男装聖女と騎士団長の秘密 2
――私たち聖女様の血を引く者が皆、夢に見たのです。
フレージアが予言についてそう話していた。
あのときラディスも物置の中でその話を聞いていたはずだ。
ラディスがあの時、あの場所にいたことが偶然じゃなかったのだとしたら。
ラディスも、二年前にその夢を見ていたのだとしたら……。
じっと見つめたまま答えを待っていると、ラディスは目を伏せた。
「わからない」
「へ?」
まさかの返答に私は間抜けな声を出していた。
「わからないって……?」
「確かに、夢は見た」
「!」
「二年前、お前があの森に現れる夢だ」
「なら! やっぱりお前も聖女の血を」
私の声を遮るようにラディスは首を横に振った。
「俺は孤児でな。両親が何者なのか、どこで生まれたのか、何も知らないんだ」
ゆっくりと目を見開いていく。
――ラディスが、孤児?
(私と、同じ……?)
「だから俺も、あの魔女の話を聞いたときには驚いた。お前のいうように、もしかしたら俺も聖女の血をひいているのかもしれん。だが、それを確かめる術はない」
「孤児って、なんで……?」
私が小さく訊ねると、彼は話してくれた。
「さぁな。物心ついたときには炭鉱で働いていた。他にも煙突掃除やら戦場での物取りやら……生きるためにはなんでもやった。我ながら、良く生きていたものだと思うがな」
胸が痛い。
……同じなんかじゃない。
私も孤児だけれど、全然違う。
私には保護してくれる施設があった。
贅沢は出来ないけれど学校にも通えたし、寝る場所も食べるものもちゃんとあった。
でも、ラディスにはそれがなかった。
「だが12の頃、俺はヴィオーラと出会った。彼女は俺をはじめて人間扱いしてくれた人だ」
人間扱い……その言葉だけで、それまで彼がどれだけ過酷な人生を送ってきたのか伺い知ることが出来た。
「ヴィオーラは戦で夫と子供を同時に亡くしていてな」
「え……」
彼女に家族がいたことを、私はこのとき初めて知った。
お世話になっている間、ひとりで宿を経営している逞しい女性だと思っていたけれど。
「だからか、彼女は俺を本当の息子のように育ててくれた。俺にとっては、はじめて出来た家族のような存在だ」
ふたりのやり取りを思い出す。
確かにふたりの間にはそんなあたたかい雰囲気があった。
――でも。
あまりにラディスの子供時代が壮絶過ぎて、言葉が出てこなかった。
訊いてはいけなかったかもしれない……そう罪悪感すら覚えていると。
「そんな顔をするな」
「……」
そうして頭を撫でられた。
「俺がこれまで生きてこられたのは、お前のお陰なんだぞ」
「え?」
どういう意味だろう。
目を瞬いていると、ラディスは優しげにそのグリーンの瞳を細めた。
「お前のことを夢に見たのは二年前だけじゃない。俺はそれよりずっと前から、藤花のことを夢に見ていた」
その言葉の意味が瞬時には理解出来なくて。
「――えっ!?」
私は思わずガバっと起き上がっていた。
「ど、どういうこと?」
「理由は俺にもわからないが、物心ついた頃から俺は度々お前の夢を見ていた。――俺と同じく親のいない少女の夢を……」
彼は穏やかな口調で続けた。
「夢で見るその世界は全てのものが真新しく輝いていてな。しかしそこに、いつも寂しそうな少女の姿があった。彼女にも親がいないのだと気づいて、俺はいつしかそんな彼女に会ってみたいと思うようになった」
――夢で、私を……?
「そんなあるとき、俺は異世界から現れるという聖女の伝説を知った。俺は夢の中の少女がその聖女に違いないと悟った。そして、その聖女を守るとされる『聖騎士』になるのだと俺は生まれてはじめて夢を抱いた」
ラディスが誇らしげに言う。
「そうして今の俺があるんだ」
「……」
「二年前、お前がこちらの世界に現れる夢を見て俺はすぐさまイェラーキを走らせた。そうして賊に襲われているお前を間一髪、助けることが出来たわけだ」
今度は驚きが大き過ぎて言葉を失くしていると。
「良い眺めだが、いいのか?」
「え? ……あっ!」
彼の視線を辿って胸が丸見えだったことに気付いた私は慌ててシーツの中に飛び込んだ。
ラディスはふっと笑ってから、そんな私をもう一度強く抱きしめた。
「俺はずっと、お前に会うために生きてきたんだ。藤花」
――私に、会うために……。
嬉しいのに、なんだか胸のあたりがきゅっと苦しくなって、私はその背中に手を回した。
彼を抱きしめたいと思った。
……本当は、孤独だった幼い頃の彼を抱きしめたかったけれど、それは叶わないから。
「ラディス」
「ん?」
私は今出来る精一杯の笑顔で言う。
「あのとき、助けに来てくれて本当にありがとう!」




