男装聖女と魔女の村 1
「無事だったのか!」
イリアスがホッとしたように声を上げる。
ラディスは私と目が合っても何も言わなかったけれど、その顔がやはり安堵するのがわかった。
心配を掛けてしまったことを申し訳なく思いながら私は頷く。
「ああ、オレはなんともない。だから、彼女は離してやってくれ」
「は? でも、こいつは城に……」
イリアスが戸惑うようにラディスの方をちらりと見た。
ラディスもワケを訊きたそうに眉をひそめている。
――そうだ。
元々私たちの任務は騎士団に呪いを掛けた魔女の捜索と確保。
私が無事だとわかれば、彼女をこのまま城へと連行するつもりだったのだろう。
でもそうなったら彼女はきっと処刑されてしまう。
最悪、この村だって危なくなる。
(どうすればいい)
ぐっと手に汗を握る。
この姉妹がしたこと、そしてこの村の人々が考えたことは許せないけれど、その原因が私……「聖女」にあるというなら、このまま見過ごせない。
そもそも、私が聖女であることを隠し騎士になるなんて考えなければ、こんなことにはなっていなかったかもしれないのだ。
(やっぱり、皆が呪いに侵されたのは私の身勝手のせい……?)
そんな自分らしくない暗い考えを慌てて頭から振り払う。
――なんであれ、私の知るところで誰かが犠牲になるのは嫌だ!
それに、聖女の子孫であるという彼女たちにはまだ訊きたいことがたくさんある。
(向こうの世界に帰る方法だって、まだ見ていない)
ラディスだけなら……私が聖女だと知る彼だけならなんとか説得できるかもしれない。
でもイリアスがいる前で聖女の話は――。
「フェリーツィアは私よ!」
「!?」
そのとき名乗りを上げ私の隣に立ったフェリーツィアを見て、イリアスの目が真ん丸になった。
ラディスもさすがに驚いている。瓜二つの人間がもうひとり現れたのだから当然だろう。
「バカっ!」
彼女を止めようとしたのか、その腕を掴んだフヌーディが背後で叫ぶ。
しかし彼女はその手を振り払い続けた。
「城には私が行く。だからその人を離して!」
「なんで出てきたの!?」
フェリーツィアの姿を見てフレージアが悲鳴のような声を上げた。
「えっ、え?」
そんなふたりのやり取りを見て、イリアスは大混乱しているようだった。
と、ラディスの鋭い視線が私に刺さる。
「トーラ、説明しろ」
「えっ、と……」
“冷徹騎士団長”を思い出させるその視線にダラダラと冷や汗が出てくるのを感じた。
「っつーか、お前いつまでそっちにいんだよ。早くこっちに来いよ!」
イリアスにそう突っ込まれ、そうだよな、そうなるよな、と思いつつもその場から動くことが出来ない。
(ど、どうすりゃいいんだ)
――そんなときだった。
「聖女様は渡しませんよ」
「!?」
そんな覚えのある嗄れ声が聞こえたかと思うと、杖をついたダフニさんが私の前にゆっくりと進み出た。
「おばば様!」
「おばば!?」
「長老!」
「長老!!」
フェリーツィアや村人たちから驚きの声、いや、歓声が上がる。
そんな中、彼女はゆっくりと持っていた杖を彼らに向け、その先をくるりと回した。
「!?」
途端、ラディスとイリアスがその場にガクリと膝をついた。
そのまま地面に突っ伏してしまったイリアスを見て、私は悲鳴を上げる。
「イリアス!?」
焦りそちらに駆け寄ろうとするが、後ろから誰かに強く腕を掴まれた。
「なっ!?」
掴んでいたのは先ほどダフニさんと一緒にいた長身の女性だ。
「大丈夫です。眠らせるだけ」
彼女が酷く冷静な声で言う。
すぐにふたりの方を振り返ると、ラディスが地面に両手をついて悔しそうにこちらを見上げていた。
「とう……っ」
私の名を呼ぼうとしたのだろう。しかし、彼もそのまま力尽きたように倒れ込んでしまった。
「ラディス!」
彼女の手が離れ、今度こそ私はふたりの元へと向かう。
膝をついて焦ってふたりの様子を確認するが、彼女の言う通りどうやら深く眠っているだけのようでほっと胸を撫でおろす。
「おばば様!」
そしてダフニさんの方へと駆けて行ったのはフレージアだ。
手を後ろで縛られたまま、彼女はダフニさんの前に跪き頭を垂れた。
「申し訳ありません、おばば様! この森に火をかけると脅され、こうするしか……」
「良いのですよ。無事に帰ってきてくれて何よりです。それに、貴女たちのお陰でこうして聖女様をこの村にお迎え出来たのですよ」
「聖女、様……?」
顔を上げ、きょろきょろと辺りを見回すフレージア。
……そうか。フレージアはまだ私のことを知らないのだ。
そんな彼女を見て、ダフニさんが可笑しそうにふっふっと笑う。
「今は少し違うお姿をされていますがね」




