男装聖女と騎士団長の秘密 3
「私の夢は、今も見てるのか?」
ラディスの腕の中で訊く。
だとしたら結構恥ずかしいと思ったのだ。
昔から見ていたという夢も、よく考えると大分恥ずかしいけれど。
(一体どんなところを見られてたんだ……?)
「いや、お前がこの世界に現れてからは、ぱったりと見なくなったな」
「そっか」
それを聞いてちょっとホッとする。
「不思議だな。やっぱ聖女の血をひいてるのかな……あ。ならラディスにも何か奇跡の力があるんじゃないのか?」
だがラディスは首を振った。
「そんな力があったらとっくに気づいてる」
「そりゃそっか」
「が、不可解なことは他にもある」
「え?」
「お前がトーラの姿で初めて俺の前に現れたときだ。男に変身したお前を見て、しかしすぐに藤花だとわかった」
「!」
それは私もずっと不思議に思っていたことだ。
ザフィーリの件もあるし多少は似ているのかもしれないが、まず性別が違うのによくわかったなと。
「それともうひとつ。……や、これはいい」
「は?」
「さて、そろそろ出る支度をしなければな」
途中で言うのをやめ起き上がったラディスの腕をむんずと掴む。
「なんだよ、気になるだろ!」
「……これは、まだ確証がない」
「いいから!」
すると、ラディスはなぜか私から目を逸らした。
「……俺がお前に、藤花に触れたいと強く思うと、お前が元の姿に戻るみたいだ」
「え」
その頬が心なしか赤くて、私もそれに釣られて自分の顔が熱くなるのを感じた。
「じゃ、じゃあ、この前ここに泊まったとき」
「ああ……お前に触れたいと思っていたら寝ていたお前が突然藤花の姿に戻ってな。俺も驚いた」
ということは、前に私が熱を出したときも。
(あのときも、私に触れたいと思ってたってことか……)
てっきり体調が悪いせいで力が不安定になっているのかと思ったけれど。
と、ラディスがばつが悪そうに続けた。
「まだ確証はないが、気をつける」
「あ、ああ」
もしそれが本当だとしたら、ふとしたときに私の意思に関係なく戻ってしまうことになる。
それは、確かにめちゃくちゃマズイ。
「でもやっぱりラディスにも何かあるんだろうな……聖女関係の何か……」
もどかしかった。
今更ながら、ダフニさんが持っているという書物を見せてもらえば良かったなんて思ってしまう。
帰る方法だけでなく、何かそこに重要なことが書かれていたかもしれないのに。
(まさか、あの村にまた戻るわけにもいかないし……)
「あっ!」
「どうした?」
私はシーツで胸元を隠しながら起き上がる。
「ずっと、お前に訊きたいことがあったんだ」
「なんだ」
今の今まですっかり忘れていたけれど。
「城の中に秘密の書庫があるって、ラディス聞いたことないか?」
「秘密の書庫……?」
私が騎士団に入ろうと思ったそもそものきっかけ。
聖女の伝説について記された書物があるという、秘密の書庫。
「そう。そこに聖女の伝説について書かれた書物があるって聞いて、それで私、騎士になって城に入ろうと思ったんだ」
「そういえば、魔女の家でそんな話をしていたな。……なんだ、やはり帰る方法が知りたいのか?」
「違う違う!」
慌てて首を振る。
「この世界で生きることにしたって言ったろ。そうじゃなくて、もしかしたらその本にラディスの見た夢のこととか聖女との関係も書いてあったりしないかなって」
「そういうことか」
「で、城にその書庫はあるのか!?」
思わず身を乗り出していた。
秘密の書庫。本当にあるのなら是非入ってみたい。
「秘密の、と言えるかわからんが、一応一般人の出入りを禁じている書庫ならある」
「ほんとか!? わ、私は」
「見習い騎士は入れない」
「そ、そっか……」
がくっと肩を落とす。
……でも、ということは。
「え、じゃあラディスは?」
「俺は入れる。入ったこともある」
「えっ!?」
「が、聖女に関する書物はなかった」
「なかった?」
その言い方に引っ掛かりを覚える。
「ってことは、探したってことか?」
「ああ。俺も聖女の伝説については気になっていたからな」
「なんだ……そっか」
今度こそがっかりしていると。
「お前も探してみるか?」
「え? でも見習いは入れないって」
「王陛下に言われていただろう。お前を騎士にしてもいいと」
「!」
そういえば、そんなことを言ってもらえたことを思い出す。
「無論、騎士になることはまだこの俺が許さないが」
「なんだよ……」
「が、書庫に入るくらいは許可が出るかもしれない」
「!」
ないとわかっていても、一度入って自分で探してみたかった。
大きく頷くと、ラディスはふっと笑って立ち上がった。
(!)
その全裸の後ろ姿を見て私は慌てて目を逸らす。
……やっぱりまだ慣れない。
自分の服を探すとベッドの足元に散乱していて、それを掴んで素早く身に着けていく。
「でも騎士なら入れるってことは、イリアスやザフィーリはもう入れるんだよな。イリアスは興味なさそうだけど、ザフィーリの奴はソッコーで行ってそう」
笑っていると、ラディスが身支度をする手を止めた。
「……ああ、そうだ」
「ん?」
「城に戻ったら、あいつとは部屋を別にするからな」
……瞬間、その意味がわからなくて。
「えっ!?」
一拍置いて、私は声を上げていた。




