男装聖女と魔女の家 2
「それは……」
フェリーツィアがバツの悪そうな顔で言い淀み、それが答えなのだとわかった。
(じゃあ、みんなが危ない目に遭ったのは、私のせい……?)
固く握った拳が震えた。
「いつまで経っても聖女様が現れないから、どっちかの騎士団が隠してるんだと思ったんだよ」
フェリーツィアの代わりにそう答えたのはおかっぱ頭の青年だった。
「まさか聖女様自身が男になって騎士団に入ってるなんて思わないじゃんね」
「フヌーディ黙って。私が説明するから」
「へ〜い」
フヌーディと呼ばれた青年は軽い調子で返事をすると近くにあった椅子に腰を下ろした。
フェリーツィアがもう一度真剣な眼差しで私を見つめる。
「ちゃんと最初から説明させて」
「……」
私はそれをただ睨みつけていた。
ショックが大きくて、言葉が出なかった。
「自己紹介が遅れたけれど、私はフェリーツィア。一応、魔女と呼ばれる存在」
(一応……?)
その妙な言い方に眉をひそめる。
「そしてここは私のような力を持った者が住む村」
私は顔には出さずに驚く。
村ということは、それだけの人数がこの森の中に住んでいるということだ。
窓の外は暗くて今その規模はわからないけれど。
(なら、そこの彼も魔女……や、魔法使いなのか?)
おかっぱ頭の彼をちらりと見る。
「私たちは、ずっと前からあなたが異世界から現れるのを待っていたの。なんとしても騎士団より前にあなたを保護したかったから」
「保護……?」
その言葉にさすがに声が出ていた。
保護とはどういうことだ。
こんな拉致のような真似をしておいて。
「聖女の伝説は知ってる?」
「……軽く」
小さくそう答える。
私が聖女について知っているのはラディスから最初に聞いた話と、あとはヴィオーラ亭と城内で耳に入ってきた噂話。
それと最近イリアスから聞いた騎士団との関係くらいだ。
「以前、何百年も前に異世界から現れた聖女は騎士団に守られながらその国に繁栄をもたらした」
こくりと頷く。
「その聖女が最期どうなったかは?」
首を横に振る。
聖女の最期なんて知らない。誰からも聞いていない。
「聖女は最期、国の危機を救うためにその力を使い果たし死んだ」
「!?」
息を呑む。
でも彼女はすぐに続けた。
「――と、伝説ではそういうことになってるわ」
「……え?」
「でも真実は違う」
口に出すのも腹立たしいという顔でフェリーツィアは言った。
「その絶大な力を恐れた国王に殺されたの」
私は大きく目を見開く。
「正確には、国王に命令された騎士の手によって」
(そんな……)
あまりのことに絶句する。
そのとき私の頭に浮かんだのは、つい先日お会いした若い国王様と、そしてラディスの姿だ。
慌てて振り払うが、フェリーツィアの言うことが本当だとしたら前の聖女はそれまで守ってくれていた騎士の手で殺されたことになる。
「だから、私たちは同じ歴史を繰り返さないためにも騎士団より先に聖女を、あなたを保護したかった」
……保護の意味はわかった。
でも、それは彼女の話が真実であるならだ。
「なんで、あんたにそんなことがわかるんだ。伝説の通りかもしれないだろ」
伝説の方もショッキングではあるけれど、まだマシな気がした。
国を守るために死んだなんて、聖女らしい最期とも言えるだろう。
すると、フェリーツィアはそこでなぜか姿勢を正し己の胸に手を当てた。
「私は……私たちは、その聖女の子孫なの」
「……えっ!?」
まさかの告白に一拍遅れて大きな声が出てしまった。
「聖女が殺され、そのときになんとか逃げ延びた聖女の子が隠れ住んだのがこの村の始まりだとされているわ」
……驚きの連続で頭がうまく回らなくなってきた。
(フェリーツィアが、聖女の子孫……?)
ということは、私のように向こうの世界からやってきた者の血を引いているってことか?
「だから私たちは、次に聖女が現れたなら必ず守って欲しいと小さな頃から言い聞かされてきた」
「……」
「なのに、いつまで経ってもあなたは予言の場所に現れなかった」
(予言の場所?)
聖女が現れるという予言があったのは知っていたが、場所まで予言されていたのかと驚く。
(……あれ?)
そこで、頭に何か引っ掛かりを覚えた。
(なんだ……?)
その間もフェリーツィアの話は続いた。
「きっと既にレヴァンタかバラノス、どちらかの騎士団の元にいるのだろうと考えた。だから聖女のふりをして騎士団に入り込み、あなたを探すことにしたの。もし聖女を隠しているとしたら、その時点で私たちが偽物だと気付くはずだもの。……でも、バラノス騎士団もレヴァンタ騎士団もあっさりと私たちを受け入れた」
……そうだ。
ラディス以外はみんな、フェリーツィアが聖女だと信じて疑っていなかった。
みんな、彼女に憧れていた。なのに……。
改めて悔しさがこみ上げてきて、ぐっと拳を握る。
「だからもう、最後の手段に出るしかなかった」
「最後の手段……?」
「騎士団に呪いを蔓延させて、あなたを炙り出す作戦」
パンッと部屋の中に乾いた音が響いた。
私が、彼女を引っ叩いたのだ。




