男装聖女と魔女の家 5
「まさか! 結界が破られるはず……っ」
フェリーツィアが悲鳴のような声を上げた。
(結界?)
フヌーディが青い顔で続ける。
「そ、それが、フレージアの奴が人質になってるらしくて」
「姉さんが!?」
フェリーツィアの姉はどうやらフレージアと言うらしい。
と、フヌーディの視線が私に移った。
「仲間を返せって」
「!」
やはり彼女はあのときラディスに捕まったのだ。
そして、いなくなった私を取り返すためフレージアに案内させてこの村までやって来たのだろう。
そこまで見当をつけ、私はベッドから降りた。
「騎士って何人だ?」
「ふたりって聞いたけど」
……ふたり。
(ラディスだけじゃないってことか)
もうひとりが誰なのかわからないが、とりあえず私は一度深呼吸して目を閉じトーラの姿に変身した。
目を開けるとフヌーディが男の姿に変わった私を見て目を丸くしていて。
「藤花?」
フェリーツィアが戸惑うように私を呼んだ。
「オレが行く」
「ダメ!」
ドアの方に向かおうとしたところをフェリーツィアに阻まれた。
鋭い目つきで手を広げ彼女は続ける。
「やっと見つけた貴女を、騎士団なんかに渡すわけにいかない!」
「でも、このままじゃあんたの姉さんが」
「姉さんだって、そのくらいの覚悟出来ているはずだわ」
確かに、彼女たちが聖女として城に潜入するのは相当の覚悟が必要だったろう。
もし聖女がいたとしたら、偽物としてその場で処刑されていたかもしれないのだ。
しかし、そんな厳しい言葉とは裏腹にフェリーツィアの瞳は大きく揺れていて、私は小さく息をつく。
「渡すも何も、オレはレヴァンタ騎士団の見習いトーラだ。まだここに残ると決めたわけじゃない」
「……っ!」
「それに、これ以上『聖女』のせいで誰かが苦しむのは嫌だ」
フェリーツィアがその青い瞳を大きくした。
「フヌーディ、その場所まで案内してもらえるか?」
「え」
急に私から名指しされた彼は最初面食らった顔をしたけれど、すぐに真剣に頷いた。
「わ、わかった!」
フェリーツィアの脇をすり抜け彼の元へ行く。
彼女はもう止めなかった。でも。
「私も行くわ」
振り向くとフェリーツィアがこちらを睨みつけていた。
「でも、あんたは来ない方が」
「そ、そうだ! お前、騎士団の奴らに恨まれてんだろ?」
「行くったら行く!」
そうしてフェリーツィアは私たちを追い越し先にドアを開け出て行ってしまった。
「ったく……」
フヌーディが呆れ顔でそんな彼女を追いかけ、私もそれに続いてその部屋を出た。
本来ならこの時間外は真っ暗なのだろうが、村人たちが手にしている松明の灯りのお陰である程度村の様子が見渡せた。
普段は森の中のとても長閑な村なのだろう。それが今は騒然となっていた。
そんな中を駆ける私たちを、村人たちが不安そうに見送っている。
「結界ってのは?」
隣を走るフェリーツィアに訊く。
彼女は前を向きながらすぐに答えてくれた。
「この村に外の人間が迷い込んだりしないように、幻術でわからなくしているの」
幻術。
この森で不思議なことが起こるのはきっとそれのせいなのだろう。
フェリーツィアが悔しそうに続ける。
「でもきっとそれを姉さんが解いたんだわ。なんでそんなこと……」
「……」
と、先を行っていたフヌーディが足を止めた。
その場には想像よりもずっと多くの村人たちが集まっていて。
「早く仲間を出せ!」
(!?)
そのとき向こうから聞こえてきた怒声はめちゃくちゃ聞き覚えのあるものだった。
「ここにいるのはわかってんだからな!」
(イリアス……!)
騎士ふたりというのは、きっとラディスとイリアスなのだ。
そのときふいに、ラディスの言葉が蘇った。
――あいつ、お前の正体に気付いているんじゃないか?
(もし、本当に気づいてるんだとしたら……)
ぐっと奥歯を噛む。
その間も友人の怒鳴り声は続いていて。
「じゃねーと、この魔女を今ここで叩っ斬るぞ!」
そんな物騒な台詞まで聞こえてきて、私はたまらずその群衆をかき分け前に飛び出した。
「イリアス!」
「トーラ!?」
私の姿を見つけたイリアスが目を見開いた。
そこにいたのは思ったとおり、イリアスとラディス。
そして、フェリーツィアに瓜二つの金髪の女性が後ろ手に縛られ彼らに拘束されていた。




