男装聖女と魔女の村 2
「まさか、聖女様が騎士になっているだなんて……」
妹のフェリーツィアから簡単に事情を聞いたフレージアが愕然と呟き、そのまま力なく椅子に腰を下ろした。
(まだ見習いだけどな)
そう心の中で補足し、背にしている扉にコツンと後頭部をつける。
私は再びフェリーツィアの家に戻ってきていた。
ラディスとイリアスのふたりは今この扉の向こう、狭い物置部屋の中で背中合わせに縛られ眠っている。
勿論、武器である剣は取り上げられて。
ダフニさんは明朝には目覚めるはずだと言っていたけれど。
――あの後、眠ってしまったふたりをこのまま殺してしまえという声が上がり、私は青くなった。
この村で騎士は想像した以上に恨まれているようだった。
このままではマズイと私は聖女の力を使ってこの村から逃げようと考えた。
しかし、そんな村人たちを鎮めてくれたのはダフニさんだった。
「彼らの処遇は私が決めます」
彼女が穏やかな口調で言うと、声を上げていた村人たちも皆渋々納得したように解散していった。
そして一先ずフェリーツィアの家にふたりを運ぶことになったのだ。
それを手伝ってくれたのもダフニさんに頼まれた村の男たち。
私が聖女の力でふたりいっぺんに運ぶことも考えたけれど、バレているとは言えあの場で元の姿を、そして聖女の力を晒す気にはなれなかったので正直助かった。
――この村でダフニさんの存在がいかに絶大であるかがわかった。
そんな彼女はつい今しがた「また明日来ます」と言ってあの女性に支えられながらまた自宅へと帰っていった。
彼女の家はこの家のすぐ隣なのだそうだ。
(ごめんな、ラディス、イリアス……)
扉の向こうにいるふたりに心の中で謝る。
ふたりは任務のため、そして私を助けるためにここまで来てくれたのに、こんなことになってしまった。
完全に私の中に出来た迷いのせいだ。
(これからどうしよう……)
小さく溜息が漏れる。
国王様直々に与えられた初任務だと、城を出るときはあんなに張り切っていたのに。
「――で、これからどうすんだよ」
そう苛ついた声を出したのは、先ほどと同じ椅子に座ったフヌーディだ。
瞬間私が言われたのかとドキリとしたが、その視線はフェリーツィアの方に向いていた。
「どうするって言われても……」
フェリーツィアが困ったように答えると、フヌーディは顎で私の後ろの扉を指した。
「さっきのあいつ、あの冷徹だって有名なレヴァンタの騎士団長だろ? やっぱあそこで殺しちまえば良かったんじゃね?」
そんな不穏な言葉にぎくりとする。
そうだ、彼もまた騎士に恨みを持っているひとりだった。
「でも、彼は……」
フェリーツィアがチラリとこちらを見る。
……彼女はラディスと私の関係に気づいているのだろう。
そしてフヌーディもこちらに視線を向けた。
「あんたもよくわからねーなぁ、聖女様」
「フヌーディ!」
フェリーツィアが諫めるように声を上げるが、構わず彼は続けた。
「あんたはどうしたいんだよ。この村に残ってくれる気はあんのか?」
「それは……」
案の定訊かれて、でも私はそのあとを続けることが出来なかった。
正直、ダフニさんに言われた「この村で暮らす」という選択肢は考えられなかった。
でも、このまま騎士団に戻ってもこれまで通りやっていく自信がなくなっていた。
……昨日までは確かにあった、絶対に騎士になってやるという確固たる思いが、揺らぎ始めていたのだ。
私はそんな自分に激しく動揺していた。
と、フェリーツィアが助け舟を出してくれた。
「フヌーディ、おばば様が言っていたでしょ。すぐに答えは出さなくていいって」
「でもよ、その間にまたあいつらの仲間が襲ってきたらどうすんだよ」
「大丈夫よ。またしっかり結界は張ったもの」
「でも騎士の奴らにこの村の存在がバレちまったわけだろ。それこそ森に火でもつけられたら」
「オレたちはそんなことしない!」
思わず大きな声で否定していた。
「でも実際、フレージアはそう言って脅されたんだろ?」
フレージアの顔が強張るのがわかった。
「そ、それは多分、オレを助けるために仕方なく……本気だったわけじゃない!」
強く言いつつも、半分はそうであって欲しいという願望だった。
フヌーディがふんと鼻で笑う。
「どうだか。俺は騎士の奴らの残忍さをよーく知ってるからな」
残忍さ……それを聞いてズキリと胸が痛む。
騎士は国を守るために命を賭して戦う。
そのためには敵を……人を傷つけることもあるだろう。
それは、騎士団長であるラディスも同じで……。
――彼は、これまで一体どれだけの人をその手にかけてきたのだろう。




