男装聖女と魔女の家 3
我慢が出来なかった。
例え、その理由が私のためだったとしても。
例え、彼女たちの先祖が私と同じ世界から来た人間だったとしても。
「最っ悪だ」
「……」
フェリーツィアが私が叩いた頬を押さえ俯く。
慌てたようにフヌーディと呼ばれていた彼が立ち上がった。
「こ、こいつのせいじゃない! これは村の皆で決めたことで」
「フヌーディ黙って。呪いをかけたのは私に間違いない」
彼を手で制しそう言った彼女に、私は低い声で続ける。
「友達や先輩が大変な目に遭った。私がいなかったら仲間の誰かが死んでいたかもしれない」
「……ごめんなさい」
フェリーツィアが俯いたまま謝る。
でも私の怒りはまだ治まらなかった。
「みんな、あんたに憧れていたのに……」
……私だって「魔女」に憧れていた。
フェリーツィアが魔女かもしれないと知って話してみたいと思った。
「なのに、あんたはその好意を最悪なかたちで踏みにじったんだ!」
「これはまた、随分と元気な聖女様だこと」
「!?」
急に入ってきた嗄れた声に驚き見れば、いつの間にか部屋のドアの前に杖をつき腰の曲がった白髪のおばあさんと、その後ろにもう一人、40代ほどの背の高い女性が立っていた。
「おばば様!」
「おばば!」
フェリーツィアとフヌーディが一緒に甲高い声を上げた。
(おばば様?)
そう呼ばれたおばあさんは後ろの女性に支えられながらゆっくりとした足取りで部屋の中に入ってくる。
そんな彼女に急いで椅子を用意しながらフェリーツィアが心配そうに訊ねる。
「なぜこちらに。起きて平気なのですか?」
「聖女様が見つかったと聞いたものでね。寝てなんていられないよ」
笑いながら椅子に腰を下ろしたおばあさんは、ふぅと息をついた後でその細い目を私に向けた。
おそらくは90代。もしかしたら100歳を超えているかもしれない。
その貫禄を前に妙な緊張を覚える。
「はじめまして、聖女様。私はこの村の長老ダフニ。こうして生きているうちにあなた様に会いできて嬉しい限りです」
そうして穏やかに微笑まれて、私はどういう顔をしていいのか分からなかった。
とても優しそうなおばあさんだけれど、この村の長老ということはきっと彼女も魔女なのだろう。
ということは、この人も騎士団に呪いをかけようと決めた一人なのだ。
「……」
私が何も答えずにその細い目を見つめていると、彼女は続けた。
「この子は動けない私の代わりに私の頼みを聞いてくれただけ。責めるなら私ひとりを責めてくださいな」
「おばば様、なにをおっしゃるのです!」
フェリーツィアが悲鳴のような声を上げる。
……なんだか、ちくちくと罪悪感を覚えてきてしまった。
(まるで、こっちが悪者みたいじゃないか)
「私たちはなんとしても聖女様をお守りしたかった。それが、代々受け継がれてきたご先祖様の願いだからです」
フェリーツィアと同じことを言われて、私は思い切って口を開く。
「それでも、騎士団に呪いをかける必要はなかったのではないですか? うちは、レヴァンタ騎士団はなんとかなりましたが、バラノス騎士団は今大変な事になっていると聞きました」
「あんな戦争ばかりしてる国、どちらも滅びてしまえばいいんだ」
「は?」
「フヌーディ!」
私が低い声で彼を見るのと、フェリーツィアが声を上げたのはほぼ同時だった。
そんな中、ふっふっふとダフニさんが笑った。
「この村にはね、聖女様。戦争によって行き場を失った者たちも暮らしていましてね。彼もそのひとりなんですよ」
それを聞いて私は息を呑んだ。
まさか、そんな人たちの住処にもなっているなんて。
(魔女だけじゃないのか……)
「そういうわけもあって騎士団に呪いをかけることに反対する者はいなかったのですよ。騎士団がなくなり戦う者がいなくなれば戦争もしばらくは起きませんからね」
「……っ」
何も言えなくなってしまった。
レヴァンタとバラノスは仲が悪くこれまでに何度も戦争を繰り返しているという。
この世界にはミサイルのような兵器はない。
おそらくは鉄砲や大砲、火薬もないのだろう。
それでも争いに巻き込まれ家族を失い行き場を失う者は少なくないだろうと、向こうの世界の歴史を見ていれば容易く想像出来た。
「聖女様。あなたはなぜ騎士団にいるのです?」
「そ、それは……」
優しい目にじっと見つめられて、私は口籠る。
……元々はあちらの世界に帰るためだった。
でも今は違う。
私は今本気で騎士を目指しているし、仲間と共に切磋琢磨し、そんな毎日に生きがいを感じている。
「聖女様は、戦争がお好きなのですか?」
「それは違います!」
思わず大きな声で否定していた。
好きなわけがない。
戦争なんて私だって大嫌いだ。
平和が一番に決まっている。
するとそんな私を見てダフニさんはにっこりと微笑んだ。
「なら聖女様、この村で私たちと共に暮らしませんか?」
「え……?」




