男装聖女と騎士団長の秘密 1
ふわふわと雲の上にいるような心地でいた私は、頭を撫でられる感覚でゆっくりと目を開けた。
「おはよう」
窓からはキラキラとした日の光が差していて、目の前にはキラキラとしたラディスの顔があった。
「……おはよう」
相変わらず整った顔してんなーと思いながら私は挨拶を返す。
「体調はどうだ?」
「体調? 別に何も……」
そう答えてから、私ははっきりと覚醒した。
「!!」
がばっと起き上がって、自分が素っ裸であることに気づいて慌てて毛布で隠す。
そんな私を見て枕に肘をついたラディスはふっと笑った。
「今更隠されてもな。昨日全部」
「わーーっ!」
思わず遮るように声を上げていた。
(そうだ。私、昨日ラディスと……)
ラディスも何も身にまとっていなくて、その逞しい身体を見てどんどん顔が熱くなっていく。
昨夜は暗くてこんなにはっきりとは見えなかったし、頭がぼーっとしていたし。
でも私は昨日、この身体に――。
「そういう可愛い反応をされると、今度こそ抱くからな」
「ばっ」
バカと返そうとして、気づく。
「“今度こそ”?」
まるで、今回は何もなかったかのような言い方だ。
はっきりとは覚えていないが、昨日私たちは確かに……確かに?
(なんで、覚えてないんだ?)
肌を重ねて、何度もキスをして、触れられて、とてつもなく恥ずかしかったことは覚えているけれど。
すると、そんな私を見てラディスは軽くため息を吐いた。
「覚えていないのか? まぁ、だろうな」
「え?」
「お前、昨日途中で目を回してそのまま寝たからな」
「え」
(途中で……?)
目をパチパチと瞬いて、半眼になっているラディスを見つめる。
「じゃあ……」
「ああ、未遂だ」
それを聞いて、さーっと顔の熱が引いていく。
代わりにだらだらと冷や汗が出てくる。
何も覚えていないはずだ。
てっきり、昨夜私はラディスとひとつになれたのだと思っていたけれど。
「な、なんか、ごめん……」
あんなに覚悟して、決死の思いでラディスに身を任せたのに。
申し訳なくて、情けなくて、そんな謝罪の言葉しか出てこなかった。
……確か、男の人は途中でやめられるとめちゃくちゃ辛いと聞いたことがある。
(ラディス、怒ってる……?)
それとも呆れているだろうか。
と、手が伸びてきてまた頭を撫でられた。
穏やかな緑がこちらを見上げていて。
「謝る必要はない。お前の身体は余すところなく見せてもらったし可愛い声も」
「わーーーーっ!」
またしても聞いていられなくなり声を上げながら耳を塞いでいると。
「それに」
「わっ!」
その腕を引かれ、シーツの中に引きずり込まれた。
そのまま強く抱きしめられる。
肌と肌が密着してラディスの体温が直に伝わってくる。
「こうして触れ合えただけで十分幸せだ」
この状況はめちゃくちゃ恥ずかしいけれど、そう言ってもらえて少しほっとする。
(でも、やっぱり悪いことしたなぁ……)
最中に目を回すなんて、情けないったらない。
きっと、色々耐えられなくなって頭がパンクしたのだろう。
罪悪感を覚えながら私も彼の背中に手を回そうとして。
「またしばらくの間、ふたりきりにはなれなさそうだからな」
「!」
……そうだ。
城に帰ったらすぐに王様に魔女についての報告をしに行かなくてはならないし、その後はきっとバラノスとの戦についての話になるだろう。
こうしてラディスとふたりきりになれる時間は、きっと当分なさそうだ。
(訊くなら、今しかない)
「――あ、あのさ」
私はラディスの腕の中で口を開く。
「ラディスに、訊きたいことがあるんだ」
「なんだ?」
顔を上げて、なるべく真剣な目を向ける。
「私たちが森で初めて会ったとき、なんで私があの場所に現れるってわかったんだ?」
「!」
予想通り、グリーンの目がいっぱいに見開かれる。
「あのときラディスが私を助けてくれたのはずっと偶然だと思ってた。でも、フレージアの話を聞いて、偶然じゃなかったのかもって」
「……」
そして、私はドキドキとしながら続けた。
「もしかして、ラディスも聖女の血を引いてるのか?」




