
訊いてみようかと思った、そのときだった。
「トーラ!」
名を呼ばれ振り返ると、見覚えのある奴らが4、5人、こちらに手を振っていた。
確か、あのデカいチンピラ風の奴といつも一緒にいる奴らだ。
パッと見たところ、あの男自体は不在のようだけれど。
(そういや結局、あいつの名前聞いてないな)
そう思っているとその中の一人、ツンツン頭の奴が私の隣にどかっと腰を下ろした。
こいつもなかなかに柄が悪い。
「魔女退治に行ってたんだって? あの女見つけたのかよ!?」
デカイ声で訊かれ私は曖昧に答える。
「あー、うん。まぁ、なんとかな」
「マジか! それで!?」
奴らの視線が私に集中する。
私の口から言っていいものか少し迷ったが、きっとすぐに広まることだ。大丈夫だろうと私は続けた。
「ラディス団長が倒してくれたよ」
おおっと歓声が上がる。
「さっすが団長!」
「これで俺のダチも浮かばれたぜ」
「おいおい、死んだみたいに言うなよ。生きてるっつーの」
どっと笑い声が起こって、でもお陰で静かだった食堂にいつもの活気が少し戻った気がした。
ぽんっ、と肩に大きな手が置かれる。
「俺らがこうして笑っていられんのはトーラのお蔭だもんな!」
「いや、それはもういいって」
気恥ずかしくて、話を変えるように訊ねる。
「それより、あいつは? お前らの仲間の」
「ゼストーか?」
ゼストーという名前なのかと思いながら頷く。
「そう、ゼストー」
「あいつはバラノスだ」
「えっ」
目を丸くすると、ツンツン頭は続けた。
「急きょアイツにもお呼びがかかってな。喜び勇んで向かったぜ」
「そうだったのか」
(あいつも、バラノスに……)
見習いも駆り出されたという話は本当だったのだ。
「ま、ゼストーのことだ。俺たちゃ誰も心配してねーけどな!」
「むしろ、アイツがやり過ぎねーかとバラノスの奴らを心配してるくらいだ」
そしてまた笑い声が上がる。
私が合わせて苦笑していると。
「でもよ、これでバラノスもおしまいだな!」
「漸く平和が訪れるってもんだぜ」
(平和……)
確かに、これまで何度も繰り返されてきたというこのレヴァンタとバラノスとの戦争が終結すれば、平和が訪れることになる。
「でもそうなると、俺ら要らなくなるんじゃねーの?」
「馬鹿野郎、バラノスもこっちの国のもんになるんだぜ。あっちでの働き口も増えるに決まってるじゃねーか」
「あーそっか」
「なんだよ、いい事づくしじゃねーか!」
と、ツンツン頭が笑いながら言った。
「でもそう考えるとよ。あの魔女、案外この国にとっては聖女様だったのかもな!」
(――え?)
それを聞いて私は目を見開く。
「聖女様が現れた国は繁栄が約束されるってんだろ? まさにじゃねーか?」
確かに、このままバラノスに勝利したらこの国はそこまで勢力を伸ばすことになるのだろう。
経緯はめちゃくちゃだけれど、結果的にこの国の繁栄に繋がったことになる。
「それはねーだろ。トーラがいなかったら俺たちだって危なかったんだぜ」
「そっか。そうだよな。悪い、トーラ」
急に謝られて私は首を振る。
「い、いや」
「それを言うなら、むしろ俺らにとっちゃトーラの方が聖女様じゃね?」
ギクリとした。
「確かに」
その場にいる皆の視線が私に集中する。
なんだか妙な流れになってきて、私は慌てて反論した。
「な、何言ってんだよ! やめろよな。オレは男だっつーの!」
「――お前ら。俺のダチに変なこと言うなよ」
そう低い声で加勢してくれたのは、それまで黙っていたイリアスだ。
「てか、俺ら遠征から帰ってきて疲れてんだよ。静かに飯食わしてくれねーか?」
「あ、ああ、そうだったな。悪ィ悪ィ」
そうしてツンツン頭は素直に席を立った。
「んじゃあな、トーラ!」
「ああ」
食堂を出ていく奴らを見送っていると、イリアスが短く息を吐いた。
「お前さぁ、あいつらに気を許しすぎだっつーの。評判悪いの知ってんだろ? てかお前だって酷い目に遭ったじゃねーか」
「酷いって言っても突き飛ばされただけだし。それに意外と仲間想いの連中だってわかったしさ」
笑いながら食事を再開すると、イリアスは呆れたように続けた。
「そうじゃなくてさ……」
「?」
ラザニアを頬張りながら私は首を傾げる。
するとイリアスはもう一度大きな溜息を吐いてこちらを軽く睨んだ。
「……とにかく、バレないように気を付けろってこと。今だってヤバかっただろ」
「うっ」
確かに、まさかの流れに驚いたけれど。
「ん。ありがとな。助けに入ってくれて。気を付けるよ」
「お、おう」
お礼を言うとイリアスは照れてしまったのか、私から視線を外しラザニアを口いっぱいに押し込んだ。




