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船長と魔女  作者: 樹 雅
第1章  魔女の望み
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第11話 船長と報告

ジャンプアウトと同時にFTCから連絡が入った。通信スクリーンに映ったイリーナは、わたし達の顔を見て安堵の息を漏らしていた。

イリーナには申し訳なく思いつつも、それを表に出さないようにしていた。ヴィーはイリーナの顔がまともに見られないようで顔を伏せている。


『ライフォード船長、ヴィー。大丈夫ですか?』

「ああ、何とかね」

『良かった。一時はどうなるかと思いました』


 イリーナは笑顔を見せる。わたしは後ろめたさを感じて、居心地が悪い事この上なかった。


『それで、ライフォード船長。クロワード財閥の件ですが……』

「それは、もういいだろう。レイン達を奪われてしまったから、わたし達にはどうする事もできないよ」


 残念そうにイリーナは、溜め息を付いていた。そして、済まなそうな顔で言う。


『ライフォード船長。良くない知らせがあるのですが……』

「判っている。FTCの依頼を失敗たからね。ペナルティがあるのは仕方が無い」

『そう言っていただけると、FTCとしても助かります』

「で、どう言うペナルティだい?」

『はい。今後、三標準月間のトレイダーとしての営業停止。そして、罰金として一〇〇万の支払いです』


 わたしは首を傾げてしまった。あまりにも軽い処分だった。FTCの依頼は達成すると懐が潤うが、失敗するとペナルティがきつい。

程度によって違うのだが、期日遅れは先方の損失の賠償。それの一〇分の一をFTCへ罰金として支払わなければならない。

 わたしは積荷の損失という言い訳の出来ない大きな失敗を犯している。

本来なら、トレイダーとしての資格を剥奪されてもおかしくは無い。しかも罰金は一〇〇〇万はくだらない額を支払わなければならないはずだったのだが……疑問が口に出てしまった。


「ずいぶんと軽い処分だな」

『ライフォード船長に過失が有ったとしても、それは少ないですから。依頼主の横暴、連合軍との一戦、これは依頼主側の落ち度です。さらに海賊の襲撃と船体の損傷と予測不能の事態が続きました。また、我々FTCの事前調査ミスもあります』


 一つ一つ上げてイリーナは言う。


『本来なら、FTCの落ち度と言うわれても仕方が有りません。ですが……』


 わたしは片手を上げてイリーナの言葉止めた。その先は判っている。


「失敗して、お咎め無しは無理だろう。それは、FTCがトレイダー達に軽く見られる事になる。理由や過失ではない。失敗に対して何の処罰をしないのは良くない」

『その通りです、ライフォード船長』

「良い知らせは無いのかい?」

『ありますよ』


 少し顔を綻ばせてイリーナは言った。


『財閥への賠償はしなくていいそうです。積荷を海賊に奪われたのでは、どうする事もできない。取り返す事も無理だろう。そう返事をクロワード財閥の方から頂いています。また、同行者も迷惑を掛けたとの事で、今回の件は不問にするそうです。それと、連合軍第八二独立艦隊からも謝辞を送ってきました』

「やれやれ、それは助かるな」

『もっとも、クロワード財閥からの苦情は、こちらが有利になる材料が多いですから、財閥としても何も言えないでしょうね』

「そうだな。あんな者を送り込んだ財閥側のミスだ」


 わたしの言葉に同意するように、イリーナは笑って頷いていた。しかし、良く六時間ほどでそれだけの情報を入手し、なおかつ、クロワード財閥と交渉が出来たものだ。FTCの組織力は侮れないと、わたしは改めて実感した。


『もう一つ忘れていました』

「何だね?」

『今回の事でFTCより、ライフォード船長に見舞金が支払われます』

「どうしてだね?」

『ヴァルキリアの損傷に対してです』


 わたしはまた、首を傾げてしまった。船の損傷に対して見舞金を出す? 

これはわたしの落ち度で、FTCには関係の無い事のはずだ。それに、どんな依頼でも船の損傷に対してはトレイダー自身が負う事となっていたはずだが?


『ヴァルキリアは秀麗な船です。キズついたままでは、いけません』


 きっぱりと言い切るイリーナだった。


「もしかして、君が上に掛け合ってくれたのか?」


 驚いてしまった。そうでなければ、考えられない事だった。


『いいえ。FTCにとってトレイダーとその船は、かけがえのない財産です。FTCの依頼で船体が損傷を負った時は、全て見舞金を出す事になりました。いや、出させます』


 力強く言うイリーナに、わたしは感謝するしかない。


『今後の事ですが、このままグランデル星系へ向かってください。そこで、クロワード財閥の担当者が待っています。報告と事後処理をお願いします』

「解かった」

『そして、今回の件の報告書を近日中に提出して下さい』

「了解した。その後は、船の修理にアスディース星系まで足を運ぶ予定だ」

『解かりました。では、ライフォード船長、ヴィー。良い航宙を』



 


予定より一日半遅れでヴァルキリアはグランデル星系に到着した。

もう少し早く到着する事も今のヴァルキリアでも出来たが、そこまでして急ぐ必要もなかった。わたしとヴィーは簡単な補修作業をしながらのんびりとしていた。

クロワード財閥の担当者との待ち合わせは、グランデル星系主星グランの中継ステーションだった。

入港と同時に担当者は連絡をよこしてきた。少し蒼い顔は、ヴァルキリアの損傷を見たからだろう。外から見ればヴァルキリアは、ボロボロに見えるはずだから。


 ステーションの一角で、わたしとヴィーは、クロワード財閥の担当者と直接顔を合わせる事となった。

クロワード財閥の担当者は、いかにもビジネスマンといった風情で、荒事とは無縁に見えたが、それは上辺だけだと見て取れた。


「申し訳ありません。荷をお届けする事が出来なくて」


 わたしとしては、こう言うしかない。ヴィーも一緒に頭を担当者に下げていた。


「いえいえ。海賊に襲われて、命があっただけでも良かったではないですか。わたしは第一報聞いた時、あなた方の事は諦めていました」


 とんでもないと言うように担当者は、首を振りながら言っていた。その言葉にわたしは乗っかる事にした。


「わたしも、もうだめだと思いましたが、タイミング良くFTCから連絡が入り、そのまま海賊との交渉に入れましたから。わたしが無事だったのは、FTCの交渉力のおかげですよ。本当に連絡が無かったらと思うと、身も凍る思いです」


 解かりますと言うように担当者は頷いている。


「残念な事ですが、積荷の事は上も諦めると言っています。そればかりか、うちの者が船長に大変なご迷惑をおかけしたようで、大変申し訳なく思います」

「恨み言を言う訳ではありませんが、あの者の行動が無ければ海賊から逃げられていたかもしれません。わたしに油断が無かったとは言いませんが、連合軍との事が無ければ、あそこまでは油断はしていませんでした」

「おっしゃる通りです。我々、クロワード財閥としても驚いています。まさか、あそこまでするとは思ってもいませんでした。それで、船長にお願いがあるのですが……」


 幾分済まなそうに担当者は、ファイルを差し出した。


「今回の件は、上に報告をしなければなりません。それで僭越ながら、私共の方で報告書を作成してまいりました。お読みいただいて、同意いただければこちらにサインを頂きたいのです」

「手回しの良い事ですね」


 わたしは驚いて見せてファイルを受け取っていた。

二日半もあれば、そのくらいは出来るだろう。FTCからの経過報告書もすでに届いていし、わたしも報告書をFTCに提出をしていた。


「二日半もあれば、時間は十分ですから」

「これは、今ここで?」

「いいえ。十分に確認して頂いてからで結構です。出来ればライフォード船長が、ここを発たれる前までにお返しいただければ、それで結構ですので」

「解かりました。補修と補給がありますので、一両日中にはお返し出来ると思います」

「では、申し訳ありませんが、よろしくお願いします」


 クロワード財閥の担当者は、丁寧に頭を下げながら出て行った。その後ろ姿を見ていたヴィーが、思わずと言ったように呟いていた。


「腰の低い人だね……」


 わたしは笑ってしまった。

ヴィーは気がつかなかったようだが、話している間は瞳が笑っていなかった。そして、報告書を出した時は鋭い恫喝を含んでいた。わたしも同じ様な瞳で担当者を見ていたのだから、お互い様なんだろう。


「笑っていたが、上辺だけだよ」

「?」

「瞳が笑っていなかった。しっかり恫喝して行ったな。まあ、わたしも同じ事をしていたからね。腹の探り合いみたいなものだよ」

「大変だね、船長」


 しみじみと頷きながら言うヴィーに、わたしは笑ってしまった。

 わたし達はヴァルキリアの修理と点検のため、この後、アスディース星系まで足を伸ばす事にしている。少し気が重かったが、修理のためには行かない訳にはいかなかった。




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