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男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される  作者: 新城かいり


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男装聖女と魔女の家 4


 まさかの誘いに私がぽかんとしていると、彼女は続けた。


「私も、もうそう長くはありません」

「おばば様、何を!」


 ダフニさんは声を上げたフェリーツィアに優しく微笑みかけ、再びこちらを見た。


「聖女様がこの村を支えてくださるなら、これほど心強いことはない」


 穏やかな口調で、でもその眼差しはこちらを射るように強くて逸らすことが出来なかった。

 私はぐっと拳を握り、なんとか口を開ける。


「わ、私は……」


 でもそのあとが続かないでいると、ダフニさんはふっふっと笑った。


「すぐに答えは出さなくて結構ですよ。よおく考えてみてくださいな」

「……」


 この村で暮らすなんてありえない。私は騎士になるのだ。

 そう言いたいのに、先ほどの「戦争」についてのやりとりが棘のように喉の奥に引っかかって声が出なかった。


「私たちは、ずうっと貴女様をお待ちしていました。でももし、貴女様が元いた世界に帰ることをお望みなら、その方法をお教えすることも出来ます」

「……え?」


 さらりと言われて、瞬間その言葉がちゃんと頭に入ってこなかった。


 ――元いた世界に帰る、方法……?


「え!?」


 何拍か遅れて、私は大きな声を上げていた。


「そ、そんな方法があるんですか!?」


 思わず身を乗り出し訊くと、ダフニさんは小さく肩を震わせおかしそうに笑った。


「ご先祖様が書き記したとされる書物に、それらしき記述が残っているのですよ」

「そ、それ、見せてもらうことはできますか?」


 ――それらしき記述。

 確実ではなさそうだけれど、見る価値は十分にある。


(知りたい!)


 城の書庫にあると思っていた書物に、まさかこんなところで巡り会えるなんて思わなかった。

 寧ろ先ほどの話を聞くかぎり、城の書物よりもこの聖女の血を継いでいるという村に残された記述の方が信用できる気がした。


 その方法を知って、帰るか帰らないかはその後で考えればいい。

 今はただ純粋にその方法が知りたかった。


「勿論構いませんよ。ただ今日はもう遅いですから、明朝、日が昇ってからでも良いですか? それまでにご用意いたします」

「はい!」


 私が大きく頷くと、ダフニさんはにっこりと笑った。


「それでは、私はこの辺りで失礼させていただきましょうかね」


 後ろの女性に支えられ、彼女は椅子からゆっくりと立ち上がった。


「今夜はゆっくりとお休みくださいね」


 そう言い残しダフニさんは部屋を出ていった。



 フェリーツィアとフヌーディの小さな吐息が重なる。


「あんなに元気なおばば、久しぶりに見たな」

「ええ。でも、大丈夫かしら……」


 フェリーツィアが心配そうにドアの方を見つめる。

 と、フヌーディが私を振り返り首を傾げた。


「聖女様は、やっぱり異世界に帰りたいんだ?」

「え……?」


 そうか。

 彼らからしたら私のいた世界が「異世界」になるのだ。


「まぁ、俺としては帰ってくれた方がいいけど」

「フヌーディ!?」


 フェリーツィアが焦ったように声を上げる。

 するとフヌーディはふんと鼻を鳴らした。


「だってそうだろ? 聖女様が騎士になるくらいなら、帰ってもらったほうがいい」

「……」


 私は何も返さなかった。

 ……いや、何も返せなかった。

 戦争で行き場を無くしたという彼の意見は最もだと思ったからだ。


 フェリーツィアがそんな気まずい空気を変えるように私に引きつった笑顔を向けた。


「と、とりあえず聖女様、今夜はこのままここで」

「藤花」

「え?」


 目を瞬いたフェリーツィアに私は言う。


「聖女様って呼ばれるの、慣れなくて」


 ……特に、一時でも聖女様だと信じていたフェリーツィアからそう呼ばれるのは、なんだか落ち着かなかった。


「だから私の名前、藤花って呼んで。フェリーツィア」

「藤花……わかった」


 フェリーツィアはこくりと頷き、そのまま頭を下げた。


「藤花。改めて、貴女の仲間に酷いことをしてごめんなさい。おばば様はああ仰っていたけれど、貴女の大事な人たちに呪いを掛けたのは私だから」


 真摯に謝罪されて、私は小さく息を吐く。


「……すぐに許すことは出来ないけど、事情はわかったから。……私も、さっきは思い切り叩いて、ごめんなさい」


 そう謝ると、フェリーツィアは顔を上げてから首を横に振った。


「私だって、村の仲間が同じ目に遭ったらそいつを許さないもの」


 それを聞いて、こいつやっぱり怖いなと思った。

 でも先ほどまでの怒りは、不思議と消えていた。


「そういえば、バラノスの騎士団もあんたが?」

「いえ、バラノスには私の姉が入り込んだの」

「姉?」


 お姉さんがいるのかと思って、そのすぐ後でハっとした。


「えっ、もしかして、さっき森の中にもうひとりいた?」

「そう。あれが姉。双子なの、私たち」

「双子!?」


 ――そうか。だからか。

 逃げて行ったはずのフェリーツィアが突然背後に現れたのはそういうわけだったのかと合点がいった。


「え、それで、そのお姉さんは?」


 訊くと、彼女の顔が曇った。


「それが、まだ帰ってきてなくて」

「え……」


 ……確か、あのときラディスが彼女を追っていったはずだ。


「ラディスに、捕まった?」

「いえ、それはないはず。あの姉が、普通の人間に捕まるはずが……」


 そんな会話をしているときだった。

 俄かに家の外が騒がしくなった。

 窓の外に、ちらちらと灯りが見える。


「なんだ?」


 それまで黙って私たちの話を聞いていたフヌーディがドアを開け外へと出て行った。

 フェリーツィアがそれを見送りながら不安そうに呟く。


「姉さんが戻ってきたのかしら」


 それから間もなくしてバンっと勢いよくドアが開かれ、血相を変え戻ってきたのはフェリーツィアの姉ではなく、フヌーディだった。


「――き、騎士団の奴らが村に入ってきやがった!」

「!?」




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