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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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男装聖女と騎士団長の夜 2


 ラディスは小さく溜息を吐いて私を解放してくれた。


「俺はトーラのままでも構わないのだが」

「私が構うんだよ!」


(トーラの姿でラディスとキスは、なんかダメだろ!)


 私はなんとか集中して藤花の姿に戻り、再び睨むようにラディスを見上げた。


「ど、どうぞ」

「――ふっ」


(え?)


「ハハハっ、どうぞってお前……っ」


 声を上げいきなり笑い出したラディスを見て、私はぽかんとする。

 こんなふうに笑うラディスを初めて見た。


(というか、こんなふうにも笑えるのか)


 冷徹と云われる彼の、また新たな一面が見られた気がした。


 ――しかし。


「はっ、腹が、よじれる……くくっ」


 腹まで抱え始めたラディスを見て、じわじわと恥ずかしさがこみ上げてきた。


 確かに「どうぞ」は無い。

 なんだ「どうぞ」って……!


 心の中で自分にツッコミを入れながらどんどん顔が熱くなっていく。


「そ、そこまで笑うことないだろ!」


(こっちは必死で覚悟決めようとしてんのに……!)


「いや、わ、悪い」


 そう謝りながらもその口元が緩んでいるのを見てムカっと来た私は、ふんと背中を向けた。

 

「もういい! 私もやっぱみんなと飲みにいってくる」


 ドアを開けようとして、しかし背後から伸びてきた手に押さえられてしまった。


「なっ」

「そのままの姿で行くつもりか?」

「い、言われなくても、ちゃんとトーラに」

「藤花。すまなかった」


 優しげな声と共に後ろからやんわりと抱きしめられて、ぐっと言葉に詰まる。


「許してくれ。お前があまりに可愛いことを言うから」

「可愛くなんてない……」


 ただバカみたいに緊張して、アホみたいに空回っているだけだ。


「可愛いよ、藤花は。どうしようもなく、可愛い」

「……っ」


 ズルい。

 好きな人から何度も可愛いと言われて、嬉しくないわけがない。


「だから、行かないでくれ」


 困ったような声が聞こえて、ゆっくりと振り返ると優しい翡翠の瞳がこちらを見下ろしていた。

 私の好きな目だ。


「許してくれるか?」

「……」


 こくりと頷く。


「抱いてもいいか?」

「!?」


 急にそんなふうにはっきりと訊かれて、ボっと顔の熱が上がる。


「そ、それは……」

「どうぞ、とはそういう意味ではなかったか?」

「で、でもやっぱり、まだ」


 自分でも往生際が悪いとわかっている。

 でも恥ずかしい。

 それに正直……怖い。

 ラディスが怖いわけじゃない。

 自分がどうなってしまうのかわからなくて、怖かった。


「俺は藤花に触れたい」


 またも耳元で言われて、ぞくぞくと首の後ろに知らない感覚が走る。


「ダメか?」

「~~っ」


 私は彼の胸に顔を埋め、小さく呟くように言った。


「……優しくして欲しい」


 恥ずかし過ぎていっそ消えてしまいたかった。


「了解した」

「――わっ!」


 返答と共にいきなり抱き上げられて驚く。

 初めてではないのに、その横顔を見上げてドキドキした。

 ベッドまで連れて行かれて優しく下ろされる。


「ラディ、っ」


 そのまま彼は私の額にキスを落とした。

 ちゅ、と音を立ててそれはすぐに離れて。


「ありがとう」

「え?」


 ラディスが優しく微笑んでいた。


「この世界を選んでくれてありがとう。藤花」


 私は目を見開く。


 ――そうか。

 ラディスはずっと不安だったのかもしれない。

 異世界から来た私が、いつか帰ってしまうのではないかと。


 私が迷っている間もずっと、不安だったのかもしれない。


 そう思ったら、たまらなくなった。


「藤花?」


 両手を伸ばして、彼を強く抱きしめていた。


「ごめん、私、自分のことしか考えてなくて」


 突然謝られて戸惑っている様子の彼を見上げ、私は言う。


「私、ずっとここにいる。ラディスがいるこの世界に、ずっといるから」


 恥ずかしい台詞だけれど、恥ずかしいとは思わなかった。

 ただ彼に伝えたかった。

 大丈夫だと、安心して欲しかった。


「だから――っ」


 唇を塞がれて、それがキスだとわかって、私はそれを受け入れる。

 息がつけないくらいの激しいキスだった。

 でも彼の気持ちが伝わってくる、とても愛おしいキスだった。


 それが離れたときにはもう頭も体もふわふわとしていて、その後のことはあまり記憶にない。


 ……ただ。


「愛してる」


 そう何度も囁かれて、何度もキスをされて。


「藤花」


 何度も、何度も、幸せそうに名を呼ばれたことは覚えている。


 私はそれを嬉しく思いながら、彼の腕の中で眠りについた。




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