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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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男装聖女と騎士の友 2


「そういえば、先輩たちはどこまで知ってるんだ?」


 途中、小声で訊くとイリアスは言った。


「あー、先輩たち爆睡してたからなぁ。多分なんも知らないはずだ。団長、どう説明する気だろうな」


 馬たちに続いてイリアスや先輩たちが消えてしまって本気で焦ったことを思い出す。


「……え? でも、じゃあなんでお前は平気だったんだ?」

「平気っつーか、俺が一番に目ぇ覚めてさ。近くで寝てる先輩たちを起こそうと思ったら、フェリーツィア……じゃないのか、その姉さん? を連れた団長が現れて」


 きっとその場所もラディスがフレージアに案内させたのだろう。


「そんで、これからお前を助けに行くっていうから無理やりついてった」

「無理やり?」

「団長には先輩たちとこの場に残れって言われたんだけどさ、お前が攫われたってのにただ待ってるなんて出来ねーし」

「イリアス……」


 私がまた感動していると、イリアスはニッと笑った。


「ほら、いつだか言ったろ? お前がいなくなったら探しまくって絶対連れ戻すって」


 私は目を見開く。


 ……そうだ。

 不安に駆られた夜、イリアスのその言葉を聞いて酷く安心したのだ。


「ありがとう、イリアス」


 改めてきちんとお礼を言うと、イリアスは照れてしまったのか前に向き直りぶっきらぼうに言った。


「親友なんだから、当然だろ」


 そんな彼に微笑んで、私はもう一度謝る。


「なのに、ごめんな。オレ、助けにきてくれたお前たちをあんな……」

「まぁ、そりゃ驚いたけどさ。こうして皆無事なわけだし、結果オーライってやつだろ!」


 そうしてまた笑ってくれた彼に、私はもう一度ありがとうとお礼を言った。




「お前たちも無事だったか!」

「良かった、これで全員揃ったな」


 先輩たちは私たちの姿を見て大いに喜んでくれた。

 そして、そんな皆の前でラディスは言った。


「これ以上異変が起きる前に、この森を出るぞ」

「しかし、魔女のことは王陛下になんと……」


 ハウリーさんが不安げに言うのを聞いて、私はハっとする。

 そうだ。私たちが王様から賜った任務は、魔女フェリーツィアの捜索。

 このまま城に戻ればその任務を果たせなかったことになる。


「魔女フェリーツィアは俺がこの手で始末した」

「!?」


 皆の顔に驚きと動揺が走る。勿論私もだ。


 そして彼が徐に取り出したものを見て、ぎょっとする。

 それは、ふわふわと癖のある金髪の束だった。

 フェリーツィアを見たことがある者だったらすぐに彼女のものだとわかるだろう。


(ど、どういうことだ……?)


 一瞬、最悪な事態を想像して胸がざわついた。――でも。


「お前たちが消えた後、俺は森の中であの魔女を見つけた。捕らえようとしたが幻術を使おうとしたのでな、やられる前に斬った」


 ごくりと誰かが喉を鳴らした。


 でも私はその話を聞いて、それが全部彼の「嘘」なのだと気付いた。

 傍らのイリアスと目が合う。彼もわかったのだろう。


「……で、では、魔女の目的は」


 ロドニーさんが神妙な顔で訊くとラディスは目を伏せた。


「わからず仕舞いだ。……だが」


 と、ラディスが私を見た。


「トーラの想像通りかもしれん」

「え?」

「俺たちへの逆襲だ。……あの魔女はそういう目をしていた」


 重い沈黙が流れて。


「――こ、この森に火を放つというのはどうですか?」


 そう思い切るように声を上げたのは先輩の中で一番若いカルーシさんだった。

 私はぎくりとする。


 すると、ラディスは彼に厳しい目を向けた。


「やめておいた方がいいだろうな。それこそどんな災いが振りかかるかわからん。それに、近隣の村にまで被害が及ぶ可能性もある」

「そ、そうですね……」


 それを聞いてラディスがこの森を……サクラ村を守ってくれたのだとわかった。


「城に戻るぞ」

「はっ!」


 ラディスの号令で私たちは早々に馬に跨り、この『魔女の森』から脱出した。




 空が大分明るくなってきた。

 長かった夜が漸く明けるのだ。

 イェラーキの軽快な蹄の音を聞きながら、私は後ろのラディスに声を掛ける。


「ありがとう、ラディス」


 すると素っ気ない声が返ってきた。


「何がだ」

「あの村を守ってくれたんだろ? でも、さっきの髪は?」

「……お前たちと離れた後、空から降ってきた」

「え!?」


 私が驚くと、ラディスは溜息交じりに続けた。


「『藤花はあなたに任せる。絶対に守って』という声と共にな」


(フェリーツィア……)


 その声を聞いたわけではないけれど、きっと彼女だ。

 フェリーツィア。私と同じ、日本人の血を引いた女の子。

 出会い方は最悪だったけれど、怒ったり、泣いたり、忙しい子だった。


(時間があったら、もっと話したかったかもな)


 ラディスの更に向こう、遠ざかっていく森を振り返りながらそんなことを考えていると。


「本当にいいのか?」

「え?」


 ラディスの、森と同じ深いグリーンが私を見下ろしていた。


「異世界に戻る方法が知りたかったんじゃないのか」

「!」


 やっぱり、そのあたりの会話も聞かれていたみたいだ。

 私は前に向き直って答える。


「言っただろ。もういいんだ」

「だが……お前のいた世界は随分と素晴らしい世界のようじゃないか」

「え?」


 見上げると、ラディスはなんだか小難しい顔をしていた。


「素晴らしい世界?」

「前に話していただろう。この世界より色々なものが便利だと」


 確か、キアノス副長に元いた世界はどんな世界かと訊かれたときだ。


「言ったけど……」

「戻らなくていいのか。この世界は何かと不便だろう」


 その不機嫌そうな顔を見て、やっと気付いた。


(もしかしてラディス、拗ねてる?)


 そう思ったら急に可笑しさと愛おしさが込み上げて、つい顔がにやけてしまった。


「何を笑っている」

「いや、ごめん。……でも、本当にもういいんだ」


 どんどん過ぎていく穏やかな風景を見ながら言う。


「オレはこの世界で生きることにしたから」

「なぜ」


 私はそのまま前に向き直る。

 ……面と向かっては、恥ずかしかったから。


「だって、この世界にはラディスがいるし」

「!」


 彼が驚いたのが伝わってきて、してやったりとちょっといい気分になっていると。


「……今そういうことを言うな」


 そんな切羽詰まったような低い声が聞こえてきた。


「え?」

「抱きしめたくなるだろう」


 ぎょっとして振り返る。


「や、やめろよ!?」

「当たり前だ。……宿に着いたら覚えていろ」


 その熱を帯びた瞳を見て、私は自分の言った恥ずかしい台詞をすこぶる後悔したのだった。




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